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17話 サル退治

 サルとゴリラを相手取った戦いは意外と苦戦を強いられた。武器を持ったサルを狙うと必ずゴリアテが間に入り盾で防ぎ、そして出来た隙を突いてサルが攻撃してくる。二人の息は合っておりなかなかのコンビネーションだ。


「何だ? 威勢が良いのは口だけか?」


 そしてこの挑発である。苛々してしょうがない。


「っさいな……サルめ……」


「あぁ? 何だって? もっと大きな声で言ってくれなきゃ聞こえねーよ!」


 このクソザル……! 

 僕は更に力を込めて攻撃を繰り出すが全て防がれる。まったく何だって言うんだよ!


 何回か攻撃を繰り返した時、遂に相手の矛を喰らってしまった。急所はなんとか回避したのだが、右肩に深々と矛が突き刺さる。右肩に焼かれた鉄の棒を捻り込まれた様な痛みと熱さが走り、思わず膝をつき手から刀が落ちる。


「こりゃいけねーちんたらしてるから刺さっちまったぜ」


 サルは笑いながら肩に刺さった矛を引き抜いた。矛が抜けると同時に大量の血が吹き出す。


「出雲!!」


 いつの間に店から出ていたのか咲妃が悲鳴に近い声を上げる。

 参ったねこりゃ、愛莉歌と柚姉に怒られる……。


「はん! このアマ片付けたら次はお前たちだ!」


 サルが血に染まった矛をロッタ達に向けるのが目に入る。

 ダメだ、そんなことさせてたまるか!

 力が入らない膝に無理矢理力を込め落ちた刀を左手で拾う。


「おいおい無茶すんなよ、じっとしてりゃ楽に殺してやるからよ」


 サルの下品な笑い声をガン無視して睨みつける。


「おお怖い怖い。ま、そんなヘロヘロじゃ大振りな攻撃じゃなくても防げるか」


 そうか、何で攻撃が防がれるのかようやくわかったよ……。挑発されて怒りに任せて振るっていたから攻撃が大振りになっていたんだ。

 オークロードと同じ事をしてしまうとか……僕もまだまだ精進が足りないな。


 サルに教えられ僕の顔には笑みがこぼれる。


「ああ? 何笑ってやがる? 痛みで狂ったか?」


「いやいや、わざわざ欠点を教えてくれるとか、どんだけバカなサルだと思ってね」


 僕は答えながら刀を正眼に構える。


「ぬかせ! この死に損ないが!」


 サルが叫びながら突っ込んでくる。冷静になってみるとなんて直線的な攻撃だろう。よっぽど頭に血が上っていたんだろうな。

 全身の力を抜き相手の攻撃を待ち受ける。


「左手一本で何が出来るんだよ!!」


「左手一本でも出来る事はあるさ」


 矛先が鋩と合わさる時、力を込めずそっと流す様に左に振るう。すると川の流れの様に自然な動きで矛が僕の左側へと流されていく。


「な!」


「皐月流・返し 流水」


 左に流した矛の上を僕の刀が走る。突進の勢いを殺せないまま突っ込んできたサルの顔面にそのまま振り抜く勢いで叩き付けた。当然峰撃ちだ。


「ごめんね、僕って刀とかは左利きなんだ……って聞こえてないか」


 僕は白目をむき鼻から血を流して気絶しているサルに向って話しかけた。この鼻の状態だと折れているかもね。ついでにちょっと邪魔だったので蹴飛ばして横に転がしておく。

 書いたり食べたりの日常生活では右利きなのだが、スポーツや武道に置いては何故か左利きなのだ。中途半端と言うかなんというか。まぁスポーツ選手でも“右投げ左打ち”の人もいるし、別に不思議って程不思議じゃないのかな?


「これって、何でも貫き通す矛なんだよね?」


 刀を地面に刺し落ちていた矛を拾い矛先をゴリアテに向ける。ゴリアテはピクリともせず盾を構えている。


「ふ~ん、無視するんだ。それじゃ無言の肯定って事でちょっと試してみようか?」


 僕は矛を構え直しゴリアテに向って間合いを詰める。動く度に右肩が痛いがここは我慢だ。


「スパイラルエッジ!!」


 左手で構えた矛で剣士の槍スキルを発動する。高速回転する矛がゴリアテの構える盾に吸い込まれ行く。片手でしか持っていない矛が高速回転とかスキルって本当に便利だわ~。

 盾に当った瞬間に左手に強い抵抗を感じるが、気にせず押し込む。すると盾の方が先に根負けをし始めた。徐々にだが矛が盾に食い込み始める。そしてある時を境に一気に抵抗が無くなった。


「もらった!」


 さらに力を込めゴリアテあと少しと言う所で無理が祟ったのか矛の柄がポキリと折れてしまった。


「おやおや、折れちゃったよ。なんでも貫き通す矛なのにね」


 手に持っていた折れた柄を投げ捨てるとゴリアテの方も盾を投げ捨てた。矛先を見るとかなり潰れていて最早使い物にならないだろう。

 盾を捨てたゴリアテはゆっくりとこちらに歩いてくる。左手一本で戦う事よりも右肩からの出血がヤバイ。

 けど、まぁ向って来るならやるしかないか。

 僕はバックステップで距離を取ると地面に刺している刀を手に取った。しかしゴリアテは僕を完全にスルーして気絶してるサルを片手で抱えるとそのまま背を向けて歩き始めた。


「なにさ、謝罪の言葉すらないの?」


「……すまなかった」


 あらやだ、冗談で言ったのにゴリアテさんが素直に謝っちゃったよ。どうするのこれ?

 次の言葉が見つからず口をパクパクしているとゴリアテが体ごと振り返った。


「……強いな。あんた」


「“あんた”じゃない出雲だ。今度はちゃんとやってみたいよ、ゴリアテさん」


「……ふっ考えておこう。またなイズモ」


 そのままゴリアテは振り返る事もなく街の喧騒の中に消えて行った。

 向いの店に戻る訳じゃないんだ。まぁそのまま店に帰ったら『私は関係者です』って言っているようなものか。


 ゴリアテ達の姿が見えなくなると安心したのかドッと疲れが押し寄せて来た。具体的には膝が笑い立って居られない程だ。刀を杖替わりにしようとするが、左手にも力が入らない。


「あ~まいった」


「出雲! 大丈夫!!」


 正直諦めかけた時、不意に左側から体を支えてくれる人が現れる。

 咲妃だ。

 傷に触らないように僕をロッタの店まで引きずってくれる。魔法使いだし、僕を抱える程の力はないのだろう。


「柚葵さんには連絡したから、もう少し頑張って!」


 咲妃は何処から持ってきたのか布を一枚手に取ると傷口にきつく結びつけた。止血の変わりだろうか。


「いや~最初の冒険から波乱万丈だね。咲妃」


「もう! そんなこと言っている場合じゃないでしょう!!」


 怒られた。僕としては場を和ませようとしただけなんだけどな……。


「あぁ、どうしよう……血が止まらない……」


 咲妃が一生懸命押さえてくれているが僕の血は一向に止まる気配を見せない。どうやら本人と違って血はアクティブのようだ。


「嬢ちゃん、これ血止めの薬だ使ってくれ」


「布も足りないだろう? これを使っておくれよ」


 何時の間にか観戦していた街の人たちが色々と持って来てくれている。その中にはロッタの姿も見て取れる。


「あの……いいんですか?」


「いいに決まっているさ。奴等アンドリューの所のチンピラだろう? 奴等にはこっちも迷惑していたところだ」


「いきなりこの街に来たと思ったらミランさんの店をこんなにしちまってね。本当に、なんて奴等だよ!」


 どうやらアンドリューと言う奴は相当悪いことをやっているようだ。そんな手下に勇敢にも立ち向かった僕はここの人達にとってはヒーローなのかな? 自惚れが過ぎるか。


「ありがとうございます。ありがとうございます!」


 咲妃が懸命に頭を下げながらご近所さん達にお礼を言っている。僕の手当は変わりにロッタがやってくれるようだ。


「いや~逆に迷惑かけちゃったね……」


「そんな事ない! 貴女には助けられてばっかりで……」


 ロッタは両目に涙を溜めながらも力一杯傷口を抑えてくれる。その手が僕の血に塗れようとも押さえる力は衰えなかった 、むしろ強くなった様に感じさえもした。


「そっか……林の中を走った甲斐は、あったってこと……かな?」


 薬が効いて来たのかすっごく眠くなってきた。


「イズモさん? 大丈夫ですか? イズモさん!?」


 ああ、ロッタの声が遠くに聞こえる……ダメだ、瞼も重く……なって……きた。


「サキさん! 大変です、イズモさんが!」


 ロッタと咲妃が何か言っているような気がしたが襲い来る睡魔に勝てず、僕はそのまま眠りについてしまった。


☆★☆★☆★☆★


 微かに漂うおいしそうなニオイが僕の意識を浮上させる。うっすらと目を開けるが入ってくる光の眩しさに顔を顰めてしまう。

 えっと、何があったんだっけ? 確かサルを退治してゴリアテといい感じでバトル漫画の様なやり取りをした後……あ~確かロッタと咲妃が手当てしてくれて……眠くなったから寝たのか。

 目に入ってきた光景を見る限り宿屋ではなさそうだ。もっとこう生活環が漂っている感じがする。

 情報を整理しながら、さっきまでに起った事を思い出そうとする。

 それにしても、これはあれだな……一応言った方がいいのかな? それが形式美と言うやつ何だろう。しかし、いざ言おうとすると恥ずかしいな。でも今じゃなきゃ言えないセリフだし……よし、言おう!


「……知らない天井だ」


「あ、目が覚めましたか?」


 勇気を振り絞って放った言葉は見事にスルーされた。

 そうか、咲妃は年代が合わないのか。いや、五歳差だろう? そんな訳は……アニメを見なかったのかな?


「柚葵さんが間に合ってよかったです。私、皆に知らせてきますね」


「あ、うん。お願い?」


 一人考えていると咲妃はそのまま皆を呼びに行ってくれた。柚姉の名前が出たからどうやら柚姉が治療してくれたんだろう。


 その後料理を片手にパーティメンバーが全員集まりあれから起こった事を説明してくれた。

 僕が寝てしまってからほんの少し経った後、柚姉と愛莉歌が到着した。そして柚姉は僕の怪我を診ると直ぐに治療魔法をかけてくれたそうだ。そしてさっきまでロッタが寝ていた布団、今現在は僕が寝ていた布団まで運んでくれた。


 実際に運んでくれた愛莉歌は無言で店をでて向かいのアンドリューの店に殴り込もうとしたところを咲妃とロッタに止められたとの事。心配して仇を討ってくれようとしたことは嬉しいけど、女の子何だからもう少し自重して欲しいよ。


 何とか愛莉歌を宥める事に成功した柚姉達は宿を探そうとしたらしいが、僕がこんな状態だったしロッタの方から泊まっていって欲しいと頼まれた為、お世話になることに。そして今ちょうどご飯が出来たところで僕が目覚めたらしい。


「イズ君は傷は塞がったけど、血を大量に流したからしばらく安静ね」


「は~い」


 柚姉に叱られながら焼けた肉にかぶりつく。食欲があることは良いことだ。


「それなら完治するまで皆さん泊まっていって下さい、何にも無い所ですけど」


 ロッタがそう提案してくれた。正直に言うと願ったり叶ったりだ。この家には専用の炉や道具が揃っている。みんなの装備を整えるにはもってこいの場所だ。

 皆にこの事を話すと全員賛成してくれた。でもタダで泊めてもらうのも気が引ける為宿代を支払う事にしたのだが、ロッタが受け取ろうとしなかった。

 最終的に説き伏せて何とか受け取らせたが、宿屋の相場よりだいぶ安い金額になってしまった。


☆★☆★☆★☆★


 夕飯を食べ終えた僕は皆が片付けているのを見計らい、お店の方へと移動した。多分まだあると思うけど……。


「絶対安静の怪我人が何しているのよ?」


 暗闇から急に声をかけられ、驚いて後ろを振り返ると、見慣れたツインテールが目に入る。


「何だ、愛莉歌か。驚かさないでよ」


「イズ姉ぇが変なことしないか見に来てあげたのよ。それで? 怪我人さんは何をしようとしてたのかな?」


 言い方は優しいが目が笑っていない。まったく、心配しすぎなんだよなぁ柚姉も愛莉歌も。


「別に。ただ、さっきの盾と矛が気になったから回収しようと思っただけだよ」


 素直に白状すると愛莉歌の顔が不機嫌なものになる。素直に言ったのに何でだ?


「それで夜にフラフラと出掛けようとしたわけ? もう少し自分の体を労ったら?」


 愛莉歌は溜め息混じりに言うと店の奥に歩いていく。そして折れた矛の柄と矛が突き刺さった盾を持って戻ってきた。


「イズ姉ぇがそう言うと思って回収しておいてあげたわよ。まったく、感謝しきゃっ!」


 愛莉歌のセリフを言い終わる前に僕は愛莉歌を抱き締めていた。さすが愛莉歌さんだ!


「ありがと! さすが僕の自慢の妹だよ!」


「ちょっと……何で妹なのよ……バカ」


 文句は言ってくるが僕から離れようとしない。うんうん、愛い奴よ。

 しばらく抱き締めて頭を撫でまわしていると後ろから視線を感じた。振り向くと咲妃とロッタが顔を赤くしながら見ていた。

 うん、絶対誤解しているね。あの顔は。


「あの……お茶の準備が出来たので呼びに来たのですが……お邪魔でした?」


「愛莉歌ばっかし狡いわ……私だって出雲と……」


 遠慮がちに話すロッタの声は何とか聞こえたが、咲妃の声はほとんど聞こえなかった。何て言ったのだろう?

 お茶の前に説明しなきゃなぁ……。

 これから起こることを考えると自然に溜め息が出た。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差


愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド


咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???

装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)

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