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16話 ハッグの街の鍛冶屋

 悲鳴を辿りながら林を移動すると数匹のオークが女性を襲おうとしていた。


「マズイよ! イズ兄ぃ!」


「わかっているよ!」


 わかってはいるけど……くっそ、ダメか!

 走る速度を上げるが間に合いそうにない。諦めかけたその時、後ろから僕をかすめるように何かが飛来した。それは一直線に棍棒を振り上げているオークの右腕に突き刺さる。

 突き刺さったものをよく見ればそれは一本の矢だった。


「止まるな! 行け!」


 後ろから声を掛けられ落ちかけたスピードを再度最高速に上げる。そして間合いの少し手前で刀に手を掛ける。


「皐月流・居合 朧!」


 右手で振り抜いた刀が振り上げたままのオークの右腕と首を一刀の名の元に切り落とし、そして数瞬遅れて血が吹き上がる。周りを見ると愛莉歌は既に別のオークを殴り飛ばしていた。

 それから弓矢による援護を受けながら物の数秒でオークの集団を狩る事に成功する。


 僕は動くものが居なくなったのを確認してから刀を鞘に戻し倒れている女性に駆け寄った。気絶していた女性は少女と言った方がいい位の若い子だった。

 起こそうと体を揺するが一向に起きる気配はない。しょうがないので背負って馬車まで戻る事にした。このままここに放置するわけにも行かないしね。ちなみに狩ったオークは愛莉歌が全て回収してくれていた。



「まったく、二人だけで飛び出すとか無茶をする」


 少女を抱きかかえながら馬車へ戻ろうとすると《深緑の狩人》の一人であるイケメンエルフのハイルさんが声を掛けてきた。僕達が乗る馬車に一緒に乗っていた人だ。左手に弓を持っているところを見ると援護してくれたんだろう。

 立ち止まって話そうとしたが、歩きながらでいいと言ってきた。早く馬車へ戻る為だろう。


「でもあの時走ってなかったら間に合いませんでしたよ」


「そうだな。だが、今俺達は別のクエストを受けている。依頼主を置いて別の戦闘に行くのはちょっといただけないかな」


 ハイルさんは苦笑いをしてくる。まぁ言っていることはわかるけど。


「それじゃこの子を見捨てればよかったの?」


 愛莉歌が思いのほか強い口調でハイルさんに質問する。顔は見れないけど多分怒っているんだろうな。


「そうだな……見捨てろまでは言わないが、一言依頼主に言ったほうが良かったな」


「それじゃ間に合わないじゃない!」


 愛莉歌が吠える。今回は本当にギリギリだった。もし依頼主に確認を取っていたら間に合わなかっただろう。愛莉歌が言いたい事はわかるが、


「それでも今の俺達の依頼主はギャネットさん達なんだ。今この瞬間にも彼らが襲われていたらどうする? 残っている仲間が助けてくれると言うのかい? 何も言わずに飛び出して仲間さえ混乱させていると言うのに?」


 ハイルさんの言っている事は正論だ。正論過ぎて僕達は何も言い返せない。


「すみませんでした。今後は自重します」


「……ごめんなさい」


 僕が謝ると愛莉歌も消えそうな程小さな声で謝った。ハイルさんは「俺も人の事は言えない」と笑いながら言ってくれた。それでもギャネットさんには声を掛けてからこっちに来たのだろう。

 僕達は少し速足で馬車へと戻った。馬車に戻った僕達はギャネットさんに怒られるかと思ったけど意外と笑顔で許してくれた。人命優先なのはわかるけど次からは注意するようにと言葉を貰って。ギャネットさんが良い人で良かった。


☆★☆★☆★☆★


 気絶してしまった少女はそのまま馬車へ乗せ一同はハッグの街を目指す。僕達が飛び出すと言うアクシデントに見舞われたが、予定時間を少し過ぎる程度で街には到着した。


「さて、護衛クエストご苦労様でした。護衛はここまでで結構ですので皆様は冒険者ギルドへ向かってください」


 馬車を街の入口に止めるとギャネットさんがクエストの終了を宣言した。ついでに完了証をパーティに一枚ずつ渡していく。これを持っていくとギルドで報酬を貰えるそうだ。

 それから馬車は商業区の方へと向かっていった。気絶していた少女は未だに目を覚まさない為僕が背負っている。力仕事だからと申し出たのだが、背負っている少女の方が大きく、目覆い被さっているように見えるだろう。これは早々にどこかに連れて行った方がいいだろうか?


「ロッタちゃんかい?」


 少女を背負いどうしようか相談しようと思っていたところにこの街の住人だと思われる老婆から声を掛けられる。“ロッタ”と言う名前に心当たりがないので多分この子の名前だろう。


「お婆さんこの子知っているの?」


「知っているさね。この子はこの街の鍛冶師の娘さんだよ。そう言うお嬢さん達は誰だい?」


 柚姉が僕達の説明とこの子の状況を説明してくれた。流石リーダー、柚姉がリーダーで本当に良かったよ。


「そうかい……そんなことが……」


「お婆さんとりあえずこの子の家に案内してくれますか? いつまでもこのままじゃかわいそうですし」


 お婆さんが納得したところを見計らって質問をした。僕だっていつまでも女の子を背負っている訳にはいかない。お婆さんもそう思ったのか快く案内を承諾してくれた。

 全員で行くのもあれなので僕達は二手に分かれることにした。少女を送っていくのに僕と咲妃が、クエストの報酬を受け取りに行くのを柚姉と愛莉歌に頼んだ。報酬の受け取りはリーダーが良いだろうと言う考えと柚姉の護衛に愛莉歌を付けた形だ。


「それじゃここでお別れだね。ウチ達も暫くこの街を拠点にしているから何時でも声を掛けてよ」


「またね。イズモ」


 移動に移る前に《デザートウルフ》の人達に挨拶をする。と言ってもケーラとリズだけなんだけどね。アーロンさんとダリウスさんはそんなに話してないから軽く頭を下げるだけにしておいた。

 《深緑の狩人》の人達はこのままギャネットさん達について行くそうだ。


 お婆さんに案内されながら一緒に職人区を歩いていく。アルス・テルスと同じく中世ヨーロッパの街並みが続いている。唯一違うところは運河が無いところか。


「さぁ着いたよ。今ドアを開けるからね」


 お婆さんはそう言うと家の裏へと向かった。

 目の前に建っている家はおっちゃんの工房と同じ作りをしている。違う点は全体的に薄汚れており、店を開けていない所か。

 家を眺めていると内側から鍵が開く音が聞こえ、ドアが開かれる。


「さぁ入っとくれ。といってもあたしの家じゃ無いんだけどね」


 お婆さんは笑みを浮かべながら店の中へ消えていった。お婆さんに続いて店の中に入るときれいに整頓された商品棚が並んでいる。しかし肝心の商品が少く、営業をしていたかどうかが怪しまれる。


 店舗の奥が居住スペースとなっており、とりあえず居間と思われる部屋にロッタを寝かす事になった。部屋へ寝かせた後、僕は残っている商品を鑑定する事にした。

 残っていた武器は片手剣が二本、大剣が一本、槍と戦斧が一本ずつ。防具は盾しかなく、バックラー等のスモールシールドが数点にラージシールドが一点。とてもじゃ無いけどこれでは営業出来ないだろう。

 数はさておき武具の性能だが、中の中から中の上辺りだろう。悪くないが驚くほどの高性能でもない。いわゆる街装備として平均的な性能だと思う。

 そうなるとここまでお店が寂れる理由がわからない。


「出雲、彼女が目を覚ましたわ」


 しばらく片手剣を眺めていると咲妃が呼びに来てくれた。

 考えてもわからないし、本人に直接聞いた方が早いか。

 僕は持っていた武器を棚に戻し彼女が寝ている部屋を目指した。


★☆★☆★☆★☆


 部屋に戻るとロッタがお婆さんに肩を支えられながら起き上がっていた。


「あ……」


「具合はどう?」


 ロッタと目が合うと勢いよく頭を下げてきた。


「危ない所を助けて頂いたそうで……ありがとうございました」


「うん、どういたしまして。怪我は無い?」


 僕の問い掛けに元気な声で返事をする。見た感じ大丈夫そうだな。良かった。

 それから全員で自己紹介をした後、状況の確認を行った。色々と気になる事があったしね。


 何故林の中に居たかというと、武器の素材となる鉄鉱石等を採取した後に襲われたそうだ。街道まで出れば良かったのだが、急いで帰る為に林を突っ切って来る道を選んでしまったそうだ。“急がば回れ”を身をもって体験した形になるね。

 彼女が素材を採取しなければならなかった理由は彼女の父親、ミランが関係している。

 彼はこの街でも一二を争う腕の持ち主だったのだが、大病を患い入院してしまった。家に有るだけのお金を集めたため、なんとか退院迄の費用は工面出来たという。しかし文字通り全財産を使ってしまった為、ロッタが生活する分が無くなってしまった。そこで父親作り置いてあった武器を売りつつ、自分でも作れる様に頑張っていたという。しかし在庫も素材も底を尽き仕方なくロッタ自身が採取をする事となりその帰りで、


「運悪くオークに襲われたと」


「はい……」


 なるほどね、状況がわかったよ。それにしてもあの店舗の規模ならばまだ尽きる事は無いと思うけど……。


「それは向かいに来た人達が……」


「邪魔するぜ!」


何かを言い掛けたロッタの声を遮る様に明らかに柄の悪い声が店内に響いた。その声を聞いた瞬間ロッタの顔色が急激に悪くなる。

 何か理由がありそうだね。

 起き上がろうとしたロッタを手で制し僕が変わりに店舗へと顔を出した。


「いらっしゃいませ」


「おう! 店主出せや!」


 店には二人組の男が息巻いていた。真っ先にこちらに声をかけてきた男は小柄で猿顔の男だった。その騒がしい猿の後ろには大柄でゴリラそっくりな男が静かに佇んでいた。

 こいつらがロッタが言い掛けた向かいの人達って奴かな? ここは怒らせないで丁寧な対応を心掛けよう。そしてなるべく情報を収集するんだ。


「申し訳ございません、当店は人間用の武具を扱っておりますゆえ。サルとゴリラ用の武具はございません」


「俺らは人間だコラ! なめてんのか? あぁ?」


 丁寧に頭まで下げたのに何故か怒らせてしまった。何が悪かったのだろう?


「おう嬢ちゃんよ、ふざけてね~でさっさと店主出せや!」


「店主のミランは生憎外出中でして、戻りましたら連絡しますので檻の中で大人しく御待ちいただけますか?」


「だ・か・ら! 俺らはサルでもゴリラでもねぇ!! いい加減にしねぇとひん剥いて犯sゴフ!」


 ヤベ、やっちった。

 サルの鳴き声が聞くに耐えなかったのでついつい手が出てしまった。


「申し訳ございません、お腹辺りに虫が飛んでいたのでつい……」


 これでなんとか誤魔化せるだろう……ダメかな?


「嘘つけやコラ!」


 ダメでした。もういいや、めんどくさい。お引き取り願おう。


「さっきから黙って聞いていればキーキーうるさいサルだなぁ。店主は居ないと言っているんだ。さっさと檻へ帰れ、獣ども!」


「このクソアマ! ついに本性を現しやがったな! 表出ろ!」


 このサル一体いつの時代のサルだろうか? 捕まえて売れば少しはお金になるかな?

 最初にゴリラが、次いでサルが店から出ていく。何か面倒な事になったなぁ……愛莉歌来ないかな。


「どうしたオラ! 怖気づいたのか? あぁ?」


 一向に出て行かない僕に向って外からサルが何か騒いでる。何て言うかチンピラだね。言葉使いも悪いし。

 とりあえず武器を装備してから店から出る事にした。外にはそろそろ日が暮れる時間なのにキーキー騒ぐサルが珍しいのか結構な人が集まっていた。皆暇なのだろうか?


「オラ! かかってこいや!!」


 サルはいつの間に取り出したのか一本の棒を構えていた。いや、棒の先に刃物が付いてる……槍かな?


「この矛はそんじょそこらの矛じゃねーぞ! ここの鍛冶師であるアンドリューの旦那が鍛えた“どんなものも貫く矛”だ!」


 へ~矛なんだ? ってかあのサルなんて言った?


「へっどうやら驚きで声も出ないようだな。だがな! 驚くのはまだ早いぜ!! おいゴリアテ! お前のも見せてやれ!!」


 ゴリアテと呼ばれたゴリラは後ろに背負っていた盾を正面に構える。


「この盾はな!」


「“何も通さない盾”とか言わないでよ」


「何でぇ知ってるのか! そうともこの盾は同じくアンドリューの旦那が作った“何も通さない盾”だ!!」


 あ~頭が痛い……僕はこんなのと戦わないといけないのか……。

 思わず頭を抱えて蹲ると勝ち誇ったようなサルの声が聞こえて来る。

 とりあえず、お決まりの質問でもしてみようか。


「それじゃその矛と盾が戦ったらどっちが勝つの?」


「てめぇはバカか? 俺が矛、ゴリアテが盾を持っていれば戦う必要がねーじゃねーか!!」


 ここで少し悩めば可愛げがあるのに、サルは自信満々に答えてきた。

 サルめ、無駄に猿知恵を働かせやがって。


「さぁかかってこいや!!」


 サルは自慢の矛を構え高らかに吠える。マジか~こんなバカと戦うのかぁ……。

 僕は嘆息しながらも腰の刀を抜いた。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差


愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド


咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???

装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)

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