15話 夜営
食事が終わると護衛クエストを受けている全員が集まって見張りの順番を決める事になった。
現在は二十一時、夜の九時だ。夜明けは翌朝六時なので九時間の見張りという事になる。
「《深緑の狩人》の人達は昼間頑張ってくれたし、明日も頼るから夜は免除でもいいじゃないか?」
《デザートウルフ》の剣士の一人アーロンさんが提案してきた。まぁ移動中も前後の見張りをしてくれているから言っている事は一理あると思う。
「俺達は一向に構わないがな」
「ああ。元々そう言う生活に慣れているし、君たちよりもパーティランクは上なのだからそれくらいはやってもいいと思うぞ」
深緑の狩人のエルフ二人は全然問題ないと言い張る。むしろやる気満々だ。
その後、各パーティのリーダー同士が相談し《深緑の狩人》の二人は昼間に備えてもらって、夜営は僕達《トリニティ・ノヴァ》と《デザートウルフ》で行う事になった。
「さて、どう分けるか」
先程のアーロンさんが僕達をぐるりと見渡して呟く。どうやらこの人が《デザートウルフ》のリーダーの様だ。
「女の子が六人いるから三人ずつ分かれてもらって、俺たちは二人で良いだろう」
もう一人の剣士の人が提案してきた。
それにしても女の子が六人って……。柚姉だろ、愛莉歌、咲妃、ケーラ、リズで五人。じゃ残りの一人って……。
「ダリウスの言う事も一理あるか。皆はその方向で構わないだろうか?」
「私達は大丈夫です」
指折り人数を数え、衝撃の事実に戦慄が走っている内に話し合いはトントン拍子に決まって行った。
「柚姉大変だ」
アーロンさんとダリウスさんが自分たちのテントに戻っていくのを見送りながら僕は気付いてしまった事実を告げるために柚姉を呼び止めた。
「どうしたのイズ君。お姉ちゃんが恋しくなっちゃった?」
そう言うと柚姉はノーモーションで僕を抱きしめてきた。何て言うかこういう動作だけ人間離れしている。
僕は二つの宝玉に包まれながらも否定の言葉を吐く。
「違うよ……あ、いや全てが違うわけじゃなくて……」
否定しようとすると泣きそうになるので慌てて自分の言葉を否定する。そのため一向に話しが進まない。
「もう! そうじゃなくて、柚姉大変なんだ!」
「何が大変なのよ。てかさっさと離れなさいよ!」
騒いでいる僕達の側に愛莉歌と咲妃が近付いてきた。柚姉の胸に顔を埋めているのが気に入らなかったのか愛莉歌は僕の襟を掴むと力任せに引っ張ってくる。
ああ、理想郷が……。おっと今はそれどころじゃなかった。何故なら、
「アーロンさん達見えない人が見えてるよ!」
「はぁ~?」
「それは……」
「どう言うことかしら、イズ君」
驚く三人にさっき確認した事を説明していく。五人しか居ない女の子を六人だなんて……お祓いが必要かもしれない。
必死に説明していくと、最初に愛莉歌そして咲妃、柚姉の順番でため息をつかれた。人が必死で説明しているのに!?
「安心していいよ、イズ姉ぇ。最後の一人は目の前にいるから」
なんだって!? 愛莉歌にも見えているのか!これはいけない、早くお祓いしないと!
「最後の一人は……イズ姉ぇだよ」
愛莉歌が僕を指差す。
愛莉歌さんや、何をバカな事を。僕が男だとリズとケーラが説明しているだろうに。それに人を指差しちゃいけないって教わらなかったのか?
僕は勝ち誇った顔で指摘すると順番を決める為に来たケーラとリズが声を描けてくる。
「え? ウチら別に説明とかしてないよ」
「しなくてもわかると思ったから……」
…………マジ?
僕の視線を受けた二人は揃って首を縦に振る。
僕はそのまま膝から崩れ落ちてしまった。
「出雲……」
「バーカ」
パーティメンバーの哀れみの視線と罵倒が痛い……。
★☆★☆★☆★☆
なかなか立ち直れない僕を他所に女の子が会議を始めた。真ん中の一番キツイ所をアーロンさんとダリウスさんが引き受けてくれたので、初めてと終わりのどちらかを担当する事になる。
話し合いの結果、僕達が最初の見張りをし、最後の見張りをケーラ達が引き受ける事に決まった。理由は簡単で知り合って間もない人に寝起き姿を見られたくないと言うものだった。なんとも女の子っぽい理由だ。
そして人数だけど、僕達の方が四人でケーラ達より二人多い。そのため誰か一人がケーラ達と見張りをする事になったのだが、
「イズモがいい」
とリズの一言で決まってしまった。
元々ケーラ達と顔見知りである柚姉か僕が行く事で話しを進めていたのだが、向こう側からご指名があるのならそれでもいっかといった感じである。まぁ若干二名ほど頬を膨らませていたようだけど。
順番が決まれば後は行動するだけだ。行動と言っても寝るだけだけどね。
僕は愛莉歌達が張ってくれたテントで一人で寝ることにした。
「……きて……モ」
誰かが軽く肩を揺すりながら声をかけてきた。
誰だろう? 聞き慣れた声じゃないけど……
「起きてイズモ。交代の時間」
再度肩を揺すられると先程よりもはっきりと声が聞き取れた。そっか、もう起きる時間か。
目を開くと目の前にリズの顔が飛び込んできた。美少女のアップで起きれるなんて……心臓に悪いね。
「起きた?」
リズは三度目の確認の声をかけてくれる。しかし顔が近いので思わずそのぷにっとしている唇に目を奪われてしまう。
「イズモ?」
「ああ、ごめん。起きてるよ、大丈夫」
僕はリズに謝りながら体を起こした。リズは完全に僕が起きるのを確認すると先に行ってるねと声をかけてから出ていった。
横を見ると愛莉歌達三人が川の字になって寝ていた。見張りが終わった三人に気付かなかったから相当熟睡していたんだなぁと改めて思う。
さてと……準備しようか。
僕は三人を起こさない様に準備を整えてリズ達が待っている場所へ移動した。
深夜の森は澄んだ空気をしていて肌寒いを通り越して寒かった。なので通常の服装の上に一枚外套を羽織ってからテントを後にした。
「おはよう、よく眠れた?」
焚き火の近くに座っていたケーラが声をかけてくれる。挨拶を返しリズが居ないことを聞くと飲み水を取りに行ったと教えてくれた。
ケーラの火を挟んで反対側に座った僕は彼女とたわい無い話しをした。しばらく話していると水桶を持ったリズが戻って来る。暗い中大変だっただろうと質問したが、全然問題無い様だ。流石猫科……いや、妖精といったところか。
水桶を置いたリズはケーラの横に座るかと思ったが予想を裏切り僕の隣に座ってきた。そして僕にもたれ掛かる様にくっついてくる。
いや、決して嫌な事じゃ無いんだけどね。こう腕に当たる至宝の柔らかさとかリズの甘い女の子特有のニオイとかね? 我慢出来るかなぁなんて思ったり思わなかったり。
などと考えてしまい少しあたふたしていると正面から生暖かい視線を感じる。目を向ければケーラがそれはそれは嬉しそうな目でこちらを見ていた。
「あ、ウチの事は気にせずに続けて続けて♪」
まったく……見張りをしなきゃいけないでしょ!!
僕はリズをそのままに自分の作業をする事にした。当然ケーラも無視である。
僕はアイテムストレージから金槌等の道具をを取り出して作業に取りかかった。
と言っても何か新しく作るわけじゃなく、愛莉歌のフィストと甲冑靴、それに僕の刀の修復を行うつもりだ。オーク戦で結構傷んでいたし、新しい物を作るまでの繋ぎとして大事にしなきゃね。
しばらく無言で作業をしていると珍しかったのかケーラまでもが隣に移動して作業を覗き込んでいた。僕が言うのもあれだけど見張りはいいのか?
「イズモって鍛冶師だったんだ」
「すごい……綺麗」
「正確に言うと鍛冶師じゃ無いけどね」
ケーラに苦笑いをしながら答える。それとリズ、その刃は研いだばっかしだから切れるよ。
「……ねぇイズモ。ウチのこのローブも直せる?」
ケーラは今自身が見に纏っているローブの裾を引っ張りながら聞いてきた。引っ張るのはいいけどそんなに持ち上げると見えるよ? 何がとは言わないけど。
僕はケーラのローブに鑑定のスキルを使う。このスキルは読んで字のごとく、武具の性能から耐久値製作者に至るまで全ての情報を見ることか出来るスキルだ。まぁ見れる内容はレベル依存なんだけどね。
さて、ケーラのローブはと言うと、防御力は申し分なかったが自分でも気にしていた通り耐久値が減少していた。今すぐってわけじゃないけど近い内に壊れてしまうだろう。
「どうかな? 直せそうかな?」
「大丈夫だよ。予備の布もあるし」
僕が頷くとケーラは両手を上げて喜んだ。こういう姿だけ見れば柚姉よりも歳上だと思えない。
「ありがとう、じゃ早速お願いしてもいい?」
「うん。じゃまずそのローブを脱いでくれる? あ、その前に代わりの服を用意し……」
「脱げばいいのね!」
僕が言い終わる前にケーラは着ていたローブを脱ぎ捨ててしまった。それはもう見事と言わざるを得ない脱ぎっぷりだ。
ローブを脱いだケーラは可愛らしいショーツと薄いキャミソールの様なモノだけを身に着けた姿になる。
「ケーラ!? そんな格好じゃ風邪引いちゃうよ!」
「まぁまぁいいから。はいそこに座って足閉じて」
いきなりのストリップに慌てふためく僕を他所にケーラは僕の膝の上に陣取りそのまま外套の中に入ってきた。何て言うかカンガルー状態だ。
「あはは、あったかーい」
僕用の外套なので少し小さい為ケーラとかなり密着している状態になる。
こ、こんな状態で作業出来るのか?
「ケーラずるい」
ケーラの柔らかい体による精神攻撃に耐えていると今度は横からリズがくっついてきた。自分一人だけ除け者にされたのが寂しかったのだろうか、ケーラ以上にくっつこうとしてくる。
このままじゃ精神的に死んでまう! てか見張りしようよ~。
僕は意識をケーラのローブに集中する。じゃないと自分でも何をしでかすかわかったもんじゃない。
アイテムストレージから補修用の布と数種類の薬草を取り出す。そして古いローブを囲う様に布を巻き間に薬草を詰めていく。準備が整うとローブに両手を着けてスキルを使う。
「修繕」
ローブが数秒発光し、光が収まると目の前には真新しいローブが一着出来上がっている。姿形は代わり無いが色が少し緑が濃くなった様な気がする。薬草の量を間違えたかな。
「ごめんケーラ。色がちょっと変わっちゃった……」
「全然気にならないよ~! それよりも凄いね! 新品みたいだよ!」
外套から手だけ出して自分のローブを取り満足そうに眺めるケーラ。
うん。嬉しいのはわかるけど、僕の外套から出てローブを着てほしいな。
願いが通じたのはそれから二十分以上経ってからだった。まぁいいんだけどね……。
ようやく膝から降りてくれたケーラはローブを着てまた目を見開いた。魔力と防御力上昇の付与が新たに追加してあるからだろう。ゲーム的表現なら魔力アップ(小)と防御力アップ(小)といったところかな。
その後性能が上がったローブを着てはしゃぐケーラを見てリズの機嫌が悪くなった。そしておもむろにローブを脱ぐと僕の外套に入ってこようとする。
しかし、リズの方が大きいため僕の外套には入れない。そこでリズは僕の外套を奪うと、いそいそと自分の外套の中へ引きずり込んだ。自身の膝の上に座らされ、後ろから腰をガッチリと固定される。
これは……不味い! ケーラよりも大人なリズの体は破壊力が比べ物にならない!! 主に背中に当たる柔らかい物体とか!
暴れ出そうとする本能を何とか抑えリズのローブを修繕する。リズのローブは修道服をモチーフとしているのかケーラのとは少しタイプが違った。まぁ形が違おうがやる事は一緒だからいいけど。
リズの服を修繕し終わった頃には朝食の準備をする時間になっていた。名残惜しけどリズの外套から出ると、朝食の準備をする。準備と言っても昨日のシチューの残りを温め直し、パンを新しく焼くくらいなんだけどね。全ての準備が整うと辺りは朝日に照らされ始めた。
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朝食を食べ、テントなどを片付け終わった頃には太陽は天高く昇っていた。予定では今日の夕方辺りでダックの街に着く事になっている。何もなければだけど。
夜の見張りをしていない《深緑の狩人》の人達が頑張ってくれたおかげで今日もモンスターに強襲されることはなさそうだ。御者席にはギャネットの従者が座っている為、僕達は馬車の荷台でまったりモードの真っ最中だ。まぁ戦闘になったら直ぐに移動できる様にはしているけどね。
「イズ姉ぇコレ直しておいてくれたんだ」
愛莉歌がフィストと甲冑靴を持ち上げて見せてくる。オークの血で汚れてしまっていたが、今は新品の様な輝きを取り戻している。
「一応これらも武器なんだから手入れくらいしようよ」
「イズ姉ぇがやってくれるからいいじゃない」
こいつは……物を大切にするという気持ちがないのか?
僕と愛莉歌が喋っている隣では柚姉と咲妃が自分達の武器について話し合っている。魔法使い系が使う杖だが大きく分けると二つに分かれる。片手で持てるステッキと両手持ちのロッドだ。ロッドはワンドと呼ばれる物もあるけど詳しい分け方は僕自身も把握していない。
「このまま何もなく街に着きそうだね」
「イズ姉ぇ知っている? そういう事言うと必ず何か起きるんだよ」
「やめろよ、こんな所でフラグを立てるなよ」
戦闘もなくまったりと移動している為完全にピクニックモードだ。一応仕事なんだけどね。
立てなくてもいいフラグ程よく立ってしまうものである。街まであと少しと言う所でそれは起った。
「キャーーーー!! 誰か助けて!!」
街道脇の林の中から女性の叫び声が聞こえてきたのだ。僕と愛莉歌はほぼ同時に荷台から飛出し声がした方向へ走っていく。
「ほら! イズ姉ぇがフラグを立てるから!」
「あれは僕が悪いの!?」
無駄口を叩きながらも林を走っていくと、今まさにオークに襲われる尊前の女性が目に飛び込んで来た。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド
咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???
装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)




