14話 旅路
今回の護衛クエストを出したのは『ギャネット商会』と言う行商を生業にしている商人達だ。街から街へ移動しながらその街の特産品を売り歩いているらしい。団長であもるギャネットは小肥りのオジサンで終始人当たりが良さそうな笑顔をしている。その他は商会の人間だと言う男性が二人に元々の護衛が二人の計五人で移動しているそうだ。
護衛クエストを受けたのは僕達の他に二組。《深緑の狩人》と《デザートウルフ》と言うパーティだ。
《深緑の狩人》は二組のCランクパーティでどちらも狩人のらしく弓矢を装備していた。
《デザートウルフ》はDランクパーティで僕達と一緒の駆け出しだ。メンバーは剣士が二人、魔法使いと聖職者が一人づつの計四人のパーティだ。
街への移動は基本的に馬車を使っている。今回は三台の馬車で移動となり、真ん中に商会の荷物とメンバーが前の馬車に僕達《トリニティ・ノヴァ》が後ろの馬車には《デザートウルフ》のパーティが着く事になった。《深緑の狩人》は前と後ろに別れての移動に決まった。
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一日の移動を終え現在はキャンプの準備中である。さすが首都と言うべきかアルス・テルスを出てからこれまでモンスターは片手で数える程の数しか出ておらず正直拍子抜けだ。
各パーティが各々のテントを立て、食材を持ち寄り夕食を作るそうだ。
僕達はテント張りに愛莉歌と咲妃。料理に僕と柚姉が出ることにした。咲妃が料理でもよかったのだが、いつも作っているからと言う理由で僕に決まった。
両親が共働きなのと職種が職種の為、料理は小さい時からやっている。最初の頃は姉さんと妹の千穂が手伝ってくれていたのだが、姉さんが作ると何故かカレーだけになるし千穂が作るのは愛莉歌と違った意味でアレな料理になる。その為母さんが居ないときの料理は専ら僕が担当する事になったのだ。
とりあえず僕達が持っている食材のチェックから始める。主な食材は安く売られていた謎の肉、小麦粉、野菜類に調味料が各種……。
「さてと、何を作ろうかな?」
食材のリストを眺めながらついつい呟いてしまう。作ろうと思えば大概のものは作れる食材が揃っている。
「君たちは何を作るの?」
暫く食材を眺めていると後ろから声を掛けられた。振り返ると《デザートウルフ》の魔法使いと聖職者の二人が食材を抱えながら立っていた。どうやら夕飯のメニューを決めかねている様だ。
「まだ何にも……えっと……」
「ああ、ごめんね。ウチはケーラ。そんでこっちは仲間のリズ」
「えっと……あの、リズ……です……」
ケーラと名乗った少女は見た目は僕よりも小さいのに両手一杯に食材を抱えている。そしてそのケーラの後ろに隠れる様に体を縮めているの少女がリズらしい。でもケーラよりも体が大きい為、完全には隠れきれていない。
「はじめまして、《トリニティ・ノヴァ》の柚葵よ」
「同じく出雲です。あの……リズさんは……」
僕は挨拶と一緒に気になっていたことを口に出してしまった。しかしどうしても気になってしまったのだリズと名乗った少女の頭にネコの耳を彷彿とさせるものがあるのを。
「リズ? ああ、この耳の事でしょう? リズはケットシーなんだよ、ウチはノームだし」
なるほど合点した。ケットシーならしょうがない。頭の上にあるネコミミとお尻の辺りから出ているシッポが証明している。
それにケーラはノームの様だ。それなら僕よりも小さいのは納得だ。
良かったお嬢ちゃんって言わなくて。
「あの……変じゃないですか……?」
リズの口から出た言葉は消えてしまいそうなほど小さな声だった。多分ケットシーと言うことで色々と言われたのだろう。そのせいでこの少女の心が傷付いているのだとすれば許せないな。
「そんなことないわ。とっても可愛いわよ」
「ああ、柚姉の言う通りさ。ところで……触ってもいい?」
柚姉の言葉に同意し、首を大きく振りながらまたしても僕の口は勝手に動いていた。
「……痛くしないなら……」
「もちろんだよ! それじゃ失礼して」
リズ本人から許しをもらった僕はリズの頭を撫で回した。髪はさらさらで時折指に触れるネコミミは髪とは違った触感だが何とも言えない。
これは気持ちいい! ヤバい、ずっと触っていたい!!
「リズが大人しく撫でられてる所初めて見た……」
「イズ君昔から動物に好かれるのよね~」
外野が何か言っている気がするけど今は気にしない! 全力でこの子をモフるんさ!
十分位撫で続けるとさすがにご飯を作る時間がないと言うことで柚姉に止められた。ああ、至福の時間が奪われていく。
リズの頭やシッポを愛でるのを我慢しながら食事の分担について相談した。相談の結果ケーラとリズは主食を、僕達がスープ類を作ることになった。
「スープ系か……。ねぇ柚姉、牛乳って買ったっけ?」
「確か買ってあったと思ったけど……」
「じゃ~シチューにしようか」
そうと決まれば早速行動に移る。
アルス・テルスで買った寸胴鍋を取りだし油をひいておく。そしてお肉と野菜を取りだしお肉は柚姉が野菜は僕が一口大に切っていく。と、ある事に気が付いたので作業の手を止めた。
「ねぇリズ……」
「何かな?」
質問を言い終わる前に声が真後ろから聞こえてきた。驚きのレスポンスだ。
「……リズは食べれないものとかあるのかな?」
「? 何でも食べるよ?」
どうしよう、多分質問の意図が伝わっていないよね。質問の仕方を変えようかな?
「大丈夫だぞ、ネコミミとかあるけど妖精だから。ネコとは違うよ」
答えはケーラの方から来た。そう言えばそうか、ケットシーは妖精だったね。
僕はリズとケーラにお礼を言って作業に戻る。切った野菜と柚姉にお願いしておいたお肉、それに調味料を寸胴鍋にぶちこみ、ケーラが作ってくれた竈にかける。ケーラは魔法使いなのだが、こういったものを作るのが得意な様だ。
さて、寸胴鍋にぶちこんだ野菜と肉に火が通るまで十分に炒める。玉ねぎが透明になる位が目安です。
全体に火が通ったら一度竈から降ろし小麦粉を混ぜる。まんべんなく混ぜたら水と牛乳を入れ軽くかき回して竈に戻す。本当コンソメスープの元があれば良いのだけど、無いものはしょうがない。調味料とスパイスを使って味を整えて完成である。
後は好みのとろみになる迄混ぜ合わせます。
「だ~るまさんが転んだ、だ~るまさんが転んだ……」
「……何それ?」
「呪文?」
独特な掛け声で回しているといつ来たのか後ろからケーラとリズが鍋を覗き込んでいた。
掛け声は特に意味は無いです。
「すごくいい匂いがするね?」
「……美味しそう」
二人は主食のパンが焼けたので様子を見に来たら予想外にいい匂いがしたので気になった様だ。
ふむ、そんなに気になるなら少し食べてもらおうかな?
「味見する?」
「いいの!?」
僕の問い掛けに二人は目を輝かせて聞き返してきた。あまりにも二人の反応が揃っていた為思わず笑ってしまう。
「味見だから少しだけね。……と、そう言えば器がなかったっけ」
僕はシチューを盛るための器が無いことに気がついた。
「そう言えばウチのパーティにも無いかも……」
「……食べれないの?」
器が無いことを話すと二人は目に見えて落胆してしまった。二人の事もそうだけど、折角作ったのにこのままじゃ全員が食べれない事になる!
「器が無いのなら作ればどうかしら?」
シチューを混ぜてもらっている柚姉から天恵がもたらされた。
そうじゃんね~幸いにして素材は周りに沢山あるんだ。ちゃちゃっと作っちゃおう!
「柚姉ナイスアイデア! じゃどれにしようかな?」
僕は辺りを見回して適当な大きさの樹を見つける。大分暗くなってきたから早くしないと……。
見回した結果、キャンプ地点から少し離れた所に生えている一本の樹に狙いを定める。
近くまで移動するとリズとケーラの二人がついてきた。どうやら興味津々の様だ。
「やれるかな?」
僕はアイテムストレージから最初に持っていた大剣を取りだし腰だめに構える。
イメージは居合い抜き。神経を集中して目標の樹を見つめる。
「……せい!」
ここだと言うタイミングで大剣を一閃させると、そのまま大剣をアイテムストレージにしまってから樹に近く。
「切れたの?」
「それにしては静かだけど……」
後ろから見学していた二人に向かって笑顔を見せ、目標にしていた樹に軽く触れる。すると簡単に樹が傾き始める。完全に倒れてしまうと危ないのでそのままアイテムストレージに収納する。リストを確認すると【一級木材】【二級木材】【三級木材】と追加されていた。
あ、一級木材が手に入ってる。ラッキー。
「ただの食器だし、三級木材でいいよね?」
声を掛けるが返事が返ってこない。振り返ると二人が目を見開き固まっていた。そんなに驚く事かな?
「……イズモって凄いんだね」
「そう? 普通だよ、普通」
普通だよね?
自分で言っていていまいち自信が持てない。
木材も手に入ったので少し急ぎ足でキャンプ地点迄戻る事にする。辺りは結構暗くなってきている。
火の側まで戻るとテントを張り終えた愛莉歌や咲妃、他のパーティメンバーも集まってきていた。あまり目立ちたくないからクラフトモードで一括して食器を作ってしまう事にする。
「何処行ってたのよ」
目敏く僕を見つけた愛莉歌が笑顔で近づいてくる。そして僕の後ろにいるリズとケーラを見ると笑顔が一瞬で凍りついた。
「質問を変えるわ。何してたのよ」
「え? そこの樹を切りに……」
「イズモの凄かった……私あんなに凄いの初めてだったよ」
「でもすっごく気持ち良かった……」
二人が夢見心地な表情で感想を言ってくれる。けど致命的に言葉が足りてない。お陰で愛莉歌の笑顔がとても怖い。
「まさかこんな小さな子に手を出すなんてね?」
「出雲、不潔です。女の子同士なら私だっていいじゃないですか……」
いつの間に来ていたのか咲妃まで攻撃に加わってくる。最後の方がよく聞こえなかったけど……聞かない方がいいよね。
「小さい子ってウチの事かな?」
一方愛莉歌の発言に黙って居られなかったのはノームのケーラだ。身長の事は言われたくないのかあからさまに不機嫌な態度だ。
「お子様に“小さい子”なんて言われたくないよ!」
「だって実際に小さいじゃない」
ケーラの剣幕に愛莉歌も一歩も引かない。と言うかさ、喧嘩しないでよ。
「愛莉歌、ケーラはノームなんだよ」
「ノーム? ノームってあの?」
僕が愛莉歌の耳元でケーラの事を話すが未だに信じられないのか彼女は疑いの目で見てくる。
「ウチがノームじゃ悪いの?」
「いや、そう言う訳じゃないけど……」
「愛莉歌、これはゲームじゃないんだ。各種族で冒険者をやっていても不思議じゃない」
僕の言葉に愛莉歌ははっとなった。そしてバツが悪そうにケーラに謝った。
「……ごめんなさい」
「ウチこそ年甲斐もなく怒って悪かったよ」
うんうん。素晴らしき友情かな。
「それで、あの~ケーラさんっていくつになるんですか?」
咲妃は好奇心に負けたのかケーラに年齢を聞いていた。僕も気になったけど、流石に僕からは聞けないからね~。咲妃ナイス!
「ん? ウチの年齢? 今年で二十五だよ」
なんとケーラさん僕よりも小さいのに柚姉よりも年上でした。ヤバイな。妖精に人間の年齢を当てはめるのはあれだと思うけどここまでギャップがあるとは思わなかった。
皆僕と同じ思いだったのか愛莉歌と咲妃も黙ってしまう。
「リズもそれくらいなの?」
女の子に年齢を聞くのはいかがかと思ったけど、どうしても気になってしまった。
「あたしは十五だよ」
そっか、リズはリズで愛莉歌よりも年下なのか。なんとなくだけどホッとしてしまった。
「それじゃリズちゃんは私と同じね」
咲妃がリズの手を取りながら喜んでいた。まぁパーティメンバーは全員年上だったし、同い年の女の子って言うだけで嬉しいのかもしれない。
「でも出雲に手を出すのはダメよ。同じ女の子なんだから」
「? イズモは女の子じゃないよ。男の子だよ」
「「「 !? 」」」
な、なんだって。今リズはなんて言った? 僕の事を男の子だって……?
「リズ、わかるのか? 僕が男だって」
僕は自分でも声が震えるのを感じながらリズに質問した。生まれて初めて性別を当てて貰えたかもしれないのだ。嬉しさで声も振るえよう。
「うん、だってイズモからは女の子のニオイがしなかったから。男の子のニオイもしないけど」
「ああ、リズ! 君だけだよ! 僕の性別を初見で言い当てたのは!!」
僕は我慢できなくなってそのままリズを抱きしめて頭を撫でまわす。ついでに最後の言葉は聞かなかった事にする。
いきなりの行動だったけどリズは嫌がる素振りも見せずになすがままにされている。
「嘘よ、出雲が男の子だったなんて……」
「絶対女の子だと思ってた」
今日は何だが外野がうるさいけど気にしない! 今はこの子を全力で可愛がるんだ!
その後何時まで経っても戻って来ない僕達を連れ戻しに各パーティが呼びに来るまでリズを撫でまわしていた。当然柚姉には猛烈に怒られた。
あ、そうそう食事は大盛況で一緒に食べた全員から好評を貰った。全員が笑顔になり最初のキャンプの夜は更けて行った。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド
咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???
装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)




