13話 旅立ち
練習場で陽輝を軽く吹っ飛ばした後、僕は練習場を後にし全速力で服屋へと向かった。
女物の服を着た僕が男物の下着や服を買う姿に違和感があったのか、服屋の店員は始終頭に『?』を出していた。そんな店員の態度などお構いなしに買い物を済ませた僕は買った中から一着を取り出しその場で着替えたのだった。
ブラウスやらロングスカートやらと矢鱈にファッションに拘っているようだが、下着の完成度は未だ低いようで現代の物と比べると大分質が悪いように感じる。だが腰に一枚布があるという事にこんなにも安心感を覚える日が来るなんて思っても見なかった。
「はぁ~やっと一息つけた」
長袖のチュニックにズボンを穿き、ベルトが無かったので腰の位置で紐で縛る事にした。
うん。どこからどう見て庶民だ。元々僕は庶民なんだからこの格好で問題ないだろう。
そのまま服屋を出て街中を歩き出す。僕が庶民ではなく、冒険者だと思い出したのは目的地に近付いてからだった。
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冒険者ギルドへ戻ってくると人で溢れ返っており、何やら騒がしかった。
またモンスターが攻めて来たのかと思い近くにいた人に何かあったのかと確認するとやや興奮気味ではあったが親切に教えてくれた。
話しを聞くとどうやら先程ギルドの練習場でBランクパーティのリーダーが女の子に負けたそうだ。しかもその勝った女の子は「僕は男だ」と意味の解らない言葉を捨て言葉に練習場を去ってしまったと言う。リーダーは現在このギルドで治療中で、残ったBランクパーティと女の子のパーティメンバーがその女の子を探しているらしい。
あれぇ……どこかで見たことのある話し……。
僕は冷や汗が止まらない状態だったが、親切に話してくれた人にお礼を言って静かにギルドの中へ入って行った。指名手配になった人物がまさか敵の本拠地にいるとは誰も思うまい。
「おかえり、イズ姉ぇ。服も無事買えたようだし? 大人しく縛につきましょうか」
ギルドの中には笑顔の愛莉歌がいた。
何故だ! なぜ愛莉歌がここにいるんだ!?
「ユズ姉ぇがここに残れって言ったのよ。イズ姉ぇの性格から絶対ここに戻ってくるだろうって」
僕の顔色を見たのだろう。何も言っていないのに愛莉歌は説明をしてくれた。
くっそ~さすが柚姉。行動パターンがばれていたか……。
僕は右腕を愛莉歌にしっかりと固定され重い足取りで二階へ登る階段を歩いていった。今日に限ってこの階段が十三段あるように思えてしょうがない。
そのまま昨晩借りた部屋へ連行されるとベッドでは陽輝が寝ており、その傍らに咲妃さんが座っていた。咲妃さんは部屋に入って来た愛莉歌と僕に気付くと椅子から立ち上がりすっと近付いて来た。
そうか、いくら決闘だからと言っても陽輝は咲妃さんのお兄さんだった……。
僕は咲妃さんに一発もらう覚悟をし、目をきつく閉じた。
「出雲。ありがとう」
しかし振るわれるはずの痛みは一向に来ず、恐る恐る目を開けると深々と頭を下げた咲妃さんの姿が目に入った。
「咲妃さん!? 何やってるのさ。頭をあげてよ」
「そうよ咲妃が頭を下げる事なんてないのよ!」
慌てたのは僕だけじゃなく、愛莉歌までも声を荒げている。
「そんな事無いわ。だって出雲は私の為に戦って勝ってくれたんだもの」
ん? 咲妃さんの為……になるのかな?
暫く考え込んでいると目の前の咲妃さんが可笑しそうに笑い始めた。まぁ彼女が良いって言うんだ、それで良いじゃないか……いいのかな?
「そ・れ・と! 私の事は呼び捨てで良いって昨日言ったわよね?」
「覚えているの!?」
アレだけベロンベロンに酔っ払っていたのに覚えているものなんだ。
「それじゃ犯人も捕まえたし、ユズ姉ぇ達には帰って来てもらいましょうか」
何処かつまらなさそうに愛莉歌が柚姉に連絡をとっていた。咲妃もクリスタル・ダイナソーのメンバーに連絡しているようだ。残された僕は大人しくソファーに座ることにした。逃げても愛莉歌に捕まってボコボコにされるからね。
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ほどなくして関係者全員が集まったので居酒屋へ移動する事になった。少し早いけど夕飯を食べながら話し合おうと言うことになったのだ。
まぁ話し合いと言っても昼間の試合結果があるから陽輝も咲妃の移動を渋々とだけど認めていた。ただし連絡はこまめにすることなど色々と言っていた。まぁ何だかんだ言っても陽輝はお兄さんなのだと改めて思ったのだった。
咲妃の移動が決まってからは昨日出来なかった皆での祝賀会を行うと言うことで飲み始めたのだが、流石Bランクパーティ次から次と知り合いが参加し始めた。しまいにはギルドマスターのダン迄が参加し、居酒屋全体を巻き込む大騒ぎへと発展した。料金もギルドが出してくれるようで、正に大盤振る舞い状態だ。
夜通し飲み続ける勢いの人達を放置して僕達は宿屋へと戻ってきた。新しいメンバーも加入した事だし、これからの方針を決める必要もあったからだ。
「それじゃ~改めて、サキちゃんパーティ入団おめでとー!」
「「おめでとう!!」」
「ありがとう!」
柚姉の乾杯の音頭で僕達トリニティ・ノヴァだけの祝勝会が開かれた。
飲み物はギルドから帰る途中に買ってきた。量り売りをしていたお酒とジュースをお店の一番小さな樽で買ってきたのだが、どう見ても一斗樽だ。
一晩で飲める量じゃ無いよね……。
「それにしても、どうして乾杯の音頭を柚葵さんがとるんですか?」
「ん?」
なみなみと注がれている一斗樽を眺めていると咲妃から声が掛かった。どうやら先ほどの柚姉の乾杯の音頭が気になるようだ。
「何でって言われても……このパーティのリーダーだから?」
「え? リーダーって出雲じゃないの?」
「まさか~僕は人の上に立つような人間じゃないよ。ゲームの時から柚姉がリーダーなんだよ」
僕の答えが意外だったのか咲妃は驚きで目を見開いている。そんなに驚く事かな?
「皆がやらないからなし崩し的に私がリーダーになっちゃったのよね~」
「でもユズ姉ぇが指揮してたから負け無しなんでしょ?」
ジュースを片手に愛莉歌が会話に参加してきた。ギルドで話した内容だと色々とクエストに参加していたようだけど、あの柚姉なら特に不思議に思わなかった。
「あれは皆が私が命令を出す前に動いてくれたからよ、私自身は大して役に立ってないわ」
笑顔を見せる柚姉は恥ずかしそうにお酒のグラスを傾けた。その後も何度か質問が続いたが柚姉はのらりくらりとかわしていた。
「もう私の事はいいからこれからの事を決めるわよ!」
躱しきれないと踏んだのか柚姉は強制的に話しを変えてきた。まぁ大事な話だとは思うけどさ。
「これからって言うと……この街に留まるか移動するかって事?」
「そうね、もう少しこの辺りでレベルを上げるかより強いモンスターの出る地域に行くかって事ね」
僕の質問に柚姉は頷きながら答えてくれる。
正直引きこもっていたのでレベル上げの事に関してはわからないので柚姉達にお任せだ。
「この辺りのレベル帯だと装備によって左右されるのよね」
「そうなのよね……イズ君、今以上の装備って作れるかしら?」
柚姉が頬に手を当て軽く首を傾げながら聞いてきた。
「そうだね~正直この街でこれ以上の装備は厳しいよ」
アルス・テルスはシルフィード領の主都なので物流量は多い。しかし、冒険者の為の街ではない為特殊な素材などは意外と少ないのだ。本格的に武具を作るならアルス・テルスの南西にあるハッグの街の方がいい素材が多い……と思う。
と意見を言うと柚姉と愛莉歌、咲妃の三人がアレだコレだと相談を始めた。三人に完全に投げた僕は樽からお酒をおかわりし買ってきた肉に少し手を加える。まぁ手を加えると言っても器具が無いから調味料で味を変えるくらいしか出来ないんだけどね。移動するときに少し買っておこうかな。
しばらく一人晩酌をしていると目的地が決まったのか柚姉が声を掛けてきた。
「決めたわ、次の街はハッグの街にしましょう。敵のレベルが少し高いけど向こうでイズ君に装備を新調してもらうって事でいいかしら?」
「僕は問題ないよ」
僕が了承した事でパーティ全員が賛同した。柚姉は嬉しそうに頷くと持っていたグラスをもう一度掲げ乾杯をした。これから僕達新生トリニティ・ノヴァの冒険が始まるのだと。
その日僕達は夜遅くまで飲み明かした。
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翌日目が覚めると全員がソファーの周りで倒れていた。どうやら昨日そのまま寝てしまったようだ。それにしても僕この宿に泊まってから一回もベッドを使った覚えがない……。
とりあえずこのままでは風邪をひいてしまうので全員を起こす事にした。女性陣に先に洗面所を使ってもらい僕はその間に今日やる事を確認する事にした。
全員の支度が整い一階で朝食を食べた後、僕達は旅に必要な物を買いに出かけた。しかし、商業区を歩いているうちに旅に必要なモノが何なのかわからない事に気が付いた。ゲームの中では夜はログアウトしていたし、眠気も疲れも感じなかった。だが僕達はゲームの世界ではなく、異世界に居るのだ。普通に眠くなるし疲れも感じる。あれこれと考えていたも埒が明かないと僕達は助言を求めて冒険者ギルドへと足を向けた。
「で、ここに来たわけね」
「そうなんです。リサさん教えて下さい」
僕はよろしくお願いしますとカウンター越しにリサさんに頭を下げた。彼女はため息をつきながらだったけど色々と教えてくれた。
キャンプ用品に始まって食料品や武具など集めるものは結構多かった。仕方ないので僕達は二手に分かれて必要なモノを買う作戦をとる。咲妃さんと愛莉歌が食料品を中心に、僕と柚姉がキャンプ用品などを買う事に決まった。
「それと、初めての移動ならキャラバンと一緒の方がいいわよ。護衛として着いて行けば旅がどういうものかある程度安全にわかるし、もし他にも護衛の冒険者がいたら色々と聞けるしね」
リサさんには本当にお世話になりっぱなしだね。
皆がお礼を言ってギルドを出ようとした所である事に気が付いた僕は一人立ち止まり再度カウンターまで向かった。
「あら? 何か忘れ物?」
「忘れ物と言うか、伝言って頼めます?」
僕はリサさんにある事をお願いしに戻ったのだ。そのある事とは、
「もし、この街に『千穂』とって言う女の子の冒険者が来たら僕達はハッグに居ると伝えてくれますか?」
僕は出来る限り千穂の特徴をリサさんに教えた。もし、アイツがこの街に来るようなことがあれば僕達と合流できる様にする為だ。
「イズモちゃんと同じ位の身長でチホちゃんと言う冒険者に伝えればいいのね?」
「お願いします」
僕は深々と頭を下げた。まったく、兄にここまで頭を下げさせるなんてなんて妹だよ、本当に。
「わかったわ、もしそのチホちゃんが来たら伝えるわ。それにしてもそんなに必死になるなんて、その子イズモちゃんの彼女?」
リサさんが悪戯っぽい笑顔を浮かべながら聞いてくる。僕は思わず苦笑いしながらその質問に答える。
「違いますよ。千穂は妹です」
「あら、そうなの? それじゃ早く会えるといいわね」
「そうですね」
僕はリサさんに再度頭を下げて今度こそギルドの建物を後にした。
外で待ってくれていた柚姉を合流して必要なものを買いに出発する。
商業区に戻ってきた僕達は次々と必要なモノを買っていく。なんかあれだけあった今回の報酬も一気に飛んで行きそうだ。
ある程度そろえた所で今度は僕が個人的に欲しい物を買いに行くことにした。柚姉には別行動でもいいと伝えたのだが、一緒に来てくれる事になった。その際何故か僕と腕を組みながらの移動となった。
「それでイズ君は何が欲しいのかな?」
「ちょっとね。買っておきたいものがあってね」
僕は柚姉を見上げながら答えた。こういう時男の僕が柚姉を見下ろせれば格好いいのだろうけど生憎柚姉の方が背が高い。今こそ自分の身長を恨めしいと思ったことは無い。
僕達は商業区を抜け職人区へと移動した。そう、僕が欲しかったものとはサブ職で使う道具などだ。決して夜の御供を買いに来たわけじゃない。
「イズ君が欲しかった物ってコレの事だったのね」
「そうだよ。途中で壊れたりしたら嫌でしょ?」
柚姉と会話しながら色々な道具を買い漁った。洋服と今回の旅の準備に必要なモノ、そしてこの道具で僕の財布は随分と軽くなってしまった。まぁ移動するには必要だししょうがないよね。
僕の買い物が終わり皆と合流した時にはお昼を回っていた。お昼を食べた後、ギルドへ向い、ハッグまでの護衛クエストが無いか確認したら運よく護衛クエストを発見することが出来た。そのままクエストを受注するとちょうど説明に来ていた依頼主がいたので軽く説明を受けた。
今回の依頼は商業ギルドのキャラバンの護衛の様で僕達の他にもう二組のパーティが護衛に就くそうだ。出発は明日の朝に決まり、その後一緒に護衛クエストを受ける残りのパーティと挨拶をして解散となった。
さて、明日はついに旅立ちだ。気を引き締めて行かなくちゃ、僕がパーティで唯一の男なんだから。
僕は決意を新たに宿屋への道を歩いて帰った。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド
咲妃:レベル15:職業:魔法使い サブ:???
装備:ローブ・革の靴・ロッド(出雲カスタム)




