12話 新メンバー加入試験?
朝食を食べ終えた僕は一目散に新しい服を買いに行きたかったが、リサさんからパーティの名前ついて話しがあると言われた為移動することが出来なかった。仕方がないので現在は食後のコーヒーを楽しんでいるところである。こちらではコフィと呼ばれているようだが、味も香りもコーヒーそのままなので僕はコーヒーと読んでいる。
「昨日も聞いたと思うけど、あなた達のパーティ名を決めて欲しいのよ」
コーヒーを片手にリサさんが昨晩と同じ事を聞いて来た。あの時は愛莉歌が酔っぱらっていた為、保留にしたいたが今なら大丈夫だろう。
「パーティ名って必ず付けるものなんですか?」
考え事をしている間に愛莉歌はリサさんに質問をしていた。多分パーティ名で余りいい思い出がない為だろう。
「そうね~ほとんどの場合は私達からお願いする前に名前を付けて申請するわ。それに名前を付けてもらった方がギルドから呼び出ししやすいのよ」
パーティのランクが上がると通常クエストの他にギルドから特別なクエストをお願いされる事があるそうだ。その時、パーティ名が無いと呼び出しも出来ないので必ず付けてもらう事になっているのだそうだ。
説明を聞いた愛莉歌は渋々とだが納得をしたようだ。
「あの、愛莉歌さんはパーティ名に何か嫌な思い出でもあるんですか?」
リサさんと愛莉歌の会話を聞いていた咲妃さんが今度は愛莉歌に質問をする。まぁここまで渋るからには何かあるんだろうと思うのが普通である。
「私は呼び捨てでいいわよ咲妃。……正直パーティ名にいい思い出は無いわね」
「ゲームの時のギルド名がアレだったんだよな」
愛莉歌に変わって僕が理由を言ってあげた。そもそも愛莉歌は最初僕達とは一緒にプレイしていなかったのだ。
僕達は元々ゲーマーだった柚姉が始め、キャラメイクで思い通りに出来ると教えてくれたきっかけで僕が始めた。そして僕と柚姉がはまっているゲームだという事で妹の千穂が始めるのだが、愛莉歌は実は柚姉と同じ位に始めていたそうだ。一緒に遊ぶきっかけは道場で僕と千穂が話しているのを聞いて話しに参加したのがそうだと言っていた。
そして、前にも言ったと思うが彼女は別のギルドに所属していた。その時のギルド名が『クレイジー・ドックス』と言うそうだ。『クレイジー・ドックス』直訳すれば『狂犬達』と言ったところか。そして愛莉歌のバトルスタイルは狂戦士……。ここまで言えば察してもらえるだろうか。彼女がなんて言われていたかを。最近になって僕達のギルドへ移る話しが出ていたらしいが……異世界に来てしまったので保留だろうなぁ。
ここまでを説明すると咲妃さんは言葉を無くしていた。なんて声を掛ければいいのかわからない様子だ。まぁその気持ちはわからなくもない。
「昔海外プレイヤーと一緒に遊んだ時にね、本場ものの「Oh! Crazy girl!」ってセリフを聞いた時は涙が出たわ」
「エリちゃん昔の事よ! 忘れましょう。ね?」
「そ、そうよ愛莉歌そんな昔の事は忘れましょう!」
女性陣のフォローの速さは流石だった。まぁ光彩の無くなった目で自虐的に笑いだしたら誰でも止めるだろう。
「あ~エリカちゃん、若いのに苦労してきたんだね」
リサさんもゲームの話しと思ってないのか同情し始めた。何かこのテーブルだけ他と雰囲気が全然違うんだけど……僕買い物に行っていいかな?
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愛莉歌が正常に戻るまで約二十分の時間を要した。それだけ彼女にとってはトラウマだったのだろう。
その間に朝食の時間は終わり、これから酒を飲む客が増えるだろうとリサさんが予想した為、一階のカウンター前に場所を移す事にした。
「それで、エリカちゃんの話しはわかったけど、候補とかないの?」
すっかりお仕事モードになったリサさんが登録用紙を片手に聞いて来た。
「候補と言うか僕達のギルド名でいいと思うんだけど、どうかな?」
「私はそれでいいわよ。元々そっちに入る予定だったんだし」
「イズ君とエリちゃんが良いなら私もそれでいいわ」
僕の質問に二人は揃って賛成してくれる。まぁパーティ名なんてそんな感じでいいんじゃなかろうか?
「決まっているのね。それじゃ書いて渡してちょうだい」
リサさんは用紙を手渡してくれた。手渡されたのが僕なので僕が代表で書く事にした。用紙にパーティ名を記入し皆に見せて確認してからリサさんに返す。
「ふむふむ『トリニティ・ノヴァ』ね。なかなかいい名前じゃない」
リサさんはそのまま用紙を持ってカウンターの奥へと行ってしまった。登録は奥でやるようだ。
まぁその間にこっちの方を何とかしようか。
隣を見ると咲妃さんが目を見開いたまま固まっていた。
「『トリニティ・ノヴァ』ってあの、老舗の……」
「そう言えば僕が始めるのと同じ位だからもう七年になるんだね~」
懐かしいなぁギルドの名前を決めるのに皆で三日三晩悩んだっけ。
「大規模イベントには必ず参加していて、しかも少人数でクリアして……」
「あれはイズ君の装備のお陰よね~」
柚姉が笑顔で答えている。
ギルドメンバー全員の装備を作り直した時が時々あったけど、そんなイベントに参加していたんだ。
初耳だね。まぁ僕の装備よりも柚姉を始めとするギルドメンバーが優秀すぎるんだろうけど。
「構成員の変動がない……」
「皆仲が良かったからね~」
何人かは体験入団みたいなのが居たけど、普段の活動なんてギルドハウスで駄弁るだけだったから皆辞めていったっけ。
「女性限定の!」
「イズ君がいたから女性限定じゃ無かったわよ」
ゲームで引きこもると言う変なことをしていたからね~僕。表立って行動していたのは確かに女性プレイヤーが多かったと思う。
「伝説のギルドですか!?」
「「伝説じゃないよ」」
咲妃さんの発言に柚姉と声を揃えて否定した。
って言うか世間ではそんな評価だったのか、僕達のギルドは。
咲妃さんは目を光らせて柚姉から色々と話しを聞いている。何がそんなに興味をひいたんだろう。
咲妃さんの質問攻撃はリサさんが帰ってくるまで続いた。
「は~い、登録出来たわよ。今日はどうする? クエスト受けていく?」
さすがに昨日の今日なのでリサさんの提案は辞退しておいた。そんなことより僕は全力で着替えたい。
「やっと見つけた。咲妃、ここにいたのか」
移動しようとしていた僕達に一人の男性が声をかけてきた。さっさと着替えたい僕にとってこの声は邪魔以外の何物でもない。
僕の着替えを邪魔するのは何処のどいつだ!!
「兄さん、どうしたんですか? そんなに慌てて」
「どうしたもこうしたも……昨日から姿が見えないし、宿にも居ない。それに連絡もつかないんじゃ心配して探すだろう」
声の主であり、咲妃さんの兄でもある陽輝は盛大にため息をついた。まぁ僕も妹が居る身なので陽輝の気持ちもわからなではない。が、今は着替える方が先決だ。邪魔立てするなら斬っちゃうぞ?
「まぁ無事で良かったよ。じゃ帰るぞ。出雲達も世話になったな」
陽輝は僕達に頭を下げると咲妃さんの手を取り歩き出そうとした。しかし、手を取られた咲妃さんは歩き出そうとせず逆にその手を振りほどいた。
「咲妃?」
「兄さん。私、出雲達のパーティに入るわ」
「「「はい?」」」
ギルドのカウンター前で僕と陽輝、柚姉の声が揃った。
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咲妃さんの突然の申し出に混乱した僕達は一旦落ち着くために二階の居酒屋へ戻り座って話し合う事にした。上へ下へと大忙しだ。
咲妃さんの言い分では初めから高ランクである陽輝のパーティよりも駆け出しの僕達パーティの方が戦う敵も適正レベルのものが多いとのこと。またほぼ男性で組まれたパーティよりも女性だけのパーティの方が良いと言うのだ。僕、男なんだけどカウントされてないのかな?
対して陽輝の言い分は異世界に飛ばされた二人っきりの家族なので、出来れば自分の目の届く範囲で守りたいと言う。
まぁ二人の言い分はわかるけどね。
「私はもう子供じゃありません! 兄さんに守ってもらわなくても大丈夫です!」
「そうは言うがこの前の戦闘だってオークに拐われたじゃないか」
二人は先ほどから自分の意見をぶつけ合い、互いに譲らない状態だ。
そんな二人には悪いけど、僕は着替えたい……。
「大丈夫です。前回もそしてこれからも出雲が守ってくれるから!」
咲妃さんは椅子から立ち上がると僕の右腕を抱き締めながら陽輝を睨み付けた。
いきなりの事で僕も陽輝も反応が出来ない。そんな僕達を余所に咲妃さんは更に力を込めた。
右腕大丈夫かな? 柚姉の治癒魔法によって骨折自体は治っているけど暫く安静にって言われたし……“おっぱいによる圧迫骨折”ってさすがに恥ずかしいよねぇ。
それにしても陽輝も案外心配性と言うかシスコンと言うか……。まぁ咲妃さん位可愛い妹なら心配する気持ちもわかるけど、あんまり束縛し過ぎるとかえって逆効果なんじゃないかなぁ。
まぁ陽輝がシスコンなのはいいけど、まだ時間かかるのかなぁ。早く着替えたいんだけど……切実に。
女装しているだけでもアレなのに下着まで無いなんてレベル高過ぎでしょう! 何で服と一緒に洗っちゃうかなぁ……服が無いなら下着も無いって普通気が付くでしょうに……。あまつさえ愛莉歌の奴『私の新品ならあげるけど?』って誰が女性用下着を着けたいって思うんだよ!!
服も女性物なら下着も女性物にしなくっちゃ☆
何て言うと思ったら大間違いだよ! あ~それにしても腰回りに布切れ一枚無いだけでこんなに不安になるなんて思わなかったよ……ここは一刻も早く話し合いを終わらせて買い物に行こう!
「そうだ、そうしよう!!」
「よし、出雲も納得したのなら早速始めようか」
ん? 何で陽輝は僕を睨んでいるんだ? 咲妃さんは期待の眼差しを向けているし、愛莉歌や柚姉に至っては頭を抱えているけど……?
「話しは聞かせてもらったわ!」
全く話しが見えていない状況でリサさんが声を掛けてきてくれた。と言うか仕事はいいのだろうか?
「冒険者同士の決闘は認められていないわ。だからこれは訓練と言う事にしましょう。場所はギルドの練習場を使っていいわよ」
は? 決闘? リサさんはいったい何を言っているのだろう?
さらに頭が混乱し始めた時、ようやく愛莉歌と柚姉が状況を教えてくれた。
咲妃さんは僕に守ってもらうから大丈夫と言い、陽輝は危ないと主張する。そして咲妃さんが僕は陽輝よりも強いから問題ないとさらに反論するとどうやらその発言が陽輝のプライドを甚く傷つけた様だ。ならば実際に戦ってみればはっきりするだろうと陽輝が言った瞬間に僕が同意してしまったのだと。
なんてめんどくさい……。基本的には僕は争いごとは好まないんだけどなぁ。
僕の存在なんてガン無視した一条兄妹はリサさんが示したギルドの練習場へ移動を開始してしまった。
「え? ちょっと待って僕この格好でやるの?」
「着替えている時間もないし、そうなるわね」
「大丈夫よ、イズ君はどんな服装でも強いもの」
いやいや、構いますよ!? 今の僕はノーパン女装野郎ですよ!?
せめて下着を着けさせてくれと言い張ったが両脇を固められそのまま練習場へ連行されてしまった。
この勝負色々とマズイことになった!!
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ギルドの練習場は街の郊外に作られており、多少派手にやったとしても住民には被害が出ない様に配慮されていた。
その場の勢いで決まった事なのに練習場には野次馬があふれ審判としてギルドマスターであるダンと何故かリサさんまで出張っていた。本当にギルドの方はいいのだろうか?
「あ~それではハルキとイズモの腕試しを始めるぞ~」
ダンの掛け声で野次馬のボルテージは最高潮に達する。
それにしてもマスターのあの声の感じから何故ここで審判をやっているのかまだ理解していないと見た。ダンの顔には若干の困惑が見えたからだ。
「ふ~まさか君とこうして戦う事になるなんてね」
「いや、僕も説明して欲しいんだけどね。あと着替えさせて」
向かい合った陽輝が好戦的な笑顔を見せる。こいつ、何気に格好いいな。
「それじゃ降参するか気絶した方が負けだ。いいな? それでは……はじめ!!」
ダンが開始の掛け声をかける。始まってしまったのならしょうがない。適当に打ち合ってから負けるか。服装が服装だし。
僕達は急な決闘という事で私服に皮の胸当てを付けただけの簡単装備だ。武器はギルドで練習用に用意していた木剣を使う事になった。
陽輝はオーソドックスな剣士スタイルで右手に剣、左手には盾を持っている。対して僕は盾を持たず両手に剣を持っている二刀流スタイルだ。二刀流に特にこれと言って思い入れがある訳じゃないが、盾を使っての戦闘を祖父から教わっていないのが一番の理由だ。なんだかんだ言っても皐月流が根底にあるんだろう。
「さぁどうした。打って来ないのか?」
「いや~ちょっと服装がね……」
「そうか、それじゃ僕から行かせてもらおうか! 本来女性には手をあげないのだが、妹の為だ。うらむn……」
この瞬間僕は陽輝を完全に敵として認識した。なぜなら彼は言ってはいけない事を言ったからだ。
僕はまだ喋っている途中の陽輝へ一気に間合いを詰める。地面すれすれまで体を低くし瞬歩と呼ばれる歩法で間合いを詰めた為陽輝には一瞬僕の姿が消えたように見えたはずだ。頭上から息を呑むのが伝わってくる。
近付いた勢いをそのまま殺さず左手の木剣を横薙ぎに払う。体の回転と共にロングスカートの花が咲くが今は気にしない。一回転し終わると腹部を強打され前屈みになった陽輝の姿が目に入る。明らかに叩いて欲しいと誘っている顎を渾身の右アッパーでかち上げる。すると陽輝の頭は上を向き体の全面が無防備に晒される。その好機を逃さず両手に持った木剣を捨て、勢いよく踏み込むと同時に両手の掌を陽輝の腹部に叩き込む。無防備状態からモロに喰らった陽輝の体は面白い位に吹っ飛びそのまま動かなくなる。
「僕は男だ。間違えるな」
歓声も消え静まり返った練習場に僕の言葉がこだまする。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド




