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11話 新しい朝

 朝起きると愛莉歌と柚姉に挟まれていた。正面から柚姉が、後ろからは愛莉歌がそれぞれ抱きついて来ていてちょうど僕を具にしたサンドイッチのようだ。

 なんて考えは置いといて、柚姉はいいとしてこれ愛莉歌が起きたら……。


「う~ん……あれ? 私ベッドで寝ている?」


 どうやら間に合わなかったようだ。

 よし、こうなったら寝たふりをしていよう。いくら愛莉歌でも寝ている人間を攻撃しないd……。


「何でイズ姉ぇが一緒に寝ているのよ!」


「むぐぅ!」


 直後、背中に激しい衝撃が襲い僕は柚姉の胸に顔を突っ込むような形になる。

 ああ、なんて柔らかくて暖かいんだ。背中が焼けるように痛いけど、この優しさに包まれていられるならそんな痛みもへっちゃらさ。

 愛莉歌に殴られた部分はひりひりと痛むがそれを上回る程の優しさと癒しに包まれた僕はとりあえずこのままでいる事を選んだ。


「もう……エリちゃんもイズ君も喧嘩しちゃダメよ……」


 しかし、幸せというものはそう長く続くものではないようだ。寝惚けた柚姉がそのまま僕の頭を抱きかかえるように腕に力を込めたのだ。その行為によって柔らかく癒しを与えてくれていた柚姉の胸は一気に凶器へと変貌した。

 柔らか過ぎた故に完全に僕の口と鼻を塞ぎ一切の呼吸が出来なくなる。


「!?」


「まったく、昨日は少しは格好良かったのに……いきなり同じベッドはダメよ。もっと段階を踏まないと……」


 何やら愛莉歌はブツブツと独り言を言っているが僕はそれどころじゃない。

 何とか愛莉歌に危険を知らせようとするが口が塞がれている為声が出ない。タップして知らせようにも肩の可動域に愛莉歌が居ないのでこれも無理だ。


「あれ~もう朝ですか~?」


 しめた! 咲妃さんが起きた。咲妃さんに醜態をさらす羽目になるけど命には代えられない!

 助けて! 咲妃さん!


「おはよう咲妃。まだ寝てていいわよ」


 ノ~~!! 愛莉歌さん!? その優しさは僕の命を刈り取る行為ですよ!


「そうですかぁ~それじゃお言葉に甘えてぇ~」


 咲妃さんは寝てしまったようで軽い振動がベッド越しに伝わってきた。

 終わった……僕はこのまま逝ってしまうのか。

 死因:巨乳に挟まれての窒息死

 嫌だ! 一部の紳士の皆様には羨ましがられると思うけど世間一般からは白い目で見られてしまう!

 僕は限界に近い力を振り絞り柚姉の腕を軽く叩く。

 気付いて柚姉! 僕はもう限界だよ!!


「もう……イズ君暴れちゃダメ!」


 しかし結果は更なる拘束強化に終わった。

 あ……ダメだ……意識が……。


「ちょっと! 何時まで抱きついているのよ!!」


 意識を手放しかけた時、後ろから物凄い力で首を掴まれ強引に柚姉の腕の中から引き出される。

 しかし力が強すぎたのだろう。一気に喉を潰された僕の視界はそのままブラックアウトしていった。


☆★☆★☆★☆★


「女物なんて着ないからね!! はっ」


 自分があげた叫び声で目が覚めた。周りを見回すと昨日泊まったギルドの部屋が目に入る。

 そうか、夢だったのか。しかしさっきの夢は怖かった。親までもが僕に女物の服を買ってくるようになるなんて……。何でこんな夢を見たんだろう……でも本当に夢でよかった……。


「イズ姉ぇ? なに騒いでるのよ」


 洗面所から支度を整えた愛莉歌が顔を出した。ベッドに一人で寝ているところを見るとどうやら最後まで寝ていたのは僕だけのようだ。


「ああ、ゴメン。ちょっと嫌な夢を見ちゃってね……そんなことより喉が痛いんだが……何か知らないか?」


 とりあえず、愛莉歌に声を掛けるのだが何故か喉が痛い。普通に喋れるのだが違和感があると言うか……何と言うか……。


「……さぁ? さっき大声出したせいじゃないの?」


 質問を聞いた愛莉歌はまた壁の向こうへ顔を隠してしまった。どうやら愛莉歌は何も知らないようだ。


「風邪かなぁ……でも内側と言うよりも外側が痛いような……」


「そんなことよりイズ姉ぇもさっさと支度を整えてよね! これから朝ごはんなんだから!」


 あぁそうか、僕が起きるのを待ってくれていたのか。それは悪いことをしてしまった。

 愛莉歌の大きな声を聞いて先程まで考えていた事がストップしてまう。まぁ今は朝ごはんに間に合うように支度をするのが先か。


 僕はベッドから降り服を着替えようとするけど、換えの服を買っていない事に気が付いた。

 どうしよう。昨日はあんなに戦闘をしているし、それに流石に三日も着続けるのはいかがかと思うし。


「どうしたんですか? 出雲さん」


 ベッドに座り込んで考えに没頭していた僕に今度は咲妃さんが声を掛けてくれる。昨日のローブ姿ではなく、ブラウスにスカートと言う出で立ちだった。戦闘用じゃなくて普段着なんだろうなぁ。


「あの? 出雲さん?」


「あ、ごめんね、ちょっと考え事を……。実はこっちに来たばっかしで換えの服をまだ買っていないんだ」


 半分無視するよになってしまった事を謝りつつ、状況を説明する。すると咲妃さんは「大変じゃないですか!」と一緒に解決策を考えてくれた。

 こんな小汚い僕の事を一生懸命考えてくれるなんて、この子いい子や。


「そうですね……私達の誰かが買いに行ってもいいんですけど、それじゃ朝ごはんの時間に間に合いませんし」


 ギルドが朝食を出してくれる時間は決まっていて、その時間を過ぎるとメニューが全てお酒中心の居酒屋の様なものに切り替わってしまうのである。僕一人なら朝食を抜くなりお酒で済ます事も可能だが、わざわざ僕の服を買いに行ってくれる人が朝食抜きになるのはちょっとね~。


「どうしたのよ」


「何か問題でも起きたのかしら?」


 僕と咲妃さんが頭をひねっていると既に準備を終えた愛莉歌と柚姉が話しかけてきてくれた。

 あぁ武器の前に服を買いに行けばよかったなぁ。まぁでもまさかこんな事になるなんて思わなかったし……。

 僕が一人考えている間に咲妃さんが二人に状況を説明してくれている。

 話しを聞いた二人は一度見合うとほぼ同時に頷いた。何かとても嫌な予感がする。


「とりあえずイズ君は体を拭いて来た方がいいわ」


「服はこっちで何とかするから」


 二人はそう言うと僕を浴室へ押し込んだ。浴室と言ってもこの国にお風呂の文化は無い。そのためこの浴室には大きなたらい・・・と魔法石を使った簡単な湯沸かし器があるだけである。湯沸かし器で作ったお湯をたらいに溜め、そのお湯を使ってタオルを濡らし体を拭いたり頭を洗うのだ。

 僕や愛莉歌位の体なら無理すればたらいに浸かることも出来るだろうけど、お風呂にはもっとゆったりと浸かりたい。


 体を拭き終え少し大きめのタオルを腰に巻き部屋に戻ると女性人が頭をくっ付け合い何やら相談していた。


「あの……終わったけど……」


「あら、イズ君おかえり。ちゃんと拭かないと風邪ひいちゃうわよ」


 いち早く反応した柚姉がタオルを使って頭を拭いてくれる。なんて言うか。トリマーに連れて来られた犬の気分だ。


「イズ姉ぇ、皆で話し合ったんだけど。どっちがいい?」


 あれ? 僕は頭を拭いてもらっているうちに目が悪くなったのだろうか? 愛莉歌が持っている服が女物に見えるのだけれども。

 愛莉歌は右手にワンピース、左手に咲妃さんが来ているようなブラウスとロングスカートを持ちよく見えるように掲げてくれている。

 ワンピースは薄い水色でノースリーブになっている。涼しげで動きやすいとは思うけど、この気温じゃ寒いと思われる。

 ブラウスの方は長袖ので一見普通に見えるけどよくよく見ると女物だ。一緒に出されたチェック柄のロングスカートと合わせるともう完全に女の子になるだろう。


「私のサイズじゃイズ君にはちょっと大きすぎるのよね」


「という事で私と咲妃の余っている服をあげるわ!」


「あの、気にせず使ってくださいね」


 出された服を見て言葉を失っていると、柚姉から順々に声をかけられる。

 どうやら頭まで悪くなったみたいだ。僕はこの人達が言っている意味が解らない。


「あの、ちなみに他のものは……」


「ないわ!」


「ごめんなさい。生憎とまだ洗濯が終わってなくて……」


 なん……だと……。まさか今朝の夢が正夢だとでも言うのか……!


「ちなみに、イズ姉ぇの服は洗濯したから。今は水浸しで着れないわよ」


 元の服を着るという退路はいとも簡単に絶たれた。何故だ? どうしてこうなった?


「イズ君はブラウスの方が似合うと思うの」


 柚姉が僕の髪をとかしながらなんのフォローにもならない言葉をかけてくれる。


「そうですよね、柚葵さんもそう思いますよね!」


 柚姉に同意してもらえたのが嬉しかったのか咲妃さんはずいっと前に出てきた。


「出雲さんにはこのブラウスが似合うと思うんです。下はロングスカートですから大丈夫ですよ」


 何が大丈夫なんだ? 女装する段階でアウトだろうに……。


「待ってよ、イズ姉ぇはこっちのワンピースの方がいいわよ。脇も見えるし」


「何でだよ! 意味がわからないよ!」


 愛莉歌の発言に思わずツッコんでしまう。いや、ツッコませてほしい。このままじゃ僕は紳士諸君の仲間に入ってしまう。


「だって私やユズ姉ぇがワンピース着ているときは必ず見てくるじゃない!」


 バレてる!? 何故だ!? いや、決して脇を見ているわけじゃないんだよ? そこからちらりと見える横乳がね? こう何とも言えないハーモニーをだね……。

 僕は意外と立派な紳士だったようだ。


「気付いてないと思っているのは男だけだよ」


「自分は見てないよって必死に取り繕っても無駄ですよね~」


「お姉ちゃんはイズ君が見たいなら構わないわよ?」


 女性陣は次々と言ってもいない質問に答えをくれる。どうやら顔に出ていた様だ。


「ほら! 好きなんでしょ? ワンピース」


「見るのが好きなのは認めるが、着たいとは思わないわい!」


 突き出されたワンピースを愛莉歌に押し返す。何故に僕が着なきゃならんのだ! 来てくれるなら是非柚姉に!!


「あの……ノースリーブだと毛の処理が大変なんじゃ……?」


 そこに咲妃さんが助け船を出してくれる。けど、その助け船はあんまり意味を成さない。何故なら、


「大丈夫よ、イズ姉ぇ体毛薄いから! 脇に至っては無毛地帯よ!」


 そうなのだ、二次性徴を迎えたが脛毛はおろか腕にも脇にも毛は生えてこなかった。当然髭も生えてない。本当にどうなっているんだ? 僕の体は。


「ってちょっと待て、何で愛莉歌が知っているんだよ」


「千穂に聞いたのよ」


 愛莉歌はそんな当たり前の事を今さら聞くなと言わんばかりに答えてきた。

 ア・イ・ツ・かぁ~。自分の幼馴染みに兄の毛の事情なんて話すなよ!


 千穂の事は置いといて、朝食まで時間がないと言うことで多数決で多かったブラウスとロングスカートを身につける事になった。いくら服がないからといって女物を身につける事になるなんて……。


★☆★☆★☆★☆


 僕達が泊まったのはギルドの二階、飲み屋の裏側になる。スタッフ用の通路を歩きお店に出ると既に多くの席は埋まっていた。メインはお酒なのだが、ここの朝食は人気が高いと咲妃さんに教えて貰った。


 何とか全員で座れる席を確保すると、メニューを持った店員さんがすぐに駆けつけてくれた。なんともサービスが行き届いている居酒屋である。居酒屋であっているのかな?

 しかし届いたメニューにはモーニングとお酒しか載っていなかった。しかもモーニングとしか書かれていないところを見るとやはり主流はお酒なんだろう。


「おはよう、昨日はよく眠れたかしら?」


 メニューと睨めっこをしていたら不意に声を掛けられた。メニューから顔を上げるとリサさんが笑顔で手を振っていた。昨日あれだけ飲んだのにアルコールは一切残っていないようだ。


「あ、おはようございます。昨日は部屋を用意してくれてありがとうございました」


「いいのよ~あなた達には街を護ってもらったのだから、本当ならこの街で一番いい部屋を用意するところなんだろうけどね」


 他のメンバーも挨拶をしていく中リサさんは茶目っ気たっぷりにウィンクをしながら返してくれた。本当に頼れるお姉さんと言った感じだ。こんなこと聞いたら柚姉が怒ると思うけどね。

 話しを聞くと朝食がまだだと言うので一緒に食べることにした。ご飯は大勢の方がおいしいと思うのは元々家族が多かったからだろうか?


「ねぇ今気づいたんだけど。イズモちゃんの格好……」


 しまった! 普通に話していたけど今の僕は女装していたんだ!

 リサさんから服装について声を掛けられると自分でも理解できるほどに顔から血の気が引いて行くのがわかる。

 ヤバイ、ヤバイ! 折角仲良くなったのに変態だと思われる!


「とっても似合うわね! どこで見つけてきたの?」


 …………。

 リサさんから発せられた言葉を聞いて僕はその場で石化した。何も答えない僕に変わって実際服を買った咲妃さんとこの服装を推した柚姉が会話に花を咲かせていた。

 そうか……この服装似合うんだ……。


「イズ姉ぇ?」


「なんだい愛莉歌」


 そんな僕の状態を察してか愛莉歌が声を変えてくれる。そうさ、何だかんだ言ったってこいつはいい奴なんだ。


「ドンマイ!」


 愛莉歌はこの世界に来て初めて見せるとてもいい笑顔でサムズアップしやがった。

 そうだ、こいつはこういう奴だった……。

 その後人気のモーニングが届いたけど味はほとんどわからなかった。

出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠

装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差


愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士

装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト


柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???

装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド

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