10話 祝賀会
凱旋も無事終わり、自由の身になったので冒険者ギルドに行くことにした。
ギルドのドアを開けると中に居た柚姉がいの一番に駆け寄ってきて思いっ切り抱きしめてくれた。
「イズ君! それにエリちゃんも!! 無事で本当に良かったわ!!」
今現在柚姉の柔らかい体で折れた右腕が絶賛圧迫中なんだけど……。
僕は痛みで声が出ない為、柚姉の肩を数回タップした。
「あら? どうしたのイズ君? お姉ちゃんに抱きつかれるのは恥ずかしかった?」
見当違いな事を言い出す柚姉。しかしその拘束は緩むはずもなく僕は痛みで気が遠くなる。
「ユズ姉ぇ、ユズ姉ぇ。イズ姉ぇ骨折してるからあんまりきつくすると痛いんじゃないかな……」
骨折した腕を抱きしめれられると言う拷問に思う所があったのだろう。愛莉歌が柚姉に痛みで喋れない僕の変わりに伝えてくれる。
「イズ君骨折しているの!? やだ! 右腕に添え木しているじゃない! 何でもっと早く言わないのよ!」
柚姉は僕から離れると僕の右手に治癒の魔法をかけてくれる。右腕が温かい光に包まれると今まで感じていた痛みがすっと消えていく。さすが聖職者。回復はお手の物だね。
「はい……治療終わり。念のため数日は動かさないでね」
柚姉はそう言うと手ごろな布で作った三角巾で僕の右腕を固定してくれた。魔法万歳だね。
入り口からカウンター前へ移動し、しばらく柚姉と会話しているとギルドマスターであるダンが挨拶を始めた。しかし、偉い人の話しと言うのは大概つまらない。なのでリサさんに今回討伐したオークとオークロードの値段を算出してもらうことにする。
今回のクエストは緊急だったため、ギルドからの報酬は少ない。だが討伐したオークはそのパーティ又は個人に所有権が与えられるそうだ。
今回の僕達パーティはオークを三十五体とオークロードを一体討伐している。ちなみにオーク三十五体の内二十体は愛莉歌が一人で討伐していた。
「エリちゃん凄いわね~」
ギルドから貰った詳細を見ながら柚姉が愛莉歌を抱きしめ頭を撫でまくる。この人の抱き付き癖は治る気配がない。もう二十歳を越えているのに……。
「今回は相手が多かったからよ、それにイズ姉ぇだってそこそこ倒してるし」
誉められて満更でもないくせに……。
愛莉歌は柚姉にもみくちゃにされながらもその顔はにやけている。
「それにしても凄いわね~あなた達。あのBランクパーティのクリスタルダイナソーを抜いてダントツの一位よ」
今回参加した全ての冒険者が報告をし終えたのだろう。集計結果の紙を持ちながらリサさんがこちらにやって来た。
「個人のトップはエリカちゃんで、二位にイズモちゃんとハルキ君ね。それにイズモちゃんはボスまで討伐しているものね」
僕達はリサさんから報告書を見せて貰った。その報告書には討伐数や場所などが詳細に書き込まれている。
「あの~この結果って張り出したりされます?」
「いいえ、ギルドの中だけの情報だけど……やっぱり自慢したいの?」
有名になって良いことなんてひとつもない。
その事を身をもって知っている僕は全力で首を振る。
「逆ですよ、僕はこのまま静かに暮らしたいです」
「そうなの? イズモちゃん達なら直ぐ有名になれるわよ?」
「そうですね~本当なら兄さんの代わりに彼処で挨拶してても言いと思いますよ?」
駄弁っている僕達に一人の少女が声をかけながら近付いてきた。その声の主は先程まで一緒に行動していた少女だ。
「咲妃さん!」
「一言お礼を言いたくて。オークから助けてくれてありがと」
咲妃さんは深々と頭を下げてきた。その様子に柚姉とリサさんは頭に疑問符を浮かべている。
愛莉歌は軽く手を振り、頭を上げるように言葉をかける。僕も彼女の意見に賛成なので声をかけることにする。
「どういたしまして。お互い無事で良かったね」
咲妃さんは吊られている僕の右手を見て「無事?」と呟いたが気にしないことにしたようだ。
「兄さんもアレが終わったら挨拶したいって言ってましたよ」
咲妃さんの言葉に釣られて全員で同じ方を見るとダンの隣で陽輝がしどろもどろになりながらも挨拶をしていた。Bランクでも人前での挨拶は慣れていないようだ。
「さてと、このままここで話すよりも上に行かない? 約束通りお姉さんが奢ってあげるわ」
そう言ってリサさんは上を指差した。今日はもう何もする気にならないので、その提案をうけることにした。
ちなみに今回の報酬は一人当たり一五〇〇アルバとなり。明日支払われる事になった。
これで一カ月は宿に引きこもれるね。
☆★☆★☆★☆★
初めて上がった二階は居酒屋といった雰囲気のお店だった。
大きなテーブルの一つに僕達を勧めるとリサさんはそのままカウンターの方へ行ってしまう。
「なんか思ったよりも綺麗な場所ね」
愛莉歌は周りを見渡しながら感想を言う。確かに冒険者達が利用している割には清掃が行き届いている。きっとフロア担当の人が一生懸命掃除したのだろう。
「どうしたの? こういうお店は初めて?」
愛莉歌に釣られてキョロキョロしているところを大きなトレーを両手で持ったリサさんに見つかってしまう。笑って誤魔化しながらリサさんからトレーを受け取ると大きなジョッキが五つとお肉の料理が数点乗っていた。
「これおいしそうですねぇ」
「獲れたてのお肉を使っているからおいしいわよ!」
料理をテーブルの中心に置き、ジョッキを配っていく。と言うか獲れたての肉っていったい……。
ジョッキにはビールに似た液体が入っているけど、これなんて言うお酒なんだろう? てかお酒なのか?
「さて、皆に行きわたったわね。街を救ってくれてありがとう! あなた達には感謝してもしきれないわ!! それじゃ朝まで騒ぐわよ! 乾杯!!」
「「乾杯!!」」
リサさんの乾杯の音頭を聞き、皆一斉に飲み始める。僕も左手でジョッキを傾け一口二口と飲んでいく。
強い炭酸と甘い後口で何杯でも行けそうな飲み物だ。
「リサさん。これなんて言うお酒なんです?」
「これはね、ハイネって言うお酒よ。麦芽とホップから作られているの」
なるほど完全にビールだ。僕もそんなにお酒を飲む方じゃないけどこれは飲みやすいと思う。あれよあれよという間に中身が消えていき、気が付くとジョッキ一杯飲みきってしまっていた。
「あら、イズモちゃんはいけるクチね? アジーナ! ジョッキ二つおかわり!!」
リサさんは飲み干したジョッキを片手にカウンターに居た女性におかわりを注文していた。
「そう言えばリサさんはお仕事中じゃ?」
「今日はもう上がりよ。と言うか本当は休みだったんだけどね、街がこんな状況じゃない? だから休日返上でお仕事してたわけ」
休日返上とか大変だなぁと思いながらも新しいジョッキを受け取り二杯目を飲んでいく。すると隣からジョッキが僕の手前にスライドしてきた。送り主を見ると愛莉歌が顔をしかめながらこちらに押し付けてきていた。
「飲めないの?」
「苦い。よく平気で飲んでいるわね」
よく見ると愛莉歌だけでなく、咲妃さんも両手にジョッキを持ちしかめっ面で飲んでいる。
そんなに苦いかなぁ? 日本のビールよりも甘いと思うけど。
「あらあら。二人にはまだ早かったようね。アジーナ! オレンジを二つ頂戴!」
リサさんはそんな二人に新しい飲み物を注文してくれた。当然残ったビールは僕とリサさんがおいしく頂きました。
運ばれてきた“オレンジ”と呼ばれた飲み物は綺麗なオレンジ色をして、オシャレなグラスに入っていた。
「わ~きれい~」
「可愛い飲み物ですね~」
二人は新しく運ばれて来た飲み物に興味深々だ。試しに愛莉歌が一口飲むと釣られて咲妃さんも飲み始める。
「甘い!」
「さっきのより飲みやすいです!」
見た目からしてカクテルのようだ。まぁカクテルなら甘いものも多いしあの二人でも飲めるだろう。
「それ、アルコール度高いから飲み過ぎるなよ」
「わかっているわよ!」
「おいしいです~」
一応忠告はしておいたけど、聞いているかどうか怪しいものだ。
僕達はそれから各々飲み食いをし始めた。
★☆★☆★☆★☆
乾杯から数十分後、下の階での演説が終わったのか陽輝やダン達も二階に上がってきた。一瞬陽輝がこちらを見ていたけど、直ぐにダンによって別のテーブルへと連れて行かれてしまった。
「マスターも一仕事終えたようね」
隣で本日四杯目のジョッキを空にしたリサさんが呟いた。
「そう言えばあなた達のパーティ、名前がまだ登録してないみたいだけど何か考えているの?」
新しいジョッキを貰ったリサさんが思い出したかのように質問してきた。そう言えばまだパーティ名を決めてい無かったっけ。
「僕は何でもいいけど、柚姉何かいいのあるかな?」
僕は何もいい案が思い浮かばなかったので隣で料理を手に取り僕の口に運んでいる柚姉に話しかける。と言うかいくら右手が使えないからと言って愛莉歌を押しのけてまで隣に来なくても……。
「そうね~エリちゃんがいいなら前のギルドの名前にしようかと思っているのだけど、どうかしら?」
ギルドの名前か、僕は特に反対する理由がないな。僕と柚姉は答えを聞くために愛莉歌の方を向く。
「パーティ名~? 柚姉ぇの好きなのでいいわよ~」
手に持っていたグラスの中身を飲み干した愛莉歌は投げ遣りな感じで答えてきた。いつもと感じが違うので注意深く見てみると頬は赤くなり目がトロンとしている。
あ、ダメだコイツ完全に酔っている。
「柚姉、愛莉歌酔ってるから明日にしようよ」
「そうね~今の状態で聞いてもダメね」
柚姉と一緒にため息をつくと愛莉歌から「酔ってない!」と抗議の声が上がる。
酔っ払いは全員そう言うんだよね。
「あらあら、飲み過ぎちゃったかしら?」
リサさんは相変わらずマイペースでジョッキを空にしていく。多分こういう人をざるっていうんだろうな。
「新しいパーティ……いいなぁ~あたしも入りたいなぁ~」
話しを聞いていた咲妃さんが急に席を立つと僕の膝の上に跨るように座ってきた。そして頭に手を回し思いっ切り胸に抱きしめる。高さ的にちょうど顔が胸に埋まる感じだ。
「ふぇ? 咲妃さん?」
「嫌です~あたしも呼び捨てで呼んでください~」
咲妃さんはそのまま嫌々と体を揺すり始める。当然僕の頭を抱えたまま。
これは……ヤバイ!! 気持ちいいよりもお酒が回って気持ち悪くなる!!
「わかった! わかった止めて! 咲妃!!」
「ふぁ~呼び捨てで呼んでくれました~あたし幸せでしゅ……」
咲妃はそのまま僕にくっ付いたまま静かに寝息を立て始めた。ガッチリと頭を固定されている為、呼吸をするだけでも一苦労だ。
「……ねぇイズ兄ぃ。イズ兄ぃはやっぱり咲妃や柚姉みたいなおっぱいが大きい人が好きなの?」
何とか呼吸を確保するために咲妃の胸から顔を出した僕の左手を愛莉歌がそっと握ってくる。その握り方は今までの全力で掴んでくるやり方ではなく、どこか不安気で縋り付くような感じだった。
「ねぇ……どうなの?」
「うぇ? そんなことない……と思うけど……」
僕の答えを聞いた愛莉歌はそれを否定するように激しく頭を振った。
「嘘よ! だって一向に振り向いてくれないじゃない! 私だって……私だって!! ふえ~ん!!」
あろうことか愛莉歌はそのまま僕の左腕に抱きつくと泣きはじめてしまった。どうやら二人とも性質の悪い酔い方をしてしまったようだ。まぁ初めて飲むお酒がカクテルじゃ飲み過ぎるわな。
……初めて飲むお酒?
「しまった! こいつ等まだ未成年だ!!」
「そうよ! 何か忘れていると思ったけど、エリちゃんもサキちゃんも未成年だったわ! どうしよイズ君。未成年者にお酒飲ましちゃったわ!!」
一気に酔いが醒めて行く感じがする。
慌てふためく僕達をリサさんは何が問題でもと言った感じで飲み続けている。日本の法律が通じないのはわかるけど、何か違和感があるなぁ。
飲ませてしまったものはしょうがない。ここはさっさと寝かしてしまおう。
リサさんにお礼を言って宿へ戻ろうとするが膝の上に陣取った咲妃さんが一向にどこうとしない。抱きかかえて下ろそうと考えたが右腕は折れてるし左手は愛莉歌に捕まれている為に断念した。
「リサさん、柚姉、助けて」
「ん~これは……なんとも……」
「今日は泊まっていったら?」
柚姉は困った様子で首を傾げ、リサさんは楽しそうにジョッキを傾る。
ダメだ。助けになりそうにない。
結局、リサさんがギルドの人に話しかけ部屋を一つ借りれる事になった。普通は貸出はしていないのだが、有事の際にはギルドの判断で貸出が許可されるそうだ。
今回は街中がお祭り騒ぎという事もあり宿に泊まれない冒険者に限定して貸出をしているそうだ。
愛莉歌は柚姉に任せて僕は咲妃さんを抱きかかえて借りた部屋へと移動した。お姫様抱っことか初めてやったけど案外出来るじゃないか。
借りられた部屋はワンルームで、ベッドが一つと簡単なテーブルと一人掛けソファーが二脚あるシンプルなつくりになっている。よくあるホテルのシングルルームのようだ。
とりあえず酔っ払いの愛莉歌と咲妃さんをベッドへ寝かすとして、
「柚姉もベッドで寝なよ。僕はソファーでいいからさ」
「ダメよ、イズ君は戦ってきたんだもの。ちゃんとベッドで寝ないと」
柚姉はそう気を聞かせてくれるけど、ここのベッドは四人で寝れる程大きくない。まぁ十分な大きさがあったとしても、女性だけの中で寝れる程僕の精神は強くない。
何とかしてソファーで寝ようと考えていると業を煮やした柚姉が突進気味に抱きついて来た。
「もう! 『みんな一緒で問題なし!』よ」
ベッドの上には端から咲妃さん、愛莉歌、僕、柚姉の順できっちりと納まった。ただし僕は柚姉の腕の中何だけどね。
「ふふ、イズ君と一緒に寝るのも久しぶりね」
そりゃそうだろう。二十歳過ぎて一緒に寝るなんて……ねぇ?
下手に動くと折角静かになった酔っ払い達も起きてしまうのでここは静かに柚姉の腕の中で寝る事にしよう。決して役得なんて思ってないよ。本当だよ。
初めはドキドキしていた心臓も、柚姉の懐かしい匂いに包まれると何故か安心感を覚える。
そんな安心感と昼間の疲れが僕を夢の世界へと誘う。今日はいい夢が見れますように。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド




