9話 解き放つは黒歴史!
僕が工匠のレベルを上げているある時。あるマンガの存在を知った。
そのマンガは主人公が刀を使って戦い、傷つきながらも仲間と共に成長し敵を倒すと言ったものだった。良くある少年系のマンガだったのだが、その中に刀の名前を呼び力を解放し、更なる強さを主人公にもたらす描写があった。
そのシーンを見た瞬間、僕はこれだ! と確信した。“真名を呼ばれる事によって解放する力”これをFYOの中で再現できたなら……。
当時の僕は既に病気にかかっていたのだろう。それから何日も試行錯誤を繰り返しついに一本の刀を作り上げる。
マンガの描写と同じように姿を変える事は出来なかったが、性能を上げる事に成功した。
これはいい武器だ!と自画自賛し、数種類の武器を作り柚姉やギルドメンバーに見せに行った。
そしてその時、場の雰囲気とメンバーが溢した一言で僕は我に返りこの武器達を封印した。
そうこれは忌まわしき歴史。語ることのない黒歴史。
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今僕が構えているククリナイフはその黒歴史の中で作られた一振りだ。真名を呼ばれた事によって姿を変貌させてたソールイーターは刀身を黒く変色し、縁取るように赤いラインが引かれている。
僕は数回素振りを繰り返し握りを確かめる。するとちょうどいいタイミングで愛莉歌の猛攻を抜けこちらに迫ってくるオークが居たので無造作にソールイーターを突き刺した。
「喰らい尽くせ、ソールイーター!」
僕の言葉でソールイーターはオークの命を喰らい始めた。ドクン、ドクンと剣が脈動するのが伝わってきて、ゲームでは味わう事の無かった感覚に思わず手を放しそうになるのをぐっと我慢する。
オークの命を喰らうにつれ、刀身はさらに黒く縁取りは真っ赤に色を変えていく。
ゲームの中では体力と魔力を吸収する設定だったのだが、この世界のソールイーターは名前通り命を喰らっているようだ。ほんの何十秒という間に命を喰い尽くされたのかオークは膝から崩れ落ち、動かなくなった。致命傷には程遠く、鋒が少し腹部へ刺さった程度の刺傷なのだが目の前のオークは命のをおとしたのだ。
まずいな……能力が暴走しているのかな。
僕は平静を装いながらも内心焦りまくっていた。ゲームでは体力と魔力を吸収するだけだったのに、今では軽く刺すだけで命を奪ってしまう。
ゲームの時以上に人目につかないようにしないと……
オークからナイフを引き抜きオークロードを見据え構え直す。赤い縁取りは先ほどのオークを咀嚼しているかのように未だに脈動している。
仲間を殺されたオークロードは僕を獲物と認識したようでその巨大な斧を振り上げ雄叫びをあげながら突進して来た。
僕の数センチ横に斧が振り下ろされる。全神経をオークロードの攻撃に集中しないと避けれる気がしない。ラッキーだったのは攻撃が当たらない事にイラつき始めたオークロードの攻撃が大振り化している事だろう。力任せに振るわれる斧の軌道を読むのは難しくない。ただ当った瞬間即死するだけだ。
ああ、何で僕はこんな危ない事をやっているだろう……。
そして回避すること数回、ついにチャンスが訪れる。偶然かもしれないが、斧を避けた瞬間オークロードの懐に入ることに成功する。
いや狙えば今までにもチャンスはあったのだが、どうも腰が引けて……。
弱気な自分を心の奥に仕舞い込み、僕はオークロードの脇を通り過ぎる際にククリナイフを一閃させる。手に確かな手応えを感じ振り返ると鎧を切り裂かれたオークロードが怒りの眼差しを向けてきた。
あの鎧は一張羅だったのだろうか? あまりに簡単に切れてしまうのでただの布かと思った。
「そんなに大事な鎧だったらちゃんと仕舞っておかないと……」
「グオオオオオオ!!」
挑発したつもりはないのだが、オークロードが雄叫びを上げ猛烈な斧による連打を仕掛けてくる。
盾は最初から装備してないし、このソールイーターじゃ奴の斧を受けた瞬間に砕かれるだろう。
ちょっ捌ききれない!
次第に速度が上がっていくオークロードの乱舞を何とか避けていたがキリが無いので一旦距離を取る事にする。
大きくバックステップをするが、そんなことを許してくれる相手ではなかった。
オークロードは右肩を突き出すような体勢であろうことか突進してきた。当然バックステップの途中で空中に居る僕に避ける手段はない。
咄嗟の判断で体の前で腕を重ねた瞬間、すさまじい衝撃が体を襲う。
まるでトラックに轢かれたのではないかと思う位僕の体は後方へ吹っ飛ぶ。数回地面を転がり、木に激突することでようやく止まる。時間が無かったので防具を後回しにしたツケがここで回ってきた。
痛みを堪え何とか立ち上がるとオークロードが迫っていた。慌てて右腕を持ち上げようとするが反応がなく、激痛だけが返ってきた。恐る恐る確認すると右手の肘より下が在らぬ方向に折れ曲がっていた。
「――ッ!!」
見た瞬間今まで以上の激痛が体を支配する。しかし、現実は残酷で目の前にはオークロードが斧を振り上げ迫ってきている。僕は地面に落ちていたソールイーターを左手で拾い上げオークロードにその鋩を突き付ける。
深呼吸を繰り返し集中力を高める。チャンスは一度。オークロードが斧を振り下ろす瞬間を見極める。
斧の間合いに入ると奴は雄叫びを上げ斧を振り下ろす。
僕は紙一重でそれを避けると逆に左手のソールイーターを一閃させる。
ソールイーターはまるでバターを切るかの如く滑らかにそして簡単にオークロードの手首を斬り飛ばした。鮮血が噴き出ている右手を抑えながらオークロードが先ほどとは違った雄叫びを上げる。
「ガアアアアアアア!!」
オークロードは右手は捨てたのかまだ無事な左手を握りしめると猛然と襲いかかってくる。
「遅いよ」
僕はオークロードの左突きをサイドステップで避けるとその場で回転しオークロードの足を斬り付ける。膝を斬られたオークロードはその場に両手と両膝を地面に着け跪く格好になる。
僕は斜め後ろからオークロードの首にソールイーターを突き付ける。
「ごめんね。この戦いは僕の勝ちだ」
オークロードはこの後どうなるか悟ったのだろう。抵抗する為に右手を振り上げるが、その手首から先はない。僕はゆっくりと回避するとそのままソールイーターを振り下ろした。
「皐月流剣術・一刀“首狩り”」
分厚い喉周りの筋肉や脂肪、太い骨を物ともせずソールイーターはオークロードの首を切断した。
リーダーを倒されたオーク共は棒立ちとなり。一瞬後、各々逃げ出した。
その場に残されたのは倒された多くのオークの死体とオークロード、その傍に佇む僕。そして
高笑いを続ける愛莉歌だけとなった。
「しまった! 愛莉歌の事すっかり忘れてた!!」
僕はソールイーターを鞘に戻すと折れた右腕を庇いながら愛莉歌の元まで全力で駆け寄るのだった。
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「愛莉歌! 聞こえる愛莉歌!! もう終わったから元に戻ってよ!」
片手にオークの死骸を掴み未だ高笑いを続ける愛莉歌に近付いて行く。正直この姿を見せられると結婚どころか友達付き合いを考え始めると思う。
僕の声に反応したのか愛莉歌はこちらを振り向くとオークの死骸を投げ捨て一直線に僕に迫ってきた。正直オークロードの突進より怖かったのはここだけの秘密だ。
愛莉歌はそのまま僕の胸に飛び込むと絶対に離さないと言わんばかりに抱きついて来た。
うん、そうだ。でっかいネコだと思えば怖くない……怖くない……よ?
「イ……イズ……モ……?」
「ああ、出雲だ。もう戦いは終わったんだ。ごめんなこんな辛い事をさせちゃって」
僕は抱きついてくる愛莉歌の頭を何度も何度も撫でた。狂戦士となった者は自分の意思でスキルを解除できないらしい。なので魔力が尽きるまで戦い続けるかこうして闘争心が無くなるように落ち着かせるしかない。
頭を撫でられている時の愛莉歌は本当にネコみたいで、少し可愛いと思ってしまった。手足がオークの血に染まっていなければ。
「イズモ……スキ……イズモ、スキ!」
「ん? 僕も愛莉歌が好きだよ」
僕の言葉に気をよくしたのか愛莉歌はさらに腕に力を込める。オークロードの突進を喰らい脆くなっている背骨と肋骨の辺りからパキパキと不穏な音が聞こえ始めた。
まずい……このままじゃ僕の上半身と下半身がおさらばする!?
「随分仲がいいんだね」
「羨ましいの? 兄さん」
リーダーと咲妃さんはのん気に会話をしている。
いや、助けて欲しいよ!? でも愛莉歌が咲妃さんを抱きしめたらその場で絞め殺しちゃうし。リーダーに抱きつくのは……何か嫌だな。くっそ~僕が耐えるしかないのか! 頑張れ僕の骨達よ!
「イズモ……イずも……ん? イズ兄ぃ?」
「おお! 気が付いたか愛莉歌。早速だが放してくれ!!」
どうやら愛莉歌の魔力が切れたようだ。助かった。どうやら肋骨は折れずに済みそうだ。
「あれ? イズ兄ぃが近い? って何で抱きついているのよ! イズ姉ぇ!」
愛莉歌は顔を真っ赤にして僕を突き飛ばそうとするが魔力切れで力が入らないのかポスンと両腕が当たっただけだった。
「無理してはいけませんよ。魔力が切れているんですから。それに好きな人を叩いたりしちゃダメですよ?」
咲妃さんが爆弾に火をつけた。いや、咲妃さんはあくまでも愛莉歌を心配して声を掛けてくれたのだ。うん、そうだと思いたい。
「ふぇ!? 私イズ姉ぇの事……好きって……言っちゃった?」
だんだんと声が小さくなって最後の方は少し聞こえずらかったけど咲妃さんにも聞こえた様で二人で頷く。
「それに出雲さんも好きだよって言ってくれましたよ」
「え? イズ兄ぃ……本当?」
どうしたんだ? 今日に限って愛莉歌が可愛い。
まぁ言った事は事実だし。ここで変に否定するのもおかしな話しか。
それよりも誰も僕の右腕の事に触れないのだけど……そろそろ痛すぎて意識が飛びそうだよ?
怪我の状態を考えるとここは話しを早く終わらせる事が重要のようだ。
「言ったよ。僕は愛莉歌が好きだよ」
「あ……」
「血のつながりは無いけど妹として、家族として愛莉歌の事は大好きさ!」
「ああん?」
あれ? 何か寒気が……それに体が動かないぞ? どうしたと言うんだ!?
「そう……そう言う事……ねぇイズ姉ぇ? 私と千穂ならどっちが好き?」
「え? 千穂? ん~そうだなぁ二人とも大事な妹だし……順番なんて付けれないな」
「イズ姉ぇ~の……バ~~カ~~!!!」
「グハっ!!」
直後僕の腹部に愛莉歌の右ストレートが刺さる。その後ろでは咲妃さんが小さくガッツポーズをしていた。
愛莉歌の奴……魔力切れじゃなかったのか? それに咲妃さんも何でガッツポーズをしているの? え? これ僕が悪いの?
「……バカ」
「愛莉歌さん。ドンマイです」
最後にそんな言葉が聞こえたと思うけど定かではない。
何故なら右腕の骨折に加え、お腹に渾身のストレートを喰らった僕のダメージはキャパオーバーだ。
僕の意識は静かに闇に落ちて行った。
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気が付くと右腕に添え木がされていて大きな木を背もたれにする形で座らされていた。そして隣には咲妃さんが同じく座っていた。どうやら付き添っていてくれたようだ。
彼女と話しをすると、どうやら僕が寝ている間に皆フレンド登録まで済ませたようだ。僕のメニュー画面にも承認待ちのアラートが点滅している。
僕は急いでフレンド登録を済ますと同時にフレンド申請をしておいた。
返事は直ぐに来て兄の方は一条陽輝、そして妹は一条咲妃と言うようだ。今現在陽輝と愛莉歌は素材回収をしている。
「イズ姉ぇさ。腕が折れてるならそう言いなよ」
「言う前に殴り飛ばしたのは何処のどいつだよ」
素材回収を終えた愛莉歌が僕に近付きながらそんなことを言って来た。てか自己申告しないと骨折ってわかってもらえなかったっけ?
陽輝さんと咲妃さんは苦笑いだ。
そして愛莉歌は入りきらなかったと残ったオークを目の前に積み上げ始めた。オークロードは倒した僕が持つことになっている。
「この量多くないか?」
「私のアイテムストレージはもうパンパンよ」
「陽輝さんも?」
「僕もそうだね。あと同い年なんだから敬語も使わなくていいよ」
そうですか。アイテムストレージがパンパンになるほど殺したんですか?
僕は二人が回収しきれなかった素材をアイテムストレージに収納していく。
てか陽輝さんはどうもフランクな付合いを希望しているようだ。
「それじゃお言葉に甘えて。素材回収が終わったなら帰ろうか?」
「そうね。イズ姉ぇも起きたことだし帰りましょうか」
僕達の言葉に異論は内容で一条兄妹も揃って頷いた。
僕達は街を目指し森を後にした。
先頭は陽輝が担当してくれたので僕は殿を務める事にした。後ろからの攻撃は怖いけど、女の子達にやらせるわけにもいかないだろう。
二時間程歩くと森から抜け最初に布陣していた平地が見えてくる。そこには大勢の冒険者や街の住人達が居て僕達の姿が見えると全員が歓声で迎えてくれた。
「ようやく一息つけるわね」
「当分宿から出たくないよ」
愛莉歌と他愛のない会話をしていると陽輝が近付いて来た。
「ほら、出雲も。声援に応えてあげなよ。今回の一番の功労者だろ?」
「いや僕はいいよ、目立つのは嫌いだし。それに無名のパーティよりもBランクの陽輝が手を振った方がいいと思うよ」
陽輝はそんなものかなと呟きながらも大きく手を振り街のみんなの声援に応えた。
ま、皆の前に出るなんてガラじゃないし。こういうのはお任せお任せ~
僕達はそのまま陽輝を先頭にアルス・テルスの街を凱旋した。
これでようやくオーク討伐戦は終了した。僕達の勝利という結果を残して。
出雲:レベル17 職業:剣士 サブ:工匠
装備:布の服・革の胸当て・革のブーツ・ククリナイフ【ソールイーター】・脇差
愛莉歌:レベル17 職業:武闘家 サブ:狂戦士
装備:俊足の道着・甲冑靴・鋼鉄のフィスト
柚葵:レベル15 職業:聖職者 サブ:???
装備:癒しのローブ・革の靴・ロッド




