formerー3
一日中、上の空だった気がする。
いつも通りに職場について、子供たちと遊んで。
ま、アサイチで先輩に謝られたけど。
ってか昨日の今日で連絡いってるってどういうことよ。
そんなに責任感じなくてもいいのにってくらいに頭を下げた先輩に、こっちが申し訳なく思ってしまった。
だって、そんなに傷ついてないんだもの…。
確かにあの瞬間はショックだったけど、色々あったせいで悲しみが薄まったというか…。
寝不足+考え事で、よっぽどひどい顔をしていたんだろうな…。
まだ園児が残っていたけど、早めに帰らせてもらえた。
あー、うちの庭、何とかしないと。
いや、それより掃除か洗濯?
やらなくちゃいけない事はいっぱいあるのに、家に帰る足がやけに重い。
会いたい気持ち半分、会いたくない気持ち半分。
あたしを好きだって言ってくれた優太じゃないってわかってるのに、幸せな日常を思い出す。
思い出したら期待しちゃう。
もしかしたらって…。
駅前に着いた時、携帯がなって立ち止まった。
あんまりなることがない携帯の着信に若干ビビって恐る恐る通知をみれば、非通知だった。
あんまり出たくないけど、まだ家に帰りたくないし、ゆっくりとボタンを押した。
「……はい」
『あ、俺。お前今日何時に帰ってくる?』
俺様な話し方。
聞き慣れた声。
聞いた瞬間に身体がしびれた。
優太……。
「……」
『おい、笙子?』
言葉が詰まって出てこない。
声を聞いた瞬間に、わかってしまった。
勝手に出された婚姻届も、何時の間にか決まってた結婚式の日取りも、あたしの知らないうちにほとぼりを埋められていた周到さも、しょうがないなって許せたのは何でか。
それ以前に、二度目の幼稚園時代から突き放さないで一緒にいた理由。
生まれた娘の名前を一生懸命に考える横顔。
何時の間にか当然になっていた隣を歩く権利。
彼女をいちいち紹介してくるたびにイラついたこと。
何でも上手くやるあいつに近寄れなくなって行ったこと。
前回も、前々回もひっくるめて、愛しいって思ったからだって。
あー、そうか。
あたしを好きだって言ってくれた優太の側は居心地が良くて、確かに好きだったんだと思う。
でも、それはいま、この世界にいる優太とは別に考えてた。
何でも器用にこなして、あたしを気にかけてくれて……立場や方法は違ったけど根っこはおんなじ。
何でこんな時に気づいてしまったのか、身体に響く声がだんだん厳しい口調になっていくのに、声が出ない。
「…あ…」
『なんだ、どうした。振られて落ち込んでんのか』
何で知ってるんだ……いや、当てずっぽうだな。
身体を締め付けていた痛みがゆっくりと和らいで行く。
言葉に優しさを感じたから。
「……何でもない、急で驚いたのよ。もうすぐ帰るわ」
『そうか。話がある、帰ったらウチに来い、早く帰れよ』
なんの話か聞く前に切れてしまった。
何だろう、また彼女紹介だったら今度こそ泣く自信があるんですけど……。
更に重くなった足取りでゆっくりと歩き出した。




