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FATED FAIRY TALE ~運命なんてクソくらえ~  作者: デスティニー誠
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橋の向こう側

 赤ずきんと母親は、暗い森の中を駆け抜けていた。


 枝が頬を切り、木の根が何度も足に絡みつく。それでも立ち止まることはできない。


 背後から、狼の咆哮が響いた。


 生きている。


 燃え盛る家から、あの狼が追ってきている。


「お母さん、もっと速く!」


「分かってる!」


 二人の背後で木が倒れた。


 振り返ると、巨大な狼が木々をなぎ倒しながら迫っていた。毛の一部が焼け焦げ、片目から血を流している。


 それでも、その速度は落ちていない。


 むしろ怒りに任せ、先ほどより速くなっていた。


「追いつかれる!」


 木々の先に、崖が見えた。


 崖の間には、古びた吊り橋が架かっている。その遥か下では、激しい川の流れが岩へぶつかっていた。


「橋を渡るのよ!」


 二人は吊り橋へ飛び乗った。


 板が軋み、橋全体が大きく揺れる。


 母親が先に対岸へ辿り着く。


 赤ずきんも必死に走ったが、途中で足を踏み外した。


「きゃっ!」


 割れた板の隙間へ片足が落ちる。


「赤ずきん!」


 母親が戻ろうとする。


「来ないで!」


 狼が橋へ飛び乗った。


 巨大な身体の重みで縄が軋み、何枚もの板が外れて川へ落ちていく。


 赤ずきんは足を引き抜き、対岸へ向かって走った。


 狼の爪が赤い頭巾を掠める。


 あと少し。


 赤ずきんは最後の板を蹴り、対岸へ飛んだ。


 母親がその身体を抱き止める。


 しかし、狼も橋を渡り切ろうとしていた。


「斧を!」


 赤ずきんは腰に差していた斧を抜き、橋を支える縄へ振り下ろした。


 一度では切れない。


 二度、三度と、無我夢中で刃を叩きつける。


 狼が目前まで迫る。


「切れて!」


 四度目。


 ついに縄が切れた。


 吊り橋が大きく傾き、狼の足元から板が消える。


 狼は爪を崖へ突き立てようとしたが、届かなかった。


 巨大な身体が谷底へ落ちていく。


 やがて激しい水音が響き、狼の姿は濁流に呑み込まれた。


「やった……の?」


 母親が崖下を覗く。


 川面に狼の姿は見えない。


「分からない」


 赤ずきんは斧を握ったまま答えた。


「あれくらいで死ぬとは思えない」


 二人は村へ戻った。


 全身を泥と傷にまみれさせた二人を見て、村人たちが集まってくる。


「一体、何があった?」


「猟師はどうした?」


 赤ずきんは震える声で、すべてを話した。


「狼はまだ生きてるかもしれない。村の入口を塞いで、武器を集めて。みんな逃げる準備をして!」


 しかし、村人たちは顔を見合わせるだけだった。


「川へ落ちたなら、もう死んでいるだろう」


「本当にそんな狼がいたのか?」


「赤ずきんは最近様子がおかしかったし、幻覚でもみたんじゃないか?」


 母親が何度説明しても、村人たちの反応は変わらない。


 疑う者。


 何も起きないと思い込みたい者。


 赤ずきんは森の方を見つめた。


 ほんの少しだけ安堵しながらも、その手は斧を離さなかった。


 その頃――。


 村から離れた川岸に、黒く巨大な手がかかった。


 焼け焦げた狼が濁流から這い上がる。


 血を流す片目で、遠くに見える村の明かりを睨んだ。


 そして、濡れた身体を引きずりながら、ゆっくりと村へ歩き始めた。

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