表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
FATED FAIRY TALE ~運命なんてクソくらえ~  作者: デスティニー誠
PR
4/6

 寝台の傍らに立っていたのは、村の猟師だった。


 赤ずきんの全身から血の気が引いていく。


 なら――私と一緒にここまで来たのは誰?


 背後で、ギシッ、と床板が鳴った。


「赤ずきん、伏せろ!」


 本物の猟師が猟銃を構える。


 赤ずきんが頭を抱えてしゃがんだ瞬間、銃声が轟いた。


 弾丸が背後にいた男の肩を撃ち抜く。


 しかし、血は流れなかった。


 破れた服の下にあったのは、人間の皮膚ではなく、黒く硬い獣の毛だった。


 男の身体が音を立てて歪み始める。


 背中が盛り上がり、服が内側から引き裂かれた。腕は太い前脚へ変わり、指先から鋭い爪が伸びる。


 顎が前へ突き出し、裂けた口から白い牙が現れた。


 猟師に化けていた巨大な狼が、赤ずきんを見下ろしていた。


「本当に……狼……」


 母親が震える声を漏らす。


 狼は何も答えない。


 鼻をひくつかせ、部屋にいる人間たちの匂いを嗅いでいる。


 やがて、その目が赤ずきんに止まった。


「来ないで……」


 赤ずきんは斧を構えた。


 だが、恐怖で足が動かない。


 狼が床を蹴る。


「させるか!」


 猟師が横から飛び込み、赤ずきんを突き飛ばした。


 巨大な爪が猟師の胸を掠め、赤い血が飛び散る。


「二人を連れて逃げろ!」


 猟師は傷口を押さえながら、狼の顔へ発砲した。


 弾丸が頬を抉り、黒い血が壁に飛び散る。


 狼は一瞬怯んだが、すぐに猟師へ飛びかかった。


 猟師は腰からナイフを抜き、その首へ突き立てる。


 狼の牙が猟師の左腕へ食い込んだ。


「ぐああああっ!」


 それでも猟師はナイフを手放さない。


「早く逃げろ!」


 猟師は狼の顔を蹴り、落ちた猟銃を拾った。


 最後の弾を装填する。


 銃声。


 狼の肩から黒い血が噴き出した。


 しかし、狼は止まらなかった。


 猟師へ飛びかかり、その身体を床へ押し倒す。


 巨大な顎が猟師の肩へ食らいついた。


 鈍い音がした。


「猟師さん!」


 狼は猟師の身体を持ち上げ、首を激しく振った。


 猟師の身体が壁へ叩きつけられる。


 それでも猟師は、震える手を猟銃へ伸ばした。


 狼の前脚が、その背中へ振り下ろされる。


 床板が砕けた。


 猟師は動かなくなった。


「嘘……」


 赤ずきんの手から斧が落ちる。


 狼は倒れた猟師から顔を上げた。


 口元を血で濡らしながら、今度は寝台へ近づいていく。


「おばあちゃん!」


 赤ずきんが叫んだ。


 祖母は毛布を退け、逃げようとした。


 しかし、足がもつれて寝台から転げ落ちる。


「助けて……」


 母親が祖母へ駆け寄ろうとする。


 だが、その前に狼が祖母へ飛びかかった。


 大きな前脚が、小さな身体を床へ押さえつける。


「お母さん!」


 母親の悲鳴が響いた。


 狼の牙が祖母へ向けられる。


「やめて!」


 赤ずきんは斧を拾い、狼の背中へ振り下ろした。


 刃は分厚い毛に阻まれ、浅く食い込んだだけだった。


 狼が身体を捻り、赤ずきんを前脚で薙ぎ払う。


「きゃあっ!」


 赤ずきんの身体が食卓へ激突した。


 倒れた食卓が、棚の上にあった油のランプへぶつかる。


 ランプは床へ落ち、音を立てて割れた。


 燃えた油が床を這い、近くのカーテンへ引火する。


「火が!」


 炎は瞬く間に壁へ燃え移った。


 乾いた木で作られた古い家は、火を吸い込むように燃え始める。


 祖母の短い悲鳴が聞こえた。


 母親が炎の中へ飛び込もうとした。


「お母さん!」


 しかし、崩れ落ちた梁が進路を塞ぐ。


「退いて! 助けないと!」


 母親は燃える梁を動かそうとした。


 素手が焼けても、手を離そうとしない。


「お母さん、駄目!」


 赤ずきんが背後から必死にしがみついた。


「おばあちゃんは、もう……」


「そんなこと言わないで!」


 狼の唸り声が、炎の向こうから聞こえる。


 次の瞬間、燃えた棚が二人の近くへ倒れてきた。


 赤ずきんは母親の腕を引き、間一髪で避ける。


「ここにいたら、お母さんも死んじゃう!」


 その言葉に、母親の動きが止まった。


 涙を流しながら炎の向こうを見つめる。


 祖母の声は、もう聞こえなかった。


「……行くわよ」


 母親は震える手で赤ずきんを抱き寄せた。


 二人は互いに支え合いながら、裏口へ走る。


 外へ飛び出した直後、炎に包まれた屋根が崩れ落ちた。


「おばあちゃん……」


 赤ずきんはその場に座り込んだ。


 母親も泣きながら、燃え盛る家へ手を伸ばしている。


 だが、もう戻ることはできない。


 家の中から、狼の咆哮が響いた。


 赤ずきんは母親と手を繋ぎ、森の道を走り出す。


 背後では、祖母と猟師を残した家が、赤い炎に包まれていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ