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学園の聖女と呼ばれる美少女は、僕の人生を完食したいカマキリ改造人間でした。〜世界を救うついでにライバルを狩り尽くし、ナノマシンで僕の外堀を埋めてくる〜  作者: すかいはい
第1部:『捕食者の聖域(ホーム・スイート・ホーム)』編

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8/30

第8話:完璧なデートの作り方

 土曜日の朝、鏡の前に立つ悠真ゆうまの違和感は、その『着心地の良すぎる服』に集約されていた。


 前日に零奈れいなからプレゼントされた、白いブルゾンと細身のチノパン。袖を通した瞬間、まるで肌の一部になったかのような錯覚を覚えた。締め付け感はないのに、姿勢を正されるような不思議な感覚だ。


「おはよう、悠真くん!……ふふ、やっぱり似合ってる。私の目に狂いはなかったみたい」


 チャイムと同時にドアを開けると、そこには春の陽だまりのような笑顔を浮かべた零奈が立っていた。彼女もまた、悠真の服と色味を合わせた清楚なワンピース姿だ。


「ありがとう、零奈さん。これ、すごく動きやすいね。生地が柔らかいというか……」

「そうでしょう? その繊維、一本一本に私のナノマシンを織り込ませてあるの。あなたの体温や心拍数を常に最適に保ってくれるし、万が一、車が突っ込んできたり、悪い刃物を持った人が襲ってきても……あなたの皮膚には傷一つ付かないから」


 零奈さんは悠真の襟元を整えながら、うっとりと目を細めた。


「それは……防弾チョッキみたいなものってこと?」

「もっと高機能な『愛』かな。……さあ、行こっか。私たちの初デート、一秒も無駄にはできないんだから」


 目的地へ向かう電車の中。零奈は「これを見て」と、スマートフォンの画面を悠真に向けた。


「……えっ。これ、今日の予定?」

「そう。分単位……ううん、混雑状況のシミュレーションを含めれば秒単位で構築した、『悠真くんが最も幸福を感じるための最適解プラン』だよ」


 画面には、分刻みのスケジュールがびっしりと並んでいた。


 10時14分、入園。

 10時22分、最初のアトラクションへ移動。

 10時42分、水分補給。

 想定心拍数110。……といった具合だ。


「この時間帯にこの絶叫マシンに乗ることで、あなたの脳内に適度なアドレナリンを分泌させる。その直後に、この静かな庭園を歩くことでセロトニンを活性化……。夕方には私への好感度が最大値で固定される計算になってるんだ。楽しみだね、悠真くん」


 彼女は悠真の手を握り、指を絡ませた。指先から、微かな振動が伝わってくる。それは幸福な鼓動のようでもあり、獲物を捉えて離さない機械の駆動音のようでもあった。


 まもなく目的地です――、というアナウンスが流れた時だった。零奈の瞳の奥で、エメラルド色の光が鋭く明滅した。


 彼女の視界――網膜投影されたHUDに、組織『G.A.R.D.E.N.日本支部』からの真っ赤な警告文字がおどり出る。


『警告:優先度A(最優先)』

『遊園地「ルナ・パーク」地下区画にインヴェイダーの卵を確認。孵化まで推定30分。至急、現場へ急行し、付近の市民を避難させよ。プレイング・マンティス、応答せよ』


 零奈の隣で、悠真は何も知らずに窓の外の観覧車を眺めていた。


「わあ。結構混んでるね、零奈さん」

「うん、本当だね……。賑やかなのはいいことだよね」


 彼女は悠真に微笑みかけながら、視界の中の警告表示を指先一つ動かさず、思考だけで操作した。


『――指令、拒否リジェクト

『理由:個人的な先約あり。当該エリアの脅威は、私が個人的に「処理」する。これ以上の通信は妨害とみなし、帰還後に通信局を破壊する』


 冷徹なメッセージを叩きつけると、彼女は警告画面をゴミ箱へ放り込むように消去した。


(付近の市民を避難させる?……馬鹿げてるでしょ。そんなことしたら遊園地はどうなるの)


 零奈は悠真の手をさらに強く握りしめる。


(せっかく悠真くんのために、今日という一日を完璧にデザインしたんだよ。列の待ち時間も、レストランの予約も、風の向きさえも。……それを、あんな出来損ないの化け物たちのために台無しにされるなんて、許せるはずがないでしょ?)


 電車のドアが開く。零奈は、世界で一番幸せそうな少女の顔で、悠真を一歩踏み出させた。


(私たちの初デートを邪魔するなら、神様だって切り刻んであげる。……怪人一匹、羽虫一匹、あなたの視界には入れさせない)


「さあ。行こう、悠真くん。最高の思い出を、私の胃袋……じゃなくて、二人の心に刻もうね」


 夢の国へと続くゲートの向こうで、彼女の鎌が、音もなく展開の準備を始めていた。

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