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学園の聖女と呼ばれる美少女は、僕の人生を完食したいカマキリ改造人間でした。〜世界を救うついでにライバルを狩り尽くし、ナノマシンで僕の外堀を埋めてくる〜  作者: すかいはい
第1部:『捕食者の聖域(ホーム・スイート・ホーム)』編

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第28話:おかえりなさい

 肺が焼けるように熱い。零奈れいなの家を飛び出し、悠真ゆうまは夜の街を無我夢中で走った。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!!」


 真実を知ってしまった。悠真の人生は、彼女が完璧に管理し、演出し、彼を依存させるために仕組んだ舞台装置だった。そして、悠真の身体が食べ頃になるその瞬間まで虎視眈々と待ち構えられていたのだ。


(逃げなきゃ……どこへでもいい、彼女のいない場所へ!)


 だが、逃げれば逃げるほど、世界が『切崎零奈』という巨大な生き物に飲み込まれていくような錯覚に陥る。


 ふと見上げた街灯が、悠真の動きに合わせてカチカチと明滅した。


 交差点の監視カメラが、まるで生き物のように不自然な角度で首を振り、彼の姿を追う。


 道端の自動販売機が、彼が横を通り過ぎる瞬間に「悠真くん」という電子音のようなノイズを吐き出した。


「嘘でしょ……街中が……」


 さらに恐ろしいのは、道行く人々だった。深夜の街を歩くサラリーマンや若者たちが、悠真が近づくと一斉に動きを止める。そして、糸で操られた人形のように同時に顔を上げ、エメラルド色に輝く瞳で彼を見つめてくるのだ。


「佐倉くん、そっちには行っちゃダメだよ」

「切崎様が待ってるよ」

「お家に帰ろう、悠真くん」


 ナノマシンで意識をハッキングされた群衆。彼らはもはや人間ではない。零奈の視覚を共有し、悠真を追い詰めるための『細胞』だ。


 逃げ込んだ先は、入り組んだ路地裏の行き止まりだった。高いフェンスに囲まれ、背後には冷たいコンクリートの壁。


「そんな……」


 絶望に膝をつきかけたその時、上空から巨大な影が音もなく舞い降りた。月光を遮り、漆黒の翅を大きく広げたその姿。


「……悠真くん、みーつけた」


 零奈だった。彼女はゆっくりと着地し、異形の翅を背中に収めると、聖母のような微笑みをたたえて一歩ずつ近づいてくる。


「く、来るな……っ!! 全部見たんだ、あの部屋を! 僕を実験動物か何かみたいに……! 人生を、あんな風に、おもちゃみたいにもてあそんで……!!」

「弄ぶ? 心外だな。……私はただ、愛するオスが最も幸せでいられるルートを、丁寧に整備してあげて一人前になるのを見守っていただけだよ。感謝はされたとしても文句を言われるなんてお門違いだと思うんだけどな」


 悠真は立ち上がり、彼女を突き放そうとした。だが、彼女の動きは常人としての反射速度を遥かに超えていた。


「――っ!?」


 一瞬で距離を詰められ、背中を壁に押し付けられる。彼女の手が、悠真の細い両手首を優しく、けれど鋼鉄のような力で固定した。


 骨を折ることはない。だが、どれだけ力を込めても一ミリも動かせない。これが、改造人間としての、そして捕食者としての圧倒的な力の差。


「どうして逃げるの? 私はあなたの幸せしか考えていないのに。……ねえ、もう一度だけ、私が作ったご飯を食べて?」


 零奈は彼の顔の横に手を突き、逃げ場を完全に塞いだ。彼女の顔が近づく。エメラルド色の瞳が、月明かりよりも強く、美しく発光していた。


「そうすれば、全部思い出せるよ。あの日、私の腕の中で感じた安心感も。私の料理を食べた時に満たされる幸福も。……あなたが怖がっている『真実』なんて、私の愛に比べればゴミみたいな不純物だよ。ナノマシンが、それを全部綺麗に掃除してあげるから」

「やめて……離してよ……!」

「離さない。……死が二人を分かつまで、いいえ、死んでも私はあなたを離さないから」


 彼女の冷たい指先が悠真の頬を撫で、そのまま首筋へと滑り落ちる。捕食者の抱擁は、驚くほど温かくて、心地良い。


 恐怖で震えていたはずの悠真の体が、彼女の放つフェロモンと、ナノマシンの共鳴によって、皮肉にも少しずつ落ち着きを取り戻し始めていた。


「さあ、お家に帰りましょう? あなたのために、とっておきの『晩餐』を用意しているの。……それを食べれば、もう二度と、こんなに苦しい思いをしなくて済むよ」


 悠真は、彼女の瞳の中に吸い込まれていく感覚に抗えなかった。夜の街が、彼女の勝利を祝うように一斉に輝きを増した。

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