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学園の聖女と呼ばれる美少女は、僕の人生を完食したいカマキリ改造人間でした。〜世界を救うついでにライバルを狩り尽くし、ナノマシンで僕の外堀を埋めてくる〜  作者: すかいはい
第1部:『捕食者の聖域(ホーム・スイート・ホーム)』編

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第25話:唯一の答え

 放課後の無人の教室。


 机の上に散らばった不採用の通知と、募集を停止した大学のニュースを映し出すスマートフォンの画面。それらは、悠真ゆうまが必死に築こうとした未来の残骸だった。


「どうして……どうしてなんだよ……っ!」


 絞り出すような声が震える。


 悠真がどれだけ努力しても、どれだけ遠くへ逃げようとしても、世界そのものが彼の喉元をつかんで引き戻してくるような感覚だった。


「あはは! 悠真くん、そんなに泣かないでよ!」


 不意に、弾んだ声が教室に響いた。


 ミエルだ。彼女は悠真の隣までスキップで近づくと、まるで親友の幸運を祝うような、眩しすぎる笑顔を向けた。


「これってさ、もう『運命』なんだよ! 北の大学がダメになったのも、奨学金が近所の大学しか通らなかったのも、神様が『君の居場所はここだよ』って言ってる証拠なんだから!」

「……運命!? こんなの、ただの呪いじゃないか……っ!」

「呪いだなんて、切崎様に失礼だよ!」


 ミエルは彼をたしなめるように言うと、入り口に立つあるじ――零奈へと視線を向け、その場でうやうやしくひざまずいた。


 零奈は無言でミエルの前に歩み寄ると、椅子に腰を下ろした。


 ミエルはまるでそれが至高の栄誉であるかのように、零奈の足元に頬を擦り寄せる。


「蜂野ミエルさん。……あなたもそろそろ喉が渇いたんじゃない?」


 零奈が冷たい、けれど甘い声で問いかける。


「はい……。どうか切崎様の慈悲を、お与えください……」


 ミエルは期待に満ち、大きく見開かれた瞳で零奈を見上げる。


 零奈はわずかに口角を上げると、自らの指先を唇に触れさせ、そこに自身の唾液を溜めた。そして、それをゆっくりと、這いずるミエルの口元へと滴らせた。


「……っ、ん……っ。ありがとうございます、ありがとうございます……!」


 ミエルはそれを、神から与えられた甘露であるかのように、必死に、陶酔しきった表情で飲み込んでいく。


 かつて『女王蜂』と呼ばれた少女が、今は支配者の分泌物一つで悦びに打ち震えている。その光景は、生物学的な階級差を見せつけられているようだった。


「……う、あ……」


 悠真は、吐き気と恐怖で声が出なかった。


 零奈は彼の視線を真っ向から受け止めながら、ミエルの頭を優しく撫で、その口元を指で拭った。


「ビックリさせちゃってごめんね、悠真くん。こういう子はこうやって定期的に自我を磨り潰してあげないとダメなんだ。……でも、ほら、見て。こんなに嬉しそうでしょう?」


 零奈は椅子から立ち上がり、足元で震えるミエルを放置したまま、悠真の元へと歩み寄った。


 悠真は逃げようとしたが、足が動かない。彼女の放つ捕食者のプレッシャーが、彼の全細胞を硬直させていた。


「大丈夫だよ、悠真くん。……世界があなたを拒んでも、あなたを否定しても。私だけは、絶対にあなたを捨てないから」


 零奈は涙を流す悠真を、壊れ物を扱うような手つきで抱きしめた。彼女の腕は驚くほど細く、そして万力のように強固だった。


「聖華大学に行きましょう? あそこなら私の目が届くし、組織の警備も万全だよ。……あなたはもう、何も心配しなくていい。将来も、お金も、人間関係も……全部、私が整えてあげたから。あなたはただ、私の隣で笑っていればいいの」

「零奈、さん……僕は……僕はただ……」

「……しーっ。今は、何も言わなくていいよ」


 彼女は悠真の耳元で囁きながら、彼の薄い背中を優しく叩く。


 そのリズムは、ナノマシンを通じて彼の心拍数と同調し、強制的にその精神を安らぎへと誘っていく。


 窓の外では、夕焼けが世界を血のような赤に染めていた。


 ミエルが足元で「おめでとう、悠真くん……」と壊れた機械のように呟き続ける。悠真は零奈の胸の中で、自分がもう唯一の答え――彼女という名の檻を選ぶ以外の選択肢を、全て奪われたのだと理解した。

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