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学園の聖女と呼ばれる美少女は、僕の人生を完食したいカマキリ改造人間でした。〜世界を救うついでにライバルを狩り尽くし、ナノマシンで僕の外堀を埋めてくる〜  作者: すかいはい
第1部:『捕食者の聖域(ホーム・スイート・ホーム)』編

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第24話:神の手のひらの上で

 その日の朝、悠真ゆうまが目指していた自由は、スマートフォンの無機質なニュース通知一つで音を立てて崩れ去った。


『速報:北央国立大学、大規模な不正会計と理事会の不祥事により、次年度の全学部学生募集を急遽停止』


「……え?」


 持っていた箸が、床に落ちた。


 画面に並ぶ文字が理解できない。悠真が全てを賭けて、彼女の手が届かない場所へ逃げるために選んだ唯一の希望。それが、願書を出す直前になって、まるで最初から存在しなかったかのように消滅したのだ。


「どうしたの、悠真くん。そんなに青い顔をして」


 テーブルの向かい側。零奈れいなは、いつも通り丁寧に淹れた紅茶をすすりながら、小首を傾げた。


「……志望校が、募集停止になったんだ。不祥事で……そんなの、ありえない……昨日まで普通だったのに」

「あら、それは残念だね。でも、きっと神様が『そこはあなたに相応しくない場所だよ』って教えてくれたんだよ。……不祥事があるような不潔な場所に、大切な悠真くんを行かせたくないもん」


 彼女の声には、一片の驚きもなかった。ただ、深く、慈しむような響きだけがある。


 ――絶望は、それだけでは終わらなかった。


 その日の夕方、郵便受けに届いた数通の封筒。それは、悠真が密かに申請していた複数の外部奨学金の審査結果だった。


「……不採用、不採用、ここも……不採用……」


 手が震える。悠真の成績は、特待生枠でも十分に合格圏内だったはずだ。それなのに、東京や地方の有力な奨学金財団は、判で押したように彼を拒絶した。


 たった一通。『聖華大学・特別全額奨学金:採用内定』と書かれた通知を除いて。


 聖華大学。零奈の自宅から、徒歩わずか十分。彼がここだけは選ばないと心に決めていた、零奈の支配圏のど真ん中にある大学だった。


「……あは、あははは……」


 乾いた笑いが漏れた。

 

 ただの偶然だろうか。――いや、そんなはずがない。大学一つを経営破綻に追い込み、一国の奨学金制度をねじ曲げ、悠真の逃げ道を物理的に、社会的に、完膚なきまでに封鎖する。それは、個人にできることではない。


 対怪人組織『G.A.R.D.E.N.』日本支部。正義を司るはずの巨大な軍事・情報組織のリソースが、今や一人の少女の恋を成就させるためだけに、この国の教育機関すらハッキングし、蹂躙しているのだ。


「悠真くん。……そんなに悲しまないで」


 いつの間にか、零奈が背後に立っていた。彼女は震える悠真の肩を、温かく、そして逃げられないほど強く抱きしめた。彼女の甘い匂いがする。それだけで不安な気持ちが和らいでいきそうなのがかえって恐ろしかった。


「世界はね、時々残酷なの。でも安心して? 周りのみんながあなたを拒んでも、私だけは絶対にあなたの味方だよ。……ねえ、聖華大学なら私も一緒に通えるし、毎日美味しいお弁当を作ってあげられるよ」

「零奈……さん……。君が、やったの……?」


 その問いに、零奈は答えなかった。ただ、彼の首筋に顔をうずめ、深く、深く息を吸い込んだ。


「いいえ? 私はただ、あなたが正しい道を選べるように、少し『剪定』をしただけ。……余計な枝を落としてあげないと、あなたはどこか遠くへねじ曲がって飛んでいってしまうでしょう?」


 彼女の瞳に宿る、エメラルド色の電子光が怪しく明滅する。その輝きは、この街の監視カメラ、ネットワーク、人々の思考。その全てを支配する『神の目』そのものだった。


 悠真は気づいてしまった。


 彼が進もうとしていた未来という空は、彼女が描いた巨大な天井の一部でしかなかったのだと。


 言葉を失い、ただ引きつった笑みを浮かべることしかできない。神の手のひらの上で必死に羽ばたく悠真は、そのあまりの巨大さに、逃げる気力さえもゆっくりと削ぎ落とされていった。

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