第7話「リスは忘れない」そして「クマは泣いていい」
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建国プロジェクト:状況報告
第7話開始時点
北の森・仮拠点→二手に分かれて行動
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人員 :コア7名/総勢18名
資金 :銀貨2枚
食糧 :安定確保
拠点 :仮拠点あり(傾いている)
安全度:警戒レベル中
次のマイルストーン
→ 熊人のスカウト(建設)
→ 栗鼠人のスカウト(物資管理)
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出発の朝、信が二手の編成を告げた。
信:「山岳チームはロガ、シルト、リュカ。
鉱山の熊人を頼む。
屋敷チームは俺、ドミナス、ミネルヴェ。
貴族の屋敷に向かう」
ロガ:「……リュカを連れて行くのか」
信:「嗅覚が必要だ。
鉱山の構造を把握するのに
リュカの察知能力が欲しい」
ロガ:「…………了解だ」
リュカ:「大丈夫。ちゃんとやる」
ドミナスが鏡の前に立った。
髪の色が変わった。目元に細工をした。声のトーンを変えた。
5分後、そこには信が一度も会ったことのない女性が立っていた。
信:「……完璧だ」
ドミナス:「当然です。5年間の成果ですから」
ミネルヴェ:「顔が変わっても
梟の目は誤魔化せないぞ」
ドミナス:「あなたは馬車の中で待機です」
ミネルヴェ:「……わかっている」
二手に分かれた。
屋敷チーム
貴族の屋敷は、街道から外れた丘の上にあった。
石造りの高い塀。整えられた庭。門には武装した門番が二人。
馬車が門前に止まった。ドミナスが降りた。信が従者として続いた。
……でかい屋敷だ。
門をくぐった瞬間、信は息を呑んだ。
庭の手入れをしているのは獣人だった。荷物を運んでいるのも獣人だった。厨房から漂う料理の匂いの先にも、獣人の姿が見えた。給仕をする人間はほとんどいない。
この豊かさは、誰かの痛みの上にある。
従者A:「お待ちしておりました。
どうぞこちらへ」
応接間に通された。
豪華な調度品。厚い絨毯。壁には高価そうな絵画。テーブルには菓子と茶が並んでいた。
しばらくして、貴族が現れた。
年齢的には50代ほどか、恰幅のいい男だった。満足そうな顔をしていた。この屋敷と同じように、豊かさが染みついた顔だった。
貴族:「よくいらっしゃいました。
ドミナス商会のご当主とか」
ドミナス:「ええ。本日はお時間をいただきまして」
貴族:「いえいえ。商売のお話なら
いつでも大歓迎ですよ」
歓談が始まった。
信は従者として壁際に控えた。何も言わない。ただ、見ていた。
幾つかの商談を終えると、貴族が最近の話題を語り始めた。
貴族:「そういえば先日、北の農村で
少し面倒なことがありましてね」
ドミナス:「何かあったんですか」
貴族:「魔獣が出たとかで
その騒ぎのどさくさで農奴の兎人どもが
逃げてしまいましてね。
まあ、小規模だし
農奴はいくらでもいますから
大した問題でもないんですが」
ドミナス:「それは災難でしたね」
貴族:「まったく、運が悪かった。
まあ、そのうち
また補充すればいいだけですが」
ラギラブたちのことだ。
あの必死の脱出が、この男には「魔獣騒ぎで逃げた」程度にしか映っていない。
信の拳が、従者の袖の中で静かに握られた。
バーナデッドとの出会い
歓談の途中、ドミナスが部屋の隅に目をやった。
そこに、小さな籠があった。
中に、栗鼠人がいた。
白と茶色の混じった毛並み。大きな目。丸まって座っていた。餌皿は空だった。いつから空なのか、わからなかった。
ドミナス:「あら、可愛らしい。
あれは?」
貴族:「ああ、栗鼠ですよ。
子どもが欲しがって買ったんですが
すぐ飽きてしまって。
今は給仕に世話させています。
まあ、その給仕も
たまに忘れるんですがね」
ドミナス:「何かできるんですか」
貴族:「まあ、少し芸を仕込みましたよ。
見せましょうか」
貴族が指を鳴らした。
貴族:「ほら、やってみせろ」
栗鼠人が籠から出された。
テーブルの上に散らばった書類に近づいた。
小さな手が動いた。
瞬時に書類が種類別に分かれた。大きさ順に重なった。日付順に並んだ。
引き出しが開いた。乱雑な中身が秒単位で整理された。使いかけの蝋燭が残量順に並んだ。
……これは。
信は目を細めた。
「芸」じゃない。本能だ。物資管理の天才が、芸として消費されている。
貴族:「まあ、こんな感じです。
整理が好きみたいで。
最初は面白かったんですが
正直もう飽きましてね。
処分しようかとも思っているんですよ」
ドミナス:「しかし、あの整理の芸は便利なのでは?」
貴族:「そんなことは人間の給仕がすればいいんですよ。
獣風情に大事な書類を汚されては、たまりませんかな。はっはっは」
ドミナス:「そうですね」
ドミナスは感情を殺し微笑む。
ドミナス:「しかし、処分、ですか。
それはもったいない。
実は私どもでは、“芸“のできる動物を集めておりまして」
貴族:「ほう。サーカスでも開くので?」
ドミナス:「いえいえ。身内用のささやかな物です。
どうでしょう。その栗鼠、こちら引き取りましょうか。
うちの旦那様が楽しめそうなもので」
貴族:「構いませんが、それで、いくら出しますかな」
ドミナス:「処分予定とのことでしたから
その駕籠代として、銅貨3枚ほどでいかがですか」
貴族:「……ふむ。まあ、処分の手間が省けるなら」
落ちたな。ドミナスは微笑んだ。
籠の中で、栗鼠人が震え始めた。
小さな体が、ぶるぶると震えていた。
また売られる。また知らない場所へ連れて行かれる。
ここでは、少なくとも生きてはいけたが、次の場所はどうなるか。
信は自然にしゃがんだ。従者として、何かを拾うふりをした。
栗鼠人の目線に降りた。
貴族には聞こえない声で、言った。
信:「嫌なら言ってくれ。無理強いしない」
栗鼠人が固まった。
大きな目が、信を見た。
栗鼠人:「……わたしを、
物として扱わないんですね」
信:「当たり前ですよ」
栗鼠人は少し考えた。
それから、小さく頷いた。
すると信の視界に文字が浮かぶ。
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適性鑑定:栗鼠人・バーナデッド(推定22歳・女)
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物資管理 ★★★★★
整理整頓 ★★★★★
備蓄・在庫管理 ★★★★★
記憶力 ★★★★★
観察眼 ★★★★☆
魔法適性 なし
現在の状態: ペット生活からの解放
意思を持つことへの戸惑い
整理への強い衝動
現在の能力発揮値:20%
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山岳チーム
山岳地帯の鉱山は、街道から外れた岩肌の奥にあった。
上空からシルトが偵察した。
シルト:「監視員が14人。
交代は2時間ごと。
熊人は……6数頭います。
その中に二重首輪をした個体が一頭」
ロガ:「それか」
シルト:「交代の隙間は15分。
今夜、その時間に動きましょう」
夜を待った。
暗くなった頃、ロガが動いた。
陽動として鉱山の東側に回り、岩を崩した。監視の注意が東に向いた。
シルトとリュカが西側から鉱山に入った。
坑道の奥、二重首輪の熊人がいた。
大きかった。身長は二メートルを超えていた。しかし今は小さく丸まっていた。疲れ果てた体が、岩壁にもたれていた。その身体は鞭による傷が生々しかった。
リュカが近づいた。
リュカ:「ここから出ましょう」
熊人:「…………」
(顔を上げない)
リュカ:「聞こえてる?」
熊人:「……罠か」
シルト:「違います。本当に逃がしに来ました」
熊人:「……なぜ」
シルト:「あなたの力が必要なんです」
その時だった。
坑道の入口から、足音が聞こえた。
複数の、重い足音。
シルトが上空に向かって風の精霊を飛ばした。ロガへの連絡だった。
しかし足音は止まらなかった。予想より早かった。交代時間が繰り上がっていた。
まずい。
シルトが翼を広げた。しかし坑道は狭かった。飛べなかった。
シルト:「……囲まれます。ロガさんが間に合わない」
リュカの耳が、がばりと立った。
何かが、来た。
言葉にならない感覚だった。でも確かだった。
リュカ:「右から来る。今すぐ下がって」
シルト:「え?」
リュカ:「今すぐ!」
シルトが反射的に下がった。
一秒後、坑道の右の壁が崩れた。
隠し通路だった。監視員が三人、そこから現れた。
シルトがいた場所に、槍が突き出された。
シルト:「……っ」
(青ざめた顔で、リュカを見る)
「今、何が起きた」
リュカ:「わからない。
でも、わかったの」
シルトが地面から石を拾い監視員に投げる。
一瞬できた、その隙にロガが坑道に飛び込んできた。
三人を一瞬で制圧した。
ロガ:「すまん、遅れた」
シルト:「いえ。リュカが救ってくれました」
ロガ:(リュカを見る)
「…………」
リュカ:「大したことは」
ロガ:「よくやった」
熊人の首輪を一つ外す。
光が溢れた。
しかし熊人は変化しなかった。二重首輪だった。一つ外しただけでは足りなかった。
もう一つの首輪は、複雑な構造だった。
信との合流まで待てなかった。
ロガが素手でこじ開けた。
シルト:「素手で」
ロガ:「時間がない」
シルト:「ほんと、化け物っすね」
ロガ:「当然、褒め言葉だよな」
首輪が外れた瞬間、熊人が膝をついた。
リュカ:「まずは、安全な森へ。急いで!」
そう言い、リュカは熊人の手を引いた。
そのまま一行は森へと急いだ。
坑道のあった山が小さく見える距離の森へと辿り着く。
その山並みを遠くに眺め、熊人は両手を顔に当てその場に崩れた。
大きな体が震えた。
声が出た。
嗚咽だった。解放された安堵からの。
大きな体が、子どものように泣いた。
リュカ:「大丈夫、ゆっくり泣いていいよ」
リュカが隣に座った。
シルトが無言で背中に手を置いた。
ロガは少し離れたところで、空を見ていた。
しばらく、誰も何も言わなかった。
合流
信たちとリュカたちが合流をはたす。
共に作戦は成功していことを互いに喜び合う。
信:「君がジグニか。俺はシン、よろしく頼む」
人間を見てジグニが身構える。
それをみてリュカは「大丈夫だよ」と言ってジグニの腕に手を添えた。
シルトは笑顔を向け、ロガも無言で頷いた。
リュカ:「私たちを助けてくれたのが、このシンなの」
安心したジグニが信のもとへ近づく。そして深々と頭を下げた。
ジグニ:「ジグニという。こちらこそよろしく頼む」
信の視界に文字が浮かんだ。
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適性鑑定:熊人・ジグニ(推定35歳・男)
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怪力 ★★★★★
建設・土木 ★★★★★
地形把握 ★★★★★
精霊魔法(地) ★★★★☆
耐久力 ★★★★★
現在の状態: 長期酷使からの解放
感情の解凍
涙腺崩壊中
現在の能力発揮値: 25%
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ジグニはリュカの方を向く。
ジグニ:「君の名前は?」
リュカ:「リュカ」
ジグニ:「リュカ。ありがとう」
リュカ:「どういたしまして」
シルト:「ジグニさん。あんたの力が必要なんですよ」
ジグニ:「何をすればいい」
信:「とりあえず、家を建てて欲しいんだ。俺たちのさ」
ジグニ:「……家」
(また目が潤んだ)
「……家か」
帰還
仮拠点に、両チームが戻った。
ジグニとバーナデッドが改めて顔を合わせた。
2メートルを超える熊人と、30センチほどの栗鼠人が向き合った。
バーナデッド:「大きい、ですね」
ジグニ:「そっちは、小さいな」
バーナデッド:「バーナデッドといいます。
物の管理が得意です」
ジグニ:「ジグニ。俺は建設が好きだ」
バーナデッド:「よろしくお願いします」
ジグニ:「……ああ」
バーナデッドが仮拠点を見回した。
バーナデッド:「……問題が九つあります」
信:「九つも?」
バーナデッド:「物資の分類ができていない。
食糧と道具が混在している。
使用頻度による配置がされていない。
雨水の侵入経路が三箇所。
屋根の傾斜角度が不適切。
基礎が……」
信:「わかった! わかった! 全部お願いできるかな」
バーナデッド:「もちろんです。
任せてください!」
ジグニが傾いた小屋に近づいた。
両手で掴んだ。
持ち上げた。
ラギラブ:「……すごい」
ジグニ:「基礎から作り直す。
一度壊していいか」
信:「思うままに、やっちゃってください!」
その夜、仮拠点が生まれ変わった。
バーナデッドが物資を全て並べ直し、分類し、管理台帳を作った。
ジグニが小屋を解体して基礎から建て直した。
翌朝、全員が目を覚ますと、昨日とは別の場所にいるような気がした。
リュカ:「きれいになった〜!」
バーナデッド:「ふふん、当然です」
ジグニ:「まだまだ、改善できる」
バーナデッド:「同感です」
信:「はは、まさに餅は餅屋だね」
ミネルヴェ:「……一晩でここまでやるとは」
ラギラブ:「料理する場所も
整理してもらえますか」
バーナデッド:「もちろん。
優先度三番目に入れます」
ラギラブ:「三番目……」
バーナデッド:「一番は食糧の保存。
二番は医療物資の確保。
料理場所は三番です」
ラギラブ:「……合理的だ」
夜、焚き火を囲んでシルトが言った。
シルト:「一つ、気になる情報があります」
信:「聞かせてくれ」
シルト:「聖王教国カルシアが
この辺りの不審な動きを
調査し始めたようです。
特別な部隊が
編成されるという噂が」
信:「特別部隊か」
ミネルヴェ:「来たか」
ロガ:「どれくらいの規模なんだろう」
シルト:「まだ噂の段階です。
ただ、噂が立った時点で
動くのがカルシアです」
信は焚き火を見ていた。
ここまでは想定内だ。人数が増えれば目立つ。目立てば動かれる。
問題は速度だ。
信:「そうだリュカ、スルトから聞いたんだけど、坑道で何があったんだ」
リュカ:「……何って?」
信:「坑道で、敵の攻撃を正確に読んでいたって話さ」
リュカ:「ああ、あれは、なんとなく、わかった。
説明はできないの」
信:「その時、どんな感じだった」
リュカ:「……空気が、変わった。
右から、攻撃の意思が来るって」
信は適性鑑定を見た。
リュカの項目の「?????」が、かすかに揺れていた気がした。
信:(心の中で)
「動き始めた。
焦らず、でも見逃さず」
ミネルヴェが静かに言った。
ミネルヴェ:「ふふ、始まったかな」
夜風が吹いた。
仮拠点の新しい小屋が、しっかりと、揺れなかった。
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建国プロジェクト:状況報告
第7話終了時点
北の森・仮拠点(大幅改善済み)
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人員 :コア9名/総勢20名
資金 :銀貨3枚
食糧 :安定確保
拠点 :仮拠点・大幅改善済み
安全度:警戒レベル上昇
カルシアが動き始めた
仲間の能力発揮値
リュカ :8% → 12%
ミネルヴェ:30%(変化なし)
ロガ :55%(変化なし)
シルト :45%(変化なし)
ラギラブ :35%(変化なし)
ドミナス :30% → 40%
ジグニ :25%(新規加入)
バーナデッド:20%(新規加入)
リュカの能力:兆候あり
信のメモ:「気配の先読み?
?????が動き始めた。
ミネルヴェと要相談」
次のマイルストーン
→ 医療担当のスカウト
→ カルシアの動向監視確認
→ リュカの能力の精査
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第7話 終了
次話:「ヒツジは弱くない」




