第6話「キツネは騙さない」
信たち遊撃隊が仮拠点を離れて三日が経っていた。
仮拠点に戻った信が見たのは、傾いた壁、雨漏りする屋根、どこに何があるかわからない物資の山だった。
信:「……ラギラブ、これは」
ラギラブ:「一生懸命作りました」
信:「……うん、努力は認めるん、だけどね」
ラギラブ:「駄目ですか」
屋根の一部が崩れ落ちる。
信:「やっぱり、建築と物資管理は専門家が必要だね
仮の拠点とはいえ、崩れたりしたらみんなの身が危険だ」
仮施設の補強・管理の問題は大事だ。
しかし今日は別の用事があった。
出発前夜、シルトが信を呼んだ。
シルト:「5年前、この大陸で
ある大規模な獣人解放運動があったです。
狐人のみの組織で、
情報収集・交渉・潜入工作で
人間社会に揺さぶりをかけた」
信:「……壊滅したんですか」
シルト:「全員処刑されました。
生き残りは一人。
それがドミナスだったんす」
信:「…………」
シルト:「以来、獣人の情報を売って
人間の社会に入り込んでいるって噂です」
信は夜空を見上げた。
信:「わかりました。明日、会いに行きます」
シルト:「危険性は理解した上で、ですか」
信:「ああ、だから行くんです」
交易都市
翌日。信とシルトが都市に入った。
裏路地の小さな香料店。扉を開けると香りが溢れた。
カウンターの奥に、女性が座っていた。赤みがかった長い髪。切れ長の目。人間の商人の服を纏っていたが、纏う空気が違った。
女性:「いらっしゃい。どんな香料をお探しですか」
信:「情報を探しています。
この辺りで一番良い情報を
持っている人を」
女性:「看板は見ましたか? うちは香料屋ですよ」
信:「じゃあ、ローズマリーを一つください」
受け取った包みの中に、小さな紙が折り込まれていた。
『夜の三つ鐘の後。東の倉庫街。一人で来い。』
倉庫街
指定された場所に、信は一人で向かった。
シルトには「上空で待機・異変があれば知らせろ」と頼んだ。
小屋の中で女性が待っていた。
女性:「一人で来たか」
信:「そう指定したのはあなただ」
女性:「城壁の外に獣人が三人いるね。
知っているだろう。許可無く獣人を連れ歩くのは違法だと。
当局に知らせることもできる」
信:「なぜ、まだしていないんですか」
女性:「ただの気まぐれさ」
その時、シルトから風の精霊で連絡が来た。
『5分前に通報しています。もうすぐ兵士が来ます。早く逃げて!』
信は動かなかった。座ったままでいた。
そしてまっすぐと女を見つめた。
女性:「……なぜ逃げない。気づいているんだろう」
信:「逃げる前に聞きたいことがあります」
女性:「分かっているのか」
信:「わかっています。
でも、これだけは先に聞かせてほしい」
女性の目が、細くなった。
信:「5年前、仲間を失った。
それでも、まだ諦めていないんですよね」
女性が、固まった。
女性:「……なぜそれを」
信:「うちの情報屋が優秀なもので」
(間)
「あなたたちの組織が壊滅した理由、
考えたことがありますか」
女性:「……何が言いたい」
信:「情報戦もでき、交渉力もあった。
でも狐人だけでは限界があった」
女性は目をそらす。
信:「武力があれば。
建設力も、食糧確保も、医療も。
単一種族の強みは
単一種族の弱みと表裏一体です」
女性:「…………」
信:「でも俺たちは違う。
まだ弱いが武力を、知識を、情報を持っている。
色々な種族が協力をしあって。
それぞれの強みが違うから
補い合える」
女性:「……それが、何だと言うんだ」
信:「あなたたちが五年前に
作ろうとしたものを、
俺たちなら作れる。
一緒に作りましょう!」
外から足音が聞こえてきた。
複数の、重い足音が近づいてきていた。
女性は信を見た。
何かが、女性の目の奥で動いた。
女性:「……続きは外で話す」
(立ち上がる)
「ついてこい」
逃走
女性が壁の一部を押した。隠し扉が開いた。
狭い路地に出た。走りながら女性が言った。
女性:「……5年間、ずっと考えていた。
なぜ壊滅したのかを」
信:「答えは出ましたか」
女性:「出なかった。
足りないものが多すぎて
何から補えばいいかわからなかった」
信:「全部を一人で考えなくていい。
それがチームってものですよ」
角を曲がった。また曲がった。
女性の足は迷いがなかった。この街の裏道を全て把握している様だった。
女性:「……仲間たちが求めていたのは
これだったのかもしれない」
(走りながら、声が少し震えた)
「多種族の組織を。
誰かが武力を持ち、
誰かが知識を持ち、
誰かが食糧を確保する。
私たちは情報しかなかった」
信:「情報は最も重要なリソースの一つです。
あなたたちが間違っていたんじゃない。
ただ、一人では足りなかった」
女性:「……慰めか」
信:「事実です」
城壁の裏口を抜けた。
森の入口でロガたちが待っていた。
女性は立ち止まった。荒い息を整えながら、仲間たちを見渡した。
狼人。梟人。犬人。
女性:「……本当に複数の獣人が一緒にいるんだな」
信:「いますよ」
女性:「……私のは、もう知っているかと思うが、ドミナスだ。
見ての通り狐人だ」
すると女性の頭には狼耳が、尻には尻尾が現れた。
ドミナス:「人間に化けるのは、狐人の得意技でね」
その瞬間、信の視界に文字が浮かんだ。
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適性鑑定:狐人・ドミナス(推定28歳・女)
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交渉術 ★★★★★
情報収集 ★★★★★
変装・偽装 ★★★★★
観察眼 ★★★★★
精霊魔法(風) ★★★☆☆
└── 幻惑・気配消し
現在の状態: 五年間の孤独な潜伏
壊滅した仲間への罪悪感
再び動き出した何か
現在の能力発揮値: 30%
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ドミナス:「騙したことは謝る。
でも騙さなければ
生き残れなかった」
信:「わかります」
ドミナス:「……怒らないのか」
信:「あなたは生き延びるために
最善を尽くしてきた。
それを責める気にはなれない」
ドミナス:「……甘い男だ」
ロガ:「……同感だ」
信:「よく言われます」
リュカがドミナスをじっと見ていた。
リュカ:「……きれいな尻尾」
ドミナス:「……ありがとう」
初めて、表情が柔らかくなった。
ミネルヴェ:「食えない連中だと言ったろう」
ドミナス:「梟人に言われたくは、ないですねぇ」
ミネルヴェ:「…………ほう」
ドミナス:「私の情報は、多方そのカラスからだろう」
シルト:「根に持ってたり、しますか」
ドミナス:「……ふふ、あとで覚えておけ」
シルト:「了解す」
条件と加入
ドミナス:「条件がある」
信:「聞きます」
ドミナス:「一つ。私の情報源は明かさない場合がある。
共有はするが、
情報屋の仁義というものがある」
信:「了解です」
ドミナス:「二つ。外部交渉は私に任せろ。
交渉中の口出しはしないでほしい」
信:「交渉中はお任せします。
方針は一緒に決める」
ドミナス:「三つ。……五年前の仲間の名前を
記録しておいてほしい。
国ができた時に、
どこかに刻んでほしい」
信は少し、黙った。
信:「必ず」
ドミナス:「…………」
(目を閉じる)
「……よろしく頼む」
七人で仮拠点へ向かって歩き出した。
夜道をドミナスが信の隣に並んだ。
ドミナス:「一つ聞いていいか」
信:「どうぞ」
ドミナス:「本当に国を作れると思っているのか」
信:「思っています」
ドミナス:「根拠は」
信:「今日、あなたでコアメンバーが7人になった。
二週間前はたった一人だったのに」
ドミナス:「……それが根拠か」
信:「十分でしょう」
ドミナス:「……狐人は賢い。
だから損得で動く。
あなたについていくのが
得だと判断した」
信:「それで十分です」
ドミナス:「……本当に怒らないんだな」
信:「動機は問わない。
一緒に動いてくれれば」
ロガ:「…………甘い」
信:「ですよね。でもそれでいいじゃないですか」
仮拠点・帰還
仮拠点に戻ると、ラギラブが走り寄ってきた。
ラギラブ:「おかえりなさい!
小屋、もう少し直しました!」
信は小屋を見た。傾きが、少しだけ増していた。
信:「……ラギラブ」
ラギラブ:「はい」
信:「直す前より傾いてないか」
ラギラブ:「……気のせいです」
ミネルヴェ:「気のせいではない」
ラギラブ:「えー?」
ドミナスが小屋を一周した。
ドミナス:「基礎が問題だ。
土台をしっかり作らないと
何度直しても同じ」
信:「建築の知識があるんですか」
ドミナス:「5年間、各地を見てきた。
知識だけなら少しある。
でも実際に建てる力と
物資を管理する能力は別の話だ」
信:「だよな」
焚き火を囲みながら信が言った。
信:「整理する。
今の仮拠点の問題は二つ。
建物が建てられない。
物資がどこに何があるかわからない」
ミネルヴェ:「栗鼠人は備蓄と整理の
本能が高い種族だ」
シルト:「熊人は建築・土木の奴隷として
使われることが多い」
ラギラブ:「山岳地帯の鉱山に
熊人が奴隷として
いると聞いたことがある」
ドミナス:「栗鼠人なら……
交易都市近くの貴族の屋敷に
ペットとして囲われている
個体がいると情報がある」
信は頷いた。
信:「次の目標が決まった。
山岳地帯の熊人。
貴族の屋敷の栗鼠人。
二手に分かれて動く」
ロガ:「……どちらに行く、シン」
信:「栗鼠人のほうを俺が行く。
貴族との交渉が必要だから」
ドミナス:「私も行こう。
貴族との交渉なら
私のほうが向いている」
信:「助かります。山岳はロガさんとシルトにお願いしたい」
シルト:「いんですか。俺たちだけに任せて」
信:「ああ、信頼してるよ」
ロガは無言で頷いた。
夜風が吹いた。
ドミナスが空を見上げた。
五年前に失った仲間たちの名前を、心の中で呼んだ。
待っていてくれ。今度こそ、作る。
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建国プロジェクト:状況確認
第6話終了時点
北の森・仮拠点
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人員 :コアメンバー:7名/総勢:18名
資金 :銅貨12枚・魔獣討伐で増加見込み
食糧 :当面確保済み
拠点 :仮拠点あり(要改善・傾いている)
安全度:低リスク
仲間の能力発揮値
リュカ :5% → 8%
ミネルヴェ:25% → 30%
ロガ :55%(変化なし)
シルト :45%(変化なし)
ラギラブ :35%(変化なし)
ドミナス :30%(新規加入)
リュカの能力:未発現
信のメモ:「?????のまま。
焦らず待つ」
次のマイルストーン
→ 熊人のスカウト(建設)
→ 栗鼠人のスカウト(物資管理)
→ 魔獣討伐で資金確保
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第6話 終了
次話:「クマは泣いていい」そして「リスは忘れない」




