第3部 第5話「鉄峰の民」
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建国プロジェクト:状況報告
第3部・解放編 第5話開始時点
現在地:ドワーフ職人連盟・本拠地へ向かう道中
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目的:ドワーフとの外交・技術交渉
東の鉱山都市への中継地点
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移動中、猪人フォーヌが信の隣を歩いていた。
フォーヌ:「一つ確認しておく」
信:「なんですか?」
フォーヌ:「ドワーフとは取引しない。
最初に伝えた俺の方針だ。
今もそれは変わっていないからな」
信:「わかっています」
フォーヌ:「俺の作ったものをドワーフに渡すつもりはない。
それだけは守ってくれ」
信:「守ります。
ただ、話だけは聞いてほしい」
フォーヌ:「聞くだけならばな」
信:「まずは話し合いましょう」
フォーヌが少し黙った。
それから歩きながら話し始めた。
ドワーフ国の政治体制
フォーヌ:「あの国について説明をしておく。
ドワーフの国は、国とは言っても職人の一家の集まりだ。
親方衆による合議制で物事が決まる」
信:「代表はいなんですか?」
フォーヌ:「10年に一度評議会が行われる。
その時に技術評価が最も低かった一家が代表となる」
信:「技術が低い者が? 高い者ではなく?」
フォーヌ:「対外事務や実務は仕事の邪魔になる。
だから一番惜しくない者がやっているんだ。
そのため、代表自体には力がない」
信:「なるほど。
徹底した職人主義だね」
フォーヌ:「そして、俺たち獣人は労働力として使われている。
人間とは違う扱いだが、エサはちゃんとやっている。
そういう認識の連中だ」
鴉人シルトが小声で信に言った。
シルト:「厄介そうな相手ですね」
信:「でも話はできる。
それだけで十分だ」
ドワーフ国に到着
険しい山脈の中に、石造りの街があった。
至る所で鍛冶場の炎が燃えていた。
金属を叩く音が絶えなかった。
獣人が重い荷物を運んでいた。
首輪をしていた。
ロガが拳を握った。
信:「今は待ってください。
必ず解放する方法を見つけます」
会合の場に通された。
三つの一家の親方衆が座っていた。
オラーリグ家の親方
白髪の老ドワーフ。
腕が異常に太い。
石のような眼で信たちを見ている。
サークスム家の親方
赤い髭のドワーフ。
3人の中で最も若い。
値踏みするような目つき。
クラーピス家の親方
小柄だが威圧感がある。
道具を常に手で弄っている。
話すより手を動かしていたい性格。
親方衆の後ろに若いドワーフたちが数名座っていた。
オラーリグ:「遠路、よく来た。
早速だが、俺たちは貴国の料理道具を見てその技術に関心した。
是非とも武器の取引を願いたい」
信:「すいません。
武器の取引はしないという国の決まりなんです。
クロノスリュカの方針として他を傷つける物の輸出はしない」
サークスム:「ではわざわざ何のために来たんだ」
信:「別の取引を提案したいんです。
加えて、一つお願いがある」
獣人の解放交渉
信が単刀直入に言った。
信:「この国で働いている獣人を解放してほしいんです」
親方衆が顔を見合わせた。
突然であまりの提案にあっけに取られている。
オラーリグ:「獣人はよく働く。
エサもちゃんとやっている。
奴らに不満はないはずだ」
信:「不満の問題ではありません。
自由の問題です」
クラーピス:「仕事の無い自由なんて死んでるのと同じだぞ」
信:「強制された仕事は、力が発揮されないと思うんです。
とにかく、聞いてください。
今からある提案をします」
信がアッチとフォーヌに小声で確認した。
信:「ロボット技術の提案と獣人解放の交換を考えています。
ただ、これは二人が確立した技術の提供ですが、いいですか」
アッチ:「獣人の解放のためなら仕方ない」
フォーヌ:「……ほぼ、アッチの仕事だ。俺もいい」
信はオラーリグたちの方に向き直った。
信:「ロボット技術の提供です。
獣人の代わりに働く機械です。
疲れない・文句を言わない・24時間動く」
オラーリグ:「ロボットとはなんだ?」
親方衆が初めて前のめりになった。
量産型の鉄の運用を実演した。
硬い岩壁を首に装備させたツルハシを打ち込み、砕く。
重い岩を軽々と運ぶ。
その様子を親方衆が黙って見ていた。
後ろの若いドワーフたちの目が輝いた。
サークスム:「こいつらの動力はなんだ?」
信:「一部特殊な魔法石は使っていますが、基本は魔術の力で動いています」
サークスム:「魔法と魔術の融合か」
信:「どうですか、これなら、誰も傷つかずに採掘や運搬が可能です」
オラーリグ:「俺たちでも扱えるものなのか?」
信:「これから説明します。アッチ頼む」
アッチと若いドワーフたちの交流
浣熊人アッチが親方衆にロボット技術を説明した。
親方衆が首を捻った。
歯車の仕組みは理解できた。
しかしルーン文字との組み合わせが難しかった。
親方衆に呼ばれて、後ろの若いドワーフが前に出てきた。
若いドワーフ:「ここの歯車の配置をこうすれば効率が上がりませんか」
アッチ:「なるほど。確かにそうだ。
なぜわかった」
若いドワーフ:「見ていたらそう見えた」
アッチ:「面白い子だな」
若いドワーフたちが次々と質問した。
アッチが答えた。
気づいたら2時間以上が経っていた。
アッチ:「この子たちは本物だ。
教えればすぐに俺を超える」
信:「それでいい」
アッチ:「そうだな。
技術は伝えるためにある」
若いドワーフ:「親方。これなら俺たちでも運用できそうです」
オラーリグ:「そうか。
では、細かな条件について詰めようか。信どの」
信:「ありがとうございます。
じゃあ、リュカ、ドミナス。後を頼むね」
リュカ:「はい」
ドミナス:「任せてください」
技術交換と同盟の締結
【クロノスリュカ側の提供】
ロボット技術の提供
量産型「鉄」の提供
【ドワーフ側の提供】
獣人奴隷の解放
鉱石・金属の定期的な取引
相互不可侵の同盟
信:「本来ドワーフは他国を攻めるという概念がないと聞いています。
相互不可侵は形だけのことかもしれない」
オラーリグ:「ああ、戦争なんざ馬鹿のすることよ。
我々は仕事をするだけだ」
信:「では、なぜ武器の取引を希望したんですか?」
オラーリグ:「武器は一番金になる商品だ。お主の国の武具を参考に、我々も技術をあげたかったんだよ」
信:「ロボット技術は武力にも転用は可能です。
これは他国に売らないで欲しい」
オラーリグ:「分かっておる。
人から教わったものを、自慢げに他国に売るような浅ましいことはせんて」
合意が成立した。
フォーヌの真実
会合の後、オラーリグがクロノスリュカの鍛治職人に会いたいと言った。
フォーヌ:「俺だ」
オラーリグ:「獣人のお主だったのか。
俺はてっきりドワーフの仕事かと思っていたぞ。
誰に技術を習った?」
フォーヌ:「アダマスというドワーフだ。捨てられたがな」
オラーリグ:「アダムスさん! お主、アダムスさんの弟子だったのか!」
フォーヌ:「知っているのか?」
クラービス:「この国でアダムスさんを知らんものはおらん。この国随一の名工だった。
弟子は取らんと言っておったぞ」
オラーリグ:「ただ、獣人の子供が側にいたな。
そうか、あの子供がお主か」
フォーヌ:「俺が色々と技術を見出したが、ある日、突然捨てられたんだよ」
オラーリグは少し間を置いた。
オラーリグ:「……捨てたわけじゃない。
独り立ちさせるためだ」
フォーヌ:「どういう事だ」
オラーリグ:「そうか。あの方は伝えてなかったのか。
どこまでも不器用な人だ。
付いてこい」
オラーリグはフォーヌを伴い、町外れへと向かった。
そこには墓があった。
オラーリグ:「アダムスさんはここに眠っている」
フォーヌ:「そうか。死んだのか。
ドワーフは長命な生き物だから、まだどこかで仕事をしてると思っていたが」
オラーリグ:「あいつは死期を悟っていたんだ。
自ら素材の採集をする事が信条で、
そのために身体に悪いものが溜まっていった。
最後は苦しみながら死んでいったよ」
フォーヌ:「…………」
オラーリグ:「お前にその姿を
見せたくなかったんだろう。
だから、厳しい言葉ではねつけた」
フォーヌが動かなかった。
長い沈黙があった。
フォーヌは墓に架けられた物が光ったのを見つける。
フォーヌ:「これは……」
オラーリグ:「あいつが、死ぬ間際まで握っていたブレスレットだ」
フォーヌ:「これは、
これは俺がアダマスに作った物だ」
その夜、フォーヌが信に言った。
フォーヌ:「一部の取引はいい。
考え直した」
信:「大丈夫ですか?」
フォーヌ:「昔の話だ。
それだけだ」
信は何も聞かなかった。
ドワーフの暮らしと日本酒
ドワーフの街を見て回った。
仕事と酒だけの生活だった。
朝から鍛冶をして、夜は酒を飲む。
それだけで完結していた。
ラック:「娯楽がないんですね」
ドミナス:「仕事自体が娯楽なんでしょう」
ラック:「……ある意味、最強ですね」
バーナデッドが酒の種類を確認していた。
バーナデッド:「麦の酒しかない。
でも品質は高いですね」
信は思いついて、オラーリグに声をかける。
信:「試してもらいたいものがある」
信が兎人ラギラブとアッチに頼んで作らせておいた米の酒を出した。
遊びとして実験的に作った日本酒だった。
オラーリグが一口飲んだ。
動かなかった。
もう一口飲んだ。
オラーリグ:「……なんだ、これは!」
信:「米から作った酒です。俺の故郷では日本酒って呼ばれてる」
オラーリグ:「米から、酒が作れるのか」
サークスム:「……うまい。
俺たちの酒とは全然違う。すっきりとしてキレがある」
クラーピスは無言で3杯飲んだ
ドワーフたちが絶賛した。
ドミナス:「信、行けます。これを取引に加えましょう。
鉱石と日本酒の定期交換。
悪くない条件です」
信:「お願いします」
ドミナスが即座に交渉を形にした。
ノームの情報
全ての話が終わった後。
信がオラーリグに言った。
信:「実は、今回ここに来たのは、もう一つ理由があるんです」
オラーリグ:「なんだ?」
信:「精霊ノームのところに行きたいんです。
どこにいるかご存じですか?」
オラーリグ:「地の精霊ノームか。
確かに、ノームの社はこの山脈の深層にある」
信:「深層、どのくらい深い場所ですか」
オラーリグ:「我々でも辿り着いたことがない。
社への道は、地底迷宮のような構造だと聞き伝えられている」
信:「迷宮ですか」
オラーリグ:「さらに最近、地震が増えている。
異変が起きているのは間違いないだろうな」
信:「地震。また魔獣の王か」
鹿人コダが信の服を引っ張る。
コダ:「多分大丈夫、声の聞こえる方向が分かるんだ
この国に来て、より鮮明になってきてる」
信:「頼りにしているぞ」
信が全員を見た。
信:「次は地の底へ向かいます」
解放された獣人たちとの別れ
出発前、数百名の獣人が波止場に集まっていた。
解放された鉱山奴隷たちだった。
クロノスリュカへの移住を希望する者が多かった。
信:「クロノスリュカは全員を歓迎します。
ただし、ここに残る選択肢もある。
自分で決めてください」
300名以上がクロノスリュカへ向かうことになった。
ナインホースが輸送を担当した。
残った者たちは、ドワーフ国でルーン文字入りの工具を手に、今度は自分の意志で仕事を始めていた。
ロガ:「よかった」
スルト:「ロガさんが嬉しそうな顔してる」
ロガ:「うるさいぞ」
フォーヌ:「ああ、本当によかった」
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建国プロジェクト:状況報告
第3部・解放編 第5話終了時点
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外交成果
ドワーフ職人連盟との同盟締結
技術交換:ロボット技術↔鉱石・金属
定期取引:日本酒↔鉱石
獣人の解放
数百名の鉱山奴隷を解放
300名以上がクロノスリュカへ移住
フォーヌの変化
アダマスの真実を知った
ドワーフとの一部取引を認めた
新たな交流
アッチと若いドワーフたちの技術交流が始まった
判明した脅威
ノームの社が深層にある
地震が増えている
魔獣の王の影響の可能性
次のマイルストーン
→地の底へ・ノームの救出
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第3部 第5話 終了
次話:「地鳴りの洞窟」




