第2部 第2話「壁を作る前に」
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建国プロジェクト:状況報告
第2部・建国編 第2話開始時点
現在地:クロノスリュカ・建国地
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国民 :76名
資金 :銀貨15枚
食糧 :3日分
建物 :神殿のみ
城壁 :なし
結界 :未回復
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建国2日目の朝。
熊人ジグニが渓谷を歩き回っていた。
岩を叩いた。土を踏んだ。崖の角度を目で測った。
信:「どうですか」
ジグニ:「悪くない地形だ。
ただ、材料が足りない」
信:「どのくらい足りない」
ジグニ:「全部」
信:「全部?」
ジグニ:「全部だ」
材料問題
栗鼠人バーナデッドが昨夜作成した在庫管理表を広げた。
バーナデッド:「木材・石材・金属、
全て深刻な不足です。
現状の資材では
小屋が3棟建てられれば
いい方です」
ジグニ:「76名に3棟では足りない」
信:「森から木材を切り出せないか。
スタアーグ、どう思いますか」
鹿人スタアーグが静かに答えた。
スタアーグ:「切り出すことはできる。
森は自分で回復する。
心配しなくていい」
信:「切った分だけ植える。
伐採と植林を同時に進めたい。これは必須として」
スタアーグ:「……なぜだ。
森は自然に戻る」
信:「戻るのに時間がかかる。
俺たちが使う速度のほうが
早くなる可能性がある。
それに、植えた木が育つのを
見ながら暮らす国にしたい」
スタアーグ:「…………」
(長く信を見た)
「……わかった。
その考え、嫌いじゃない」
ミネルヴェ:「植林と伐採の同時進行か。
この大陸では
聞いたことがない」
信:「俺のいた世界では当たり前でした。
森は使うものじゃなく
一緒に生きるものだ」
荒くれ者の仕事
建設が始まった。
しかし昨日受け入れた荒くれ者たちが することなく渓谷をうろついていた。
カティ:「あいつら、また
うろついている」
信:「仕事を与えてみましょう」
カティ:「甘い。
何をするかわからない。どうせまた問題を起こすぞ」
信:「試してみる価値はあります。
ジグニに監督してもらいましょう」
カティ:「何かあったら私が動く」
信:「はい」
ジグニが荒くれ者たちに声をかけた。
ジグニ:「石を運べ。
あそこからここに」
荒くれ者A:「なんで俺たちが」
ジグニ:「できないなら
しなくていい」
ジグニが黙って石を持ち上げた。
人間の3人分はある大きさの石を、一人で運んだ。
荒くれ者たちが目を丸くした。
荒くれ者A:「……なんだあの力は」
荒くれ者B:「熊人だからな。行くか」
荒くれ者たちが動き始めた。
最初は渋々だった。
しかし石を運ぶうちに、何かが変わった。
荒くれ者の中に、一人、目つきが変わった者がいた。
他の者より丁寧に石を積んでいた。
ジグニ:「お前、やったことがあるな」
岩山羊人の荒くれ者:「……昔、鉱山で
石積みをさせられた」
ジグニ:「奴隷か」
岩山羊人の荒くれ者:「そうだ。
ずっと嫌いだった。
石なんか見たくもなかった」
ジグニ:「今は」
岩山羊人の荒くれ者:「……今は、違う。
自分で決めてやってるから、
同じ石でも
なんか、面白い」
(少し照れた顔で)
「変か」
ジグニ:「変じゃない。
俺も同じだ」
ジグ二は作業の手を止め荒くれ者の方を向く。
ジグニ:「名前は?」
岩山羊人ガルバ:「ガルバ」
ジグニ:「これからもよろしく頼む、ガルバ」
ガルバ:「久しぶりに名前で呼ばれた気がする」
ジグニ:「ここを仕切る人間が常にそうするんだ、皆もいつかそうなった」
ガルバ:「いいところだな」
ジグニ:「ああ」
夜、カティがその姿を遠くから見ていた。
カティ:(信に小声で)
「……今日だけは認める」
信:「明日もお願いしますね」
カティ:「明日は明日だ」
水路の現地調査
午後、信とジグニがアルカ川への引水ルートを調査しに出た。
狼人ロガが護衛についた。
渓谷の東端を抜けると、川沿いの岩場に出た。
信:「ここから引水できるかな」
ジグニ:「できる。
ただし岩を削る必要がある。
2週間はかかる」
信:「急ぎましょう。
水が安定しないと
全ての計画が止まる」
その時だった。
岩陰から魔獣が飛び出した。
グラウルベアだった。
熊と蜥蜴が混ざったような外見。鱗と毛が混在した体躯。人間の倍ほどの大きさ。赤く発光する目が信たちを捉えた。
ロガが剣を抜こうとした。
その前にジグニが動いた。
素手で魔獣の首に飛びついた。
一瞬だった。
グラウルベアが地面に倒れた。
ロガ:「俺の仕事だ」
ジグニ:「建設現場の責任者は俺だからな
邪魔なものは
どかすのが当然だ」
ロガ:「…………」
信:「ジグニ、怪我は」
ジグニ:「ない。
それより素材を回収しよう。
売れば資金になる」
ロガ:(信に小声で)
「……あいつは戦士ではないのか」
信:(小声で)
「建設の人ですよ。
ただ、建設の人が
本気を出すとああなるみたいです」
ロガ:「…………」
グラウルベアの鱗・爪・骨を回収した。
リュカと結界
夕暮れ時。
犬人女王リュカが一人で神殿に入った。
しばらくして出てきた。
その顔が、少し大人びていた。
信:「何を話したんだ」
リュカ:「秘密」
信:「そうか」
リュカ:「……ひとつだけ言う。
結界は時間がかかるって。
でも、わたしが
少し手伝えるかもって」
信:「え?」
リュカ:「時空魔法で
結界の隙間を
少し埋められるかもって。
クロノスが教えてくれた」
ミネルヴェ:「……本当か」
リュカ:「やってみないとわからないけど」
信:「無理はしなくていい」
リュカ:「うん。でも、やってみたい」
ミネルヴェが信に小声で言った。
ミネルヴェ:「クロノスがリュカに
直接教えたということは
二人の繋がりが
深まっているということだ」
信:「いいことですか」
ミネルヴェ:「この国にとっては
これ以上ない吉報だ。
ただし、リュカに負担がかかる。
気を付けて見ていてやれ」
信:「わかりました」
夜の報告
夜、バーナデッドが本日の在庫変動を報告した。
バーナデッド:「本日の成果です。
木材・石材の調達開始。
グラウルベアの素材回収1件。
ドミナスが明日マルカンドの
商人に接触します」
信:「資金の見通しは」
バーナデッド:「魔獣素材が
定期的に入れば
1ヶ月で銀貨30枚になる計算です」
信:「倍か。助かる」
狐人ドミナスが付け加えた。
ドミナス:「マルカンドの商人が
どんな素材を欲しがっているか
明日の接触で探ります。
交易の入口になるかもしれない」
信:「頼みます」
信は手帳に書いた。
今日できたこと:建設開始・水路調査・魔獣討伐・結界の糸口。 明日やること:植林チームの編成・水路工事の着工・ドミナスの交易接触。
大変だ。でも、前に進んでいる。
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建国プロジェクト:状況報告
第2部・建国編 第2話終了時点
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国民 :76名
資金 :銀貨15枚・翌月30枚見込み
食糧 :3日分・調達中
建物 :住居建設開始
水路 :調査完了・工事着工予定
結界 :リュカが補助できる可能性
本日の成果
植林・伐採の同時進行方針確立
荒くれ者に仕事を割り当て・効果あり
グラウルベア討伐・素材回収
リュカとクロノスの繋がりが深まった
マルカンドとの交易接触(ドミナス担当)
次のマイルストーン
→ 住居の完成
→ 水路工事の着工
→ マルカンドとの交易接触
→ リュカの結界補助を試す
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第2部 第2話 終了
次話:「時計が動く国」




