第15話「時の神殿を守れ」
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建国プロジェクト:状況報告
第15話開始時点
現在地:クロノス神殿・防衛線構築済み
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人員 :総勢65名
安全度:警戒レベル最高
3000名の旅団が森を焼き始めた
状況 :決戦前夜が明けた
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森が燃えていた。
黒い煙が空を覆った。
人間の旅団が黒い油を森に流し込み、火の魔術で点火した。
数千年の時を、獣人たちが守り続けた森が、燃えていた。
スタアーグ:「……森が、燃えている」
(初めて、声が震えた)
信:「スタアーグ」
スタアーグ:「……わかっている。
今は、止まらない」
ミネルヴェが上空から降りてきた。
ミネルヴェ:「結界が揺らいでいる。
森の力が弱まれば
迷いの効果が消える。
大群が一気に来る」
アラファ:(風の精霊で全員に)
「前方から3000。
東から500。
西から200。
精霊狩り特殊部隊は
中央に確認。
30分以内に接触します」
信が全員を見渡した。
65名対3700名。
数の差は覆せない。でも、やることは変わらない。
信:「全員、持ち場について!
作戦通りに動く。
変更があればシルトとアラファから連絡が来る。
それに従ってくれ!」
全員が動いた。
第1防衛線:罠地帯
西からの200名が最初に動いた。
アッチの罠が発動した。
地面が崩れた。落とし穴だった。底にフォーヌのルーン文字が刻まれた杭が並んでいた。
先頭の30名が落ちた。
アッチ:(工房馬車の中から確認しながら)
「次は5秒後に右の仕掛けが」
フォーヌ:「起爆のタイミングは合っているか」
アッチ:「完璧だ」
次の仕掛けが発動した。
鋼鉄の網が地面から飛び上がった。フォーヌのルーン文字が刻まれた網は、魔術を弾いた。兵士たちが絡まった。
さらに次の仕掛けが発動した。
ミネルヴェの黒魔術を封じ込めた魔術球が破裂した。
範囲が通常の5倍に広がった。
西の部隊が、視界を失った。
フォーヌ:「……予想以上の効果だ」
アッチ:「ルーン文字の配列を昨夜また変えた。
少し良くなった」
フォーヌ:「少し、ではない」
アッチ:「では、かなり良くなった」
第2防衛線:東の土塁
東からの500名が土塁に当たった。
2メートルを超える土塁は、騎馬では越えられなかった。
歩兵が梯子を出した。
その瞬間、土塁の上にロガ隊が現れた。
狼人・犬人が横一列に並んだ。
ロガ:「押し返せ」
梯子が次々と払い落とされた。
ロガが正面から梯子を掴んだ。
兵士ごと、投げ返した。
シルト:(上空から)
「東の梯子が15本。
右端から集中しています。
ロガさん、右に寄って」
ロガ:「右、3人移れ」
ロガ隊が即座に動いた。
右端の梯子が全て払われた。
ロガ:(心の中で)
「……一人では無理だった数だ。
群れることがこれほど有効とは。
信が言っていた通りだった」
第3防衛線:南の平地
3000名の本隊が南から来た。
ペイスが咆哮した。
ナインホースがケンタウロス形態に変わった。
9頭が一列に並んだ。
弓を構えた。
ペイス:「放て」
矢が雨のように降った。
先頭の隊列が乱れた。
ナインホースが突撃した。
本隊の先頭を崩した。
すぐに撤退した。
また突撃した。また撤退した。
繰り返した。
本隊の進軍速度が、大幅に落ちた。
精霊狩り特殊部隊
中央から、精霊狩り特殊部隊が動いた。
50名。しかし一人ひとりが別格だった。
精霊を封じる魔術具を持っていた。
ミネルヴェの黒魔術が、特殊な盾で弾かれた。
ドミナスの幻惑が、魔術具で打ち消された。
ミネルヴェ:「厄介だな。
精霊の力を無効化する装備か」
ドミナス:「通常の手が通じませんね」
特殊部隊が神殿に向かって一直線に進んだ。
その時、神殿の屋根からカティが飛んだ。
音は無く。
影すら見えなかった。
気づいた時には、先頭の3名が動けなくなっていた。
カティ:「……この程度か」
特殊部隊隊長:「猫人か。
一匹ずつ仕留める」
カティ:「やってみろ」
猫人20名が神殿の影から現れた。
一撃必殺。
散発的な攻撃に、猫人は圧倒的に強かった。
しかし特殊部隊は50名だった。
数が多すぎた。
10名が倒れた頃、カティが押され始めた。
信の危機
その時だった。
特殊部隊の隊長が信を見た。
人間が指揮している。
それだけで、格上の標的だった。
隊長が魔術を構えた。
信が気づいた時には、間に合わなかった。
魔術が放たれた。
リュカが見ていた。
しんが、死ぬ。
その言葉が、頭の中で弾けた。
時間が、止まった。
リュカの能力の発現
周囲の全てが、静止した。
炎も、煙も、飛んでくる魔術も。
全部が、止まった。
リュカだけが、動いていた。
神殿の扉が、内側から輝いた。
光が溢れた。
声が聞こえた。
言葉ではなかった。
でも意味はわかった。
クロノス:「待っていた」
リュカの体が光に包まれた。
リュカが持っているお守りに刻まれたファミリーネームの紋様が輝いた。
胸の奥から、力が溢れた。
時間が、巻き戻った。
信が魔術を受ける30秒前に。
誰も気づかなかった。
ただ、リュカだけが知っていた。
一度起きたことを。
一度、信が死んだことを。
リュカの目から、涙が一筋流れる。
それだけだった。
リュカは全力で掛け、信に体当たりをする。
信が立っていた場所に、魔術が空を切った。
時の流れが変わる
リュカが両手を広げた。
その両手からは時計の様な複雑な魔法陣が展開される。
そして、時の流れが、僅かに遅くなった。
敵の動きが、全員に見えるようになった。
ロガ:「……見える。
全部が、見える」
カティ:「これは……何だ」
ミネルヴェ:「時の流れが遅くなっている。
これが、……クロノスの加護」
リュカが全軍の指揮をとる。
リュカ:「カティさん、左の特殊部隊が右に動く。今」
カティ:「わかった」
リュカ:「東の土塁に梯子が集中する。3秒後。ロガさん東に全員集めて」
ロガ:「皆俺に付いてこい!」
リュカ:「南の本隊が中央を突こうとしています。ペイスさん中央に向け突撃を」
ペイス:「任せろ」
全員が、リュカの言葉に従って動いた。
戦況が、変わり始めた。
全員がクロノスとリュカの繋がりを知る
特殊部隊の隊長が、リュカを見た。
精霊を封じる魔術具を向けた。
特殊部隊隊長:「その力、封じる」
魔術具が発動した。
しかし、何も起きなかった。
特殊部隊隊長:「……なぜだ。
精霊の力を封じているのに」
ミネルヴェ:「精霊の力ではないからだ。
これはクロノスの加護を受けた
獣人固有の力だ。
精霊魔法でも魔術でもない。
お前たちの道具では封じられない」
神殿が再び輝いた。
クロノスの光が、リュカを中心に広がった。
全員が見た。
リュカのファミリーネームの紋様が、神殿の紋様と完全に一致した。
スタアーグ:「……やはりそうだった。
この紋様を持つ者が来ると
200年間待ち続けた」
カティ:「……あの子が、クロノスと」
ロガ:「……最初から、決まっていたのか」
シルト:「……リュカが、ここに来るべき人間だった」
リュカは何も言わなかった。
ただ、前を見ていた。
9歳の犬人の少女が、時の精霊の加護を受けて、大地に立っていた。
決定的な勝利
特殊部隊が崩れた。
カティの猫人隊が一気に仕留めた。
統率を失った3000名の本隊が、動揺した。
ロガ隊が東の土塁から飛び降りた。
ナインホースが南から突撃した。
アッチの最後の仕掛けが発動した。
地面から、光の柱が上がった。
フォーヌのルーン文字が刻まれた魔術増幅器が、ミネルヴェの黒魔術を最大出力で放った。
戦場全体が、一瞬、暗闇に包まれた。
ガルディウス:(後方の高台から)
「……退け。
全軍、撤退だ」
ガルディウスの顔が、険しかった。
怒りではなかった。
初めて、恐れが混じっていた。
ガルディウス:(独り言のように)
「人間と獣人の協力など認めん」
旅団が撤退した。
森の炎が、消えていた。
クロノスの力が、燃えた木々を癒していた。
クロノスの降臨
戦いが終わった。
全員が、神殿の前に集まった。
65名。
傷だらけだった。でも、全員が立っていた。
神殿の扉が、ゆっくりと開いた。
光が溢れた。
言葉にならない力が、全員の肌に触れた。
クロノスが降臨した。
姿は人の形をしていた。しかし人ではなかった。時の流れそのものが、人の形を取っていた。
全員が、膝をついた。
リュカだけが、立っていた。
クロノス:「……長かった」
リュカ:「待たせてごめんなさい」
クロノス:「謝ることはない。
来るべき時に、来た。
それで十分だ」
クロノスが信を見た。
クロノス:「……人間よ。
ここに国を建てることを望むか」
信:「はい。
お許しをいただけるのならば」
クロノス:「許可の前に、問う。
王を据えるか」
信:「はい」
クロノス:「王は誰か。
お前がその玉座に座るのか」
信:「違います」
クロノス:「なぜ違う」
信:「この国は獣人たちのための国です。
人間が王に座れば
内からも外からも信頼されない。
俺の役目は王ではない」
クロノス:「では、誰が王に相応しい」
信がリュカを見た。
信:「リュカです。
この子なら世界を変えられる」
クロノスが全員を見た。
クロノス:「皆もそれで良いのか?」
ロガが前に出た。
ロガ:「リュカ以外にいない」
ミネルヴェが続いた。
ミネルヴェ:「72年間待った。
この子のためだったと
今ならわかる」
カティが一歩前に出た。
まだ迷っている顔だった。
でも、言った。
カティ:「……今日の戦いを見た。
あの子は、本物だ」
スタアーグが静かに言った。
スタアーグ:「200年間待った。
答えは出ている」
シルトが言った。
シルト:「リュカが最初に俺を仲間と呼んでくれた。
それだけで十分なんすよ」
ラギラブが言った。
ラギラブ:「村を失った時、
リュカも同じだった。
だから、リュカが王なら
みんな安心できる」
ジグニが、大きな体で頷いた。
言葉はなかった。それで十分だった。
一人ひとりが、リュカを見た。
クロノスが笑った。
時の精霊が笑う姿は、夜明けの光に似ていた。
クロノス:「では、王はリュカだ。
それで、国の名は、どうする」
信:「決まっています」
クロノス:「何だ?」
信:「クロノスリュカです」
クロノス:「……ほう」
(また笑った)
「良いな」
リュカの戴冠
クロノスがリュカの前に立った。
リュカを見下ろした。
リュカが見上げた。
クロノス:「リュカよ。
この国の王となることを
受け入れるか」
リュカ:「でも、私にはできないことが、たくさんある」
クロノス:「そうだな」
リュカ:「それに、難しいことは、わからない」
クロノス:「ならば、何ができるかな」
リュカ:「……誰も捨てない国を作る。
それだけは、できる」
クロノスがリュカの額に手を当てた。
光が溢れた。
リュカのファミリーネームの紋様が、金色に輝いた。
懐中時計が、全員の胸の中で振動した。
クロノスの加護が宿った証だった。
建国宣言
信が前に立った。
信:「ここに、クロノスリュカを建国します。
国王はリュカ。
誰も捨てない国を、ここから作ります」
全員が声を上げた。
人間も、梟人も、犬人も、狼人も、鴉人も、兎人も、狐人も、熊人も、栗鼠人も、羊人も、猪人も、馬人も、蝙蝠人も、浣熊人も、猫人も、鹿人も。
65の声が、渓谷に響いた。
クロノスの神殿が輝いた。
森の炎が完全に消えた。
新しい芽が、焼けた地面から顔を出した。
リュカ:(信に小声で)
「……しん、わたし、ちゃんとできるかな」
信:(小声で)
「できるできないじゃないんだ。やるんだよ
そのために、俺たちがいる。
それがチームだ」
リュカ:「……うん」
リュカが顔を上げた。
9歳の犬人の少女が、時の王国の王として、渓谷に立った。
灰の原で一人座っていた少女が、ここまで来た。
カティがリュカの隣に来た。
カティ:「……まだ、信用したわけじゃない」
リュカ:「うん」
カティ:「でも、お前の村と俺の家族は
同じ人間に奪われた。
それだけは、同じだ」
リュカ:「……一緒に取り戻そう」
カティ:「……ああ」
ロガがスタアーグの隣に立った。
ロガ:「200年間、よく守った」
スタアーグ:「お前たちが来てくれた。
それで十分だ」
ロガ:「……これからは一人じゃない」
スタアーグ:「……そうだな」
ミネルヴェが信の隣に来た。
ミネルヴェ:「……72年間で
初めて信用できる人間に会った。
裏切るなよ」
信:「裏切りません」
ミネルヴェ:「……わかっている。
それでも言いたかった」
時の鐘がなる。
その鐘の音は神殿を中心に森にも響き渡る。
スタアーグ:「これが、クロノスの時の鐘か。生きている間に聞ける日が来るとは」
夕暮れが、渓谷を赤く染めた。
クロノスリュカの最初の夕暮れだった。
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建国プロジェクト:第1部完了
時の王国クロノスリュカ 建国
建国地:クロノス渓谷
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国民 :65名
国王 :リュカ(犬人・9歳)
摂政PM:牧野信(人間・32歳)
軍の長:ロガ(狼人)
知の番人:ミネルヴェ(梟人)
外部交渉:ドミナス(狐人)
医療長 :クラグル(羊人)
情報部門:シルト・アラファ(鴉人・蝙蝠人)
建設 :ジグニ(熊人)
物資管理:バーナデッド(栗鼠人)
食糧・料理:ラギラブ・ダレト(兎人)
鍛冶・発明:フォーヌ・アッチ(猪人・浣熊人)
騎馬隊 :ペイス・ナインホース(馬人)
暗部 :アラファ(蝙蝠人)
森の長 :スタアーグ(鹿人)
神殿守護:カティ(猫人)
クロノスの加護
懐中時計に精霊の力が宿った
隊長クラスへの授与は建国後
リュカの時空魔法
能力の発現・クロノスの加護を得た
信のメモ:「一度、俺は死んだ。
リュカだけが知っている。
あの子が俺を救った。
それだけは、忘れない」
第1部:遊牧民編 完
第2部:建国編 開始
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第15話 終了
第1部「遊牧民編」完結
第2部「建国編」へ続く
「誰も捨てない。それが、この国の唯一のルールだ」― リュカ、建国の日




