第13話「シカは道を知っている」
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建国プロジェクト:状況報告
第13話開始時点
現在地:山岳地帯・下山中
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人員 :コア14名/総勢42名
資金 :銀貨10枚
食糧 :安定確保
移動力:工房馬車あり・ジグニが牽引
安全度:警戒レベル高
ガルディウスの追跡が背後にある
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山を下りきった先に、森があった。
深かった。
木々が天を覆い、昼間でも薄暗かった。霧が低く漂っていた。鳥の声もなかった。
ペイス:「……嫌な感じのする森だ」
シルト:「上空からも見えません。
霧が濃すぎて」
ミネルヴェ:「結界だ」
信:「結界?」
ミネルヴェ:「クロノスの時の力が
この森に宿っている。
侵入者の時間感覚を狂わせる。
方角がわからなくなる。
大規模な部隊ほど混乱が大きい」
ドミナス:「人間がこの攻略に
手間取っていた理由がわかった」
全員が森の入口に立った。
踏み込むことを、体が躊躇っていた。
その時、リュカが一歩前に出た。
リュカ:「……変な感じがする」
信:「怖いか」
リュカ:「怖くない。
変な感じだけど、
悪い感じじゃない。
……中に入っていいよって
言ってる気がする」
ミネルヴェ:「…………」
(目を細めた)
森の中
森に入った瞬間、方角がわからなくなった。
太陽が見えなかった。影がなかった。どこを向いても同じ景色が続いた。
ラギラブ:「……北はどっちだ」
シルト:「わからない。
飛んでも霧で何も見えない」
バーナデッド:「地図が役に立たない」
アッチ:「面白い結界だ。
時間感覚だけでなく
空間感覚まで狂わせている」
全員が立ち止まった。
信:「リュカ、わかるか」
リュカ:「……うん。こっち」
リュカが歩き出した。
誰も理由を聞かなかった。
全員がついていった。
20分ほど歩いた時、森の奥から音が聞こえた。
剣と剣がぶつかる音。
獣人の咆哮。
人間の怒声。
シルト:「戦闘音です。
この森の中で」
ロガ:「獣人が戦っている」
アラファ:「音の方向は北西。
距離は300メートルほど」
信:「行きます」
援軍
木々の間を抜けると、開けた場所があった。
鹿人たちが人間の部隊と戦っていた。
20名の鹿人に対して、人間は100名を超えていた。
鹿人たちは疲弊していた。傷を負いながらも踏みとどまっていた。しかし限界だった。
信:「ロガ、正面を頼む。
ナインホース、右翼から突撃。
シルト、上空から戦況を。
ミネルヴェさん、敵の視界を奪ってください。
ドミナス、左翼を混乱させて。
アラファ、奇襲ポイントを教えてくれ。
クラグル、負傷者の対応を
さあ、時間との勝負だ!」
ロガ隊が正面から突進した。
人間の部隊が、突然の増援に動揺した。
ペイスがケンタウロス形態に変わった。
ナインホースが右翼に突撃した。
咆哮が森に響いた。
ミネルヴェが上空から黒魔術を放った。
人間の兵士たちの視界が奪われた。
ドミナスの幻惑が左翼を包んだ。
友軍と敵軍の区別がつかなくなった兵士たちが混乱した。
アラファ:(風の精霊で全員に)
「後方の指揮官が中央にいます。
そこを崩せば統率が乱れる」
信:「ロガ、中央の指揮官を狙ってくれ」
ロガ:「わかった」
ロガが人垣を割って進んだ。
指揮官が後退した。
統率が乱れた。
その瞬間、アッチの声が工房馬車から聞こえた。
アッチ:「フォーヌ君、あれを使っていいか」
フォーヌ:「準備はできている」
アッチ:「では」
工房馬車の窓から、小さな装置が取り出された。
魔術増幅器だった。
移動中にアッチとフォーヌが共同制作した最初の作品。ルーン文字と精霊魔術を組み合わせた増幅装置だった。
ミネルヴェの黒魔術が、装置を通過した瞬間、範囲が5倍に広がった。
森全体に、暗闇が満ちた。
フォーヌ:「……予想以上だ」
アッチ:「ルーン文字の配列を変えた。
試作品より効果が高い」
フォーヌ:「次はさらに改良できる」
アッチ:「そう。これはまだ第一版だ」
人間の部隊が崩れた。
指揮系統を失った兵士たちが、暗闇の中で撤退を始めた。
10分後、森に静寂が戻った。
スタアーグとの出会い
鹿人たちが全員、膝に手をついていた。
疲れ果てていた。
その中から、一人が立ち上がった。
大きかった。
2メートルを超える体躯。立派な角。落ち着いた茶色の毛並み。目が深かった。遠くを見ているような目だった。
スタアーグ:「……来ると思っていた」
信:「俺たちのことを知っているんですか」
スタアーグ:「森は全てを知っている。
あなたたちが山を越えた時から
知っていた」
スタアーグがリュカを見た。
長い沈黙があった。
スタアーグ:「……その子が来たから」
リュカ:「わたし?」
スタアーグ:「森が言っている。
待っていた者が来たと」
リュカ:「……森が、言ってるの?」
スタアーグ:「この森はクロノスの加護を受けている。
森の声を聞ける者だけが
道を知ることができる。
あなたは、道がわかっただろう」
リュカ:「……うん」
スタアーグ:「それが答えだ」
信の視界に文字が浮かんだ。
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適性鑑定:鹿人・スタアーグ(推定200歳・男)
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森の知識 ★★★★★
地形把握 ★★★★★
隠密 ★★★★★
精霊との対話 ★★★★★
長距離察知 ★★★★★
精霊魔法(地・風) ★★★★☆
現在の状態: 長い年月の番人
待ち続けた使命の完遂が近い
信頼できる者の到来
現在の能力発揮値:60%
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200歳。ミネルヴェより長く生きている。もしかしたら精霊に近い存在なのかもしれない。
信:「神殿に連れて行ってもらえますか」
スタアーグ:「案内する。
この森は俺がいないと
辿り着けない」
(リュカを見て)
「……ただし、その子がいれば
別かもしれないが」
リュカ:「わたしは、スタアーグさんと一緒に歩く」
スタアーグ:「…………」
(少し、目が和らいだ)
クラグルが鹿人たちの負傷を治療した。
クラグル:「治ることは義務です。
動けるようになったら
また守れます」
鹿人:「……人間に治してもらうとは
思わなかった」
クラグル:「私は獣人ですよ」
鹿人:「……失礼した」
ロガが負傷した鹿人の一人に水を渡した。
言葉はなかった。
鹿人が受け取った。
それだけだった。
神殿への道
スタアーグが先頭に立った。
リュカがその隣を歩いた。
霧が晴れた。
木々の間に光が差し込んだ。
道が、見えた。
誰も気づいていなかった道が、そこにあった。
アッチ:「……結界が解けた?」
ミネルヴェ:「解けたのではない。
通してもらっているんだ」
30分歩いた。
木々が開けた。
渓谷があった。
いつか動画で見たスイスのジュラ山脈を思わせる景色だった。
霧が薄く漂い、花が季節を問わず咲いていた。
中央に、石造りの神殿があった。
古かった。でも朽ちていなかった。
時の加護が、この建物を守り続けていた。
リュカ:「きれい」
スタアーグ:「エルフが建てた。
しかしエルフは去った。
長命ゆえに時の価値を軽視した。
この地を捨てた」
ミネルヴェ:「そして獣人が守り続けたのか」
スタアーグ:「代々、この地を守ることが
俺たちの生きる意味だった」
信:「ありがとうございます」
スタアーグ:「礼はまだいい。
守り切ってからだ」
神殿の扉の前に、黒猫に近い毛並みの小柄な獣人が立っていた。
緑の目が、信たちを見ていた。
傷だらけだった。首に、外した首輪の残骸が巻かれていた。
カティ:「止まれ。
人間と、
人間に引き入られた獣人を
ここには入れない」
神殿へと続く道の最後の難関が、そこにいた。
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建国プロジェクト:状況報告
第13話終了時点
現在地:クロノス神殿前
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人員 :コア15名/総勢65名
スタアーグ+鹿種20名が合流
資金 :銀貨10枚
食糧 :安定確保
拠点 :クロノス神殿前・仮営地
新装備
魔術増幅器(アッチ×フォーヌ初共同作品)
効果:精霊魔法・黒魔術の範囲を5倍に拡大
スタアーグ加入
200年間この森を守ってきた番人
リュカとの共鳴が確認された
次のマイルストーン
→ 神殿へと入る交渉
→ 防衛線の構築
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第13話 終了
次話:「ネコは気まぐれに正しい」




