第12話「アライグマは諦めない」
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建国プロジェクト:状況報告
第12話開始時点
現在地:山岳地帯・移動中
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人員 :コア13名/総勢41名
資金 :銀貨10枚
食糧 :安定確保
移動力:夜間移動可能・山道が課題
安全度:警戒レベル最高
ガルディウスの追跡が迫っている
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山岳地帯に入って3日が経っていた。
道が険しかった。馬車の車輪が岩に引っかかった。ペイスとナインホースが交代で道を開いた。
山岳道を進む理由は2つあった。
1つはカシアス軍の追跡を振り切るため。山岳地帯は追跡が難しい。
もう1つは、山の向こうにあるものへ向かうため。
信にはそこに向かわなければいけないという不思議な感覚があった。
だが、それはまだ全員には告げていなかった。
シルト:(上空から降りてきて)
「後方の斥候を確認しました。
ただ山道に不慣れなようで
距離が開いています」
信:「このまま山を越えれば
追跡を完全に振り切れる」
ロガ:「問題は道だ。
この先、地図に道がない」
その時、リュカが足を止めた。
リュカ:「……何かある」
信:「どこ?」
リュカ:「あっちの岩の向こう。
空間が、変な感じがする」
ミネルヴェ:「変な感じ、とは」
リュカ:「普通の岩じゃない。
何かで隠されてる感じ」
ミネルヴェが目を細めた。
ミネルヴェ:「……結界か。
よく見えたな。
ルーン魔術と精霊魔術を
組み合わせた複合結界。
普通は感知できない」
信:「誰かいるんですか」
ミネルヴェ:「いる。
こんな結界を構築できる、かなりの使い手だ。
こんな山の中に」
結界の洞窟
リュカを先頭に岩場を回り込んだ。
一見すると何もない岩壁だった。
しかしリュカが手を伸ばした瞬間、空気が揺れた。
確信を持って進まなければ、無意識に戻るように仕向ける魔法も組み込まれている。
岩壁の向こうに、空間が広がっていた。
洞窟だった。
中から、金属を叩く音が聞こえた。
全員が足を踏み入れた瞬間、全員が足を止めた。
天井まで棚が並んでいた。歯車。バネ。レンズ。金属の板。謎の機械。人間の工具が所狭しと並んでいたが、そのほとんどが改造・改良されていた。
奥に、小さな老人がいた。
アライグマの獣人、浣熊人だった。
白髪交じりの毛並み。腰が少し曲がっていた。目に奇妙な工具を当てて、小さな金属部品を削っていた。
全員が入ってきたことに、気づいていなかった。
信:「すみません」
老人が飛び上がった。
工具を取り落とした。
壁際まで後退した。
アッチ:「だっ、誰だ。
どうして入れた」
リュカ:「なんか変な感じがしたから
触ったら入れた」
アッチ:「……触ったら?」
(リュカを見る)
(長い沈黙)
「……その子は、何者だ」
ミネルヴェ:「それはこちらが聞きたい。
この山に一人でいる理由を」
アッチ:「……話したくない」
老人は壁際で小さくなっていた。
他人と話すことに、明らかに慣れていなかった。
視線が定まらなかった。手が落ち着きなく動いていた。
信:「わかりました。
無理に聞かない。
ただ、山道を抜けるルートを
教えてもらえませんか。
それだけでいい」
アッチ:「……東の岩場を回れば
道がある」
信:「ありがとうございます」
信が踵を返した。
全員が洞窟を出ようとした。
その時、フォーヌが足を止めた。
棚の一角を見ていた。
フォーヌ:「……このバネの構造」
(手を伸ばす・触れる寸前で止める)
「触っていいか」
アッチ:「……」
(迷った顔をした)
「……壊すなよ」
フォーヌ:「当然だ」
フォーヌがバネを手に取った。
細部を確認した。しなりを試した。素材を爪で確かめた。
フォーヌ:「見たことがない構造だ。
どうやって考えた」
アッチ:「……素材の特性を理解して
変形のパターンを計算した」
フォーヌ:「計算? 図面はあるか」
アッチ:「……ある」
フォーヌ:「見せてくれるか」
アッチ:「……」
(また迷った顔をした)
「……少しだけなら」
老人が棚から紙の束を取り出した。
図面だった。
フォーヌが一枚一枚めくった。
フォーヌ:「……これは天才だ」
アッチ:「…………」
(顔が赤くなった)
「……そんなことは」
フォーヌ:「天才だ」
(繰り返した)
信の気づき
信が棚を見ていた。
一つの装置が目に入った。
小さな歯車が複数組み合わさって
一定の速度で回り続けていた。
信:「これは、何ですか」
アッチ:「……ただの暇つぶしだ。
一定の速度で回り続けるものを
作りたかっただけ」
信:「一定の速度で、回り続ける」
(頭の中で何かが繋がった)
「……時計が作れるかもしれない」
アッチ:「時計?」
信:「時間を測る道具です。
持ち運べる小さなもの。
この歯車の仕組みが使えるかもしれない!」
アッチ:「時間を……測る」
老人の目が、変わった。
それまでの怯えた目ではなかった。
好奇心が、全てを塗り替えた。
アッチ:「どういう仕組みで」
(椅子を引いた)
(座った)
「説明しなさい」
時計の依頼と難航
信が時計の概念を説明した。
信が確認した限り、人の街では、時をつげる手段は教会の鐘のみだった。
不思議な事に1日の長さはどうやら24時間、地球と同じようだった。
それから、信はどうにか時計を作れないものかと考えていた。
計画を立てる、進めるためには、時間という概念は最重要だったからだ。
アッチが質問した。信が答えた。アッチがまた質問した。
いつの間にか老人は多弁になっていた。
アッチ:「理論はわかった。
歯車の速度を一定に保つには
ゼンマイの張力を
一定に制御する必要がある。
問題は基準だ。
何を基準に時間を刻む?
歯車は一定に回るが
それが本当に時間と一致しているか
確認できない。
時間そのものを
掴まえる方法が必要だ。
でも時間は目に見えない。
見えないものを基準にはできない。
だから困る。
どうする?」
信:「……それが問題なんですね」
アッチ:「そう。そこだけが問題だ。
あとは全部解決できる」
フォーヌが素材の提供と加工を買って出た。
二人が作業台に向かった。
試作品を作った。動かした。狂った。また作った。また狂った。
アッチ:「うーん。
時間というものは
目に見えないから
基準にできない。困った」
フォーヌ:「ルーン文字で
歯車の動きを安定させることはできる。
でも基準がなければ
安定させる意味がない」
アッチ:「そう。基準。基準が必要だ」
リュカの介入
その時、リュカが作業台を覗き込んだ。
リュカ:「何を作ってるの」
アッチ:「時間を測る道具。
でも時間が掴めなくて困っている」
リュカ:「時間?」
アッチ:「そう。時間の流れに合わせて
歯車を動かしたいんだが
時間が見えないから基準にできない」
リュカ:「……時間って、見えないの?」
アッチ:「見えないよ。普通は」
リュカ:「わたしには見える」
アッチ:「…………え?」
ミネルヴェが工房に入ってきた。
リュカの言葉を聞いて、表情が変わった。
ミネルヴェ:「リュカ、もう一度言え。
時間の流れが見えると言ったか」
リュカ:「うん。ずっと前から。
みんなには見えないの?」
ミネルヴェ:「見えない。
誰にも見えない。
時の流れを感知できる存在は
この大陸に一つしかいない」
信:「一つ?」
ミネルヴェ:「時の精霊・クロノスだ」
信:「リュカの力って?」
ミネルヴェ:「……時空魔法。それは古の魔法だ」
工房が静まり返った。
アッチがリュカを見た。
長い沈黙があった。
アッチ:「……基準になってくれるか」
リュカ:「うん。やってみる」
リュカが目を閉じた。
時空魔法で、時間の流れを僅かに可視化した。
アッチがその基準に合わせて歯車とゼンマイを調整した。
フォーヌがルーン文字を刻んだ。
フォーヌ:「……ルーン魔術に
こういった使い方があるとは」
アッチ:「ルーン文字が
歯車の動きを固定する。
面白い組み合わせだ。
なぜ今まで気づかなかった」
フォーヌ:「俺も気づかなかった」
アッチ:「一人で作っていたから
気づけなかったんだ。
……そういうことか」
歯車が動き出した。
狂わなかった。
アッチ:「動いた。
狂わない。
これが時計だ」
リュカ:「できた?」
アッチ:「できた。
リュカがいなければ
一生かかっても無理だった」
リュカ:「アッチが作ったんだよ。
わたしはちょっと手伝っただけ」
アッチ:「ちょっとじゃない」
信の反応
信:(懐中時計を受け取る)
「動いてる。正確に動いてる」
アッチ:「震えているのか?」
信:「ああ、こんなの嬉しいに決まってる」
アッチ:「それほどか」
信:「PMにとって時間は命だ。
その命を、この世界に持ち込めた」
ミネルヴェ:「大袈裟な」
信:「大袈裟じゃない。
時間を制する者が、先手を取れる」
ミネルヴェのクロノス神殿の告白
ミネルヴェ:「……一つ、話がある」
信:「聞きます」
ミネルヴェ:「リュカの力の正体が
クロノスに関わるものだとすれば
向かうべき場所がある」
信:「この山の向こうですね」
ミネルヴェ:「知っていたか」
信:「山を越えた先にあると
ずっと感じていた」
ミネルヴェ:「精霊狩りの部隊が
その方角に向かっているという
情報も入っている。
急ぐ必要がある」
信:「行きましょう」
ロガ:「当然だ」
アッチの加入
全員が洞窟を出ようとした時、アッチが言った。
アッチ:「……私も行く」
全員が振り返った。
信:「一緒に来てくれるんですか」
アッチ:「40年間、一人で作ってきた。
楽しかった。
でも今日、初めて知った。
一緒に作るほうが
もっと楽しいということを」
フォーヌ:「…………」
(無言で頷いた)
アッチ:「それに、あの子の力が気になる。
特別な力。
まだ作れるものがある気がする」
リュカ:「喜んで協力しますよ」
アッチ:「ありがとう。
では条件がある。頼みというか」
信:「聞きます」
アッチ:「1つ。工房を持っていく。
道具と材料は全部必要だ」
信:「……全部ですか」
アッチ:「全部だ。
どれが必要かわからないから」
バーナデッド:(素早く計算する)
「馬車一台では載りません」
アッチ:「だから特注の工房馬車が必要だ。
私が設計する。
2つ。その馬車を引ける力がある者が必要だ」
ジグニ:「……引くのは俺だな」
アッチ:「一番力がある人が必要だから」
ジグニ:「……わかった」
(諦めた顔をした)
アッチ:「3つ。フォーヌと
共同作業をしていいか」
フォーヌ:「……構わない」
アッチ:「よかった。
あなたと作りたいものがある」
フォーヌ:「何を」
アッチ:「まだ世界に存在しないもの」
フォーヌ:「…………」
(職人の目になった)
「続けろ」
アッチ:「移動しながら話す」
適性鑑定が発動した。
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適性鑑定:浣熊人・アッチ(推定78歳・男)
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発明・工作 ★★★★★
機械設計 ★★★★★
素材理解 ★★★★★
ルーン魔術 ★★★★☆
└── 独自解釈による応用
好奇心 ★★★★★
現在の状態: 40年の孤独からの解放
仲間と作る喜びの発見
まだ見ぬ発明への燃焼
現在の能力発揮値:40%
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工房馬車の製作
アッチが設計図を書いた。
フォーヌが金属部品を作った。
ジグニが木材を組み上げた。
バーナデッドが収納を設計した。
半日で、工房馬車が完成した。
アッチ:「完璧だ」
フォーヌ:「ルーン文字で強度を上げた。
壊れない」
ジグニ:(試しに引いてみた)
「……重い」
(もう一度引いた)
「……引けないことはない」
アッチ:「ありがとう。大切に引いてくれ」
ジグニ:「……任せろ」
山道を進んだ。
工房馬車がゆっくりと、でも確実に進んだ。
ジグニが黙々と引いた。
ダレト:「ジグニさん、大丈夫ですか」
ジグニ:「大丈夫だ」
ダレト:「重くないですか」
ジグニ:「重い」
ダレト:「じゃあ大丈夫じゃない」
ジグニ:「重いけど大丈夫だ」
ダレト:「……どっちですか」
アッチ:(馬車の中から)
「ジグニ君、ありがとう。
後で何か作ってあげる」
ジグニ:「……何を作ってくれる」
アッチ:「何がほしい?」
ジグニ:「……考えておく」
山の向こうに、クロノスの神殿がある。
その前に、森の長と出会う。
全員がそれを、まだ知らなかった。
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建国プロジェクト:状況報告
第1部・遊牧民編 第12話終了時点
現在地:山岳地帯・クロノス神殿方面へ
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人員 :コア14名/総勢42名
資金 :銀貨10枚
食糧 :安定確保
移動力:工房馬車追加・ジグニが牽引
武器 :フォーヌ×アッチの共同開発が始まる
拠点 :移動中
新装備
懐中時計:完成
時間の概念がチームに生まれた
工房馬車:完成
移動しながら製作が可能になった
リュカの時空魔法
能力の正体が判明:時の精霊クロノスに関連
信のメモ:「クロノスの神殿へ急ぐ必要がある」
ミネルヴェの告白
クロノス神殿の存在を明かした
精霊狩り部隊が神殿方面へ向かっている
次のマイルストーン
→ 山を越える
→ クロノス神殿への到達
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第12話 終了
次話:「シカは道を知っている」




