第10話「ウマは止まれない」
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建国プロジェクト:状況報告
第10話開始時点
現在地:大草原・移動中
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人員 :コア12名/総勢28名
資金 :銀貨8枚
食糧 :安定確保
移動力:徒歩・限界に近い
安全度:警戒レベル最高
特別部隊が直接動くという情報
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大草原に出た。
見渡す限り、草が続いていた。隠れる場所がなかった。空が広すぎた。
シルト:(上空から降りてきて)
「前方に獣人が3人。
カルシアの小隊に追われています。
狼人2名・犬人1名。
小隊は15名。
このままではすぐに追いつかれます」
信:「助けに行きます」
ロガ:「当然だ」
ミネルヴェ:「待て。
小隊の隊長が馬に乗っている。
あの馬、よく見ろ」
信は目を細めた。
隊長の馬の首に、金属の輪が光っていた。
首輪だった。
信:「首輪ということは馬人ですか」
フォーヌ:「あれはドワーフのルーン魔術製の首輪だ。
馬形態に強制固定されているようだな」
信:「外す手立ては?」
フォーヌが腰のナイフを抜いた。
刃にルーン文字が刻まれていた。細かく、複雑に、美しく。
フォーヌ:「このナイフを使え、ルーン破壊を施している」
「ルーンはルーンで断つ」という、フォーヌだけが辿り着いた技術の結晶だった。
信:「ロガに!」
ロガ:(ナイフを受け取りながら)
「任せろ」
小隊との激突
信が全員に指示を出した。
信:「シルト、上空から戦況を報告し続けてくれ。
ロガ、正面から隊長の馬に向かってくれ。
ミネルヴェさん、敵の視界を。
ドミナス、混乱を。
ジグニ、騎兵を止めてくれ。
クラグル、後方で待機。
全員、今から動く」
草原を蹴って、全員が走り出した。
シルトが急上昇した。
翼を広げ、草原を俯瞰する。
シルト:(風の精霊に言葉を乗せて全員に)
「右翼から4名が迂回しようとしています。
中央の隊長は前進。
逃げている3人は北東・あと少しで追いつかれます」
情報が全員の耳に届いた。
見えない目が、戦場全体を見ていた。
ミネルヴェが上空で翼を広げた。
黒魔術の詠唱は声にならなかった。
ただ、空気が変わった。
敵の右翼4名が足を止めた。目の前に何かがいる、という感覚に囚われた。実際には何もいない。しかし体が動かなかった。
ミネルヴェ:(独り言のように)
「72年分の黒魔術だ。
存分に味わえ」
ドミナスが敵の左翼に向かって走った。
走りながら、精霊魔法を発動した。
幻惑の風が左翼の兵士たちを包んだ。
仲間の顔が、敵の顔に見えた。敵の顔が、仲間の顔に見えた。
左翼が混乱した。剣を向ける相手がわからなくなった。
ドミナス:(冷たく微笑みながら)
「5年間、騙し続けてきた。
これくらいお安い御用です」
ジグニが中央に向かって走った。
騎兵が突進してきた。
普通の者なら逃げる。
ジグニは逃げなかった。
馬の首に両手を回した。
止めた。
馬ごと、止めた。
騎兵が目を剥いた。
ジグニ:「……邪魔だ」
そのまま横に投げた。
馬と騎兵が宙を舞った。
ロガが隊長の馬に向かって一直線に走った。
馬が速かった。並の者なら避ける。
ロガは避けなかった。
正面から、馬の首に飛びついた。
隊長が落馬した。
一瞬の静止。
ロガがルーン斬りのナイフを抜いた。
馬人の首輪に当てた。
一気に力を込めた。
金属が、裂けた。
光が溢れた。
馬の姿が変わった。
2本足の人が、大草原に立った。
馬人の名はペイス。
長身。たてがみのような栗色の髪。大きく、深い目。
数年ぶりに、自分の意志で立った体だった。
ペイス:「……自由だ」
大きく息を吸った。
草原の風が、肺を満たした。
その時、ペイスが顔を上げた。
草原の向こうを見た。
牧場の方角だった。
ペイス:「仲間がいる。
まだ首輪をされた仲間が」
(信を見る)
「助けに行く」
信:「一緒に行きます」
ペイス:「……なぜお前が来る」
信:「あなただけじゃ首輪は切れない。
あの首輪を切れるナイフを仲間が持っている」
ペイス:「……そうか」
ペイスがケンタウロス形態に変化した。
4本の足が大地を踏みしめた。2本の腕が天を向いた。
そして、咆哮した。
草原が、震えた。
敵の馬たちが一斉に暴れ出した。
本能だった。
草原の王者の咆哮を聞いた馬たちが、制御を失った。
騎兵が次々と落馬した。
シルト:(上空から)
「敵の騎兵、全員落馬しました。
歩兵は混乱中。
今です」
信:「全員、一気に行くぞ」
ラギラブが走り出した。
小柄な体が、草原を縫うように動いた。
小刀が光った。
落馬して混乱している兵士の足元を狙った。立てなくした。殺さなかった。それで十分だった。
ラギラブ:「農奴が戦えるなんて
思ってなかったでしょう」
フォーヌが作った剣を手にしたロガが、残りの歩兵の正面に立った。
ルーン文字の刻まれた刃が、人間の鎧を貫いた。
ロガ:「フォーヌ、良い仕事だ」
フォーヌ:(遠くから)「当然だ」
後方ではクラグルが駆け回っているた。
負傷した仲間に手を当てた。光が溢れた。立ち上がれるようになった。
クラグル:「治ることは義務です。
倒れている暇はない」
リュカはその時、不思議な感覚の中にいた。
周囲の動きが、僅かに遅く見えた。
草が揺れる速度。兵士の足が地を蹴る瞬間。ロガの剣が弧を描く軌跡。
全部が、鮮明だった。
見える。全部が、見える。
リュカ:「信、右の兵士3人が
左に回り込もうとしてる。
今すぐジグニを右に」
信:「ジグニ、右」
ジグニ:「わかった」
ジグニが右に動いた。
3人の兵士がそこにいた。
ジグニが3人をまとめて掴んだ。
ジグニ:「……ちょうどいい数だ」
戦闘が終わった。
15名の小隊が、全員動けなくなっていた。
死者はいなかった。
隊長が部下に助けられて立ち上がった。
信たちを見た。
狼人。梟人。犬人。鴉人。狐人。熊人。猪人。馬人。羊人。栗鼠人。
そして人間一人。
隊長:「……多種族の、混成部隊」
動揺が顔に出た。
信:「お引き取りください。
追いかけてくるなら、また同じことになります」
隊長:「貴様は、人間か?」
信:「ええ」
隊長:「なぜ獣の味方をする!」
信:「なぜって、仲間ですから」
隊長は理解できないという表情となった。
信:「さあ、お引き取りを」
隊長が歯を食いしばった。
撤退を命じた。
馬人の解放
牧場に向かった。
ペイスの咆哮が先行した。
牧場の馬が暴れ出した。看守が対応に追われた。
その隙にロガが動いた。
ルーン斬りのナイフが、8本の首輪を次々と断ち切った。
光が8回、溢れた。
8人の馬人が、草原に立った。
馬人:「……自由に、なれるのか」
ペイス:「なれる。俺がなった」
馬人:「どこへ行けばいい」
信:「行き先は自分で決めていい。
一緒に来たいなら歓迎します」
8人全員が加入を選んだ。
逃げていた獣人の解放
追われていた狼人2名・犬人1名のところに戻った。
ロガが3人の首輪をナイフで切った。
狼人:「ありがとう。あんたたちが来てくれなければ俺たちは死んでいた」
ロガ:「礼は不要だ」
犬人:「俺たちはどうすれば」
ロガ:「来るなら歓迎する」
狼人:「行く場所もない」
ロガ:「ならちょうどいいな」
3人がロガ隊に加わった。
ナインホース
ペイスと8人の馬人が並んだ。
9頭が草原に立っていた。
信はその姿を見て、思わず呟いた。
信:「……俺がいた土地では
『万事馬九いく』という言葉があった」
ペイス:「どういう意味だ」
信:「9頭の馬がいれば万事うまくいく、
という意味だ。語呂合わせだけど」
ペイス:「……気に入った」
(9人を見渡す)
「ナインホース。それが俺たちの名前だ」
馬人たち:「……ナインホース」
馬車2台を牧場から確保した。
荷物を積んだ。老人と子どもが乗った。
移動を開始した。
速かった。
バーナデッド:「計算上、移動速度が3倍ほどになります」
ラギラブ:「食料の消費も計算し直さないと」
バーナデッド:「すでに計算中です」
ペイス:「遅い馬車は俺が引く。任せろ」
ジグニ:「頼もしいな」
シルト:(ペイスの隣を飛びながら)
「ロガさん、今日は饒舌でしたね」
ロガ:「うるさい」
その頃、撤退した小隊長が特殊部隊の長に報告をしていた。
隊長:「多種族の混成部隊です。
獣人だけではない。
人間が率いていました」
ガルディウス:「……人間が?」
隊長:「統率が取れた動きでした。
まるで各種族の特性を
組み合わせた戦術で」
ガルディウス:「…………」
(長い沈黙)
「危険の芽だな。
早期に殲滅する。
これを最優先任務とする」
隊長:「了解しました」
ガルディウス:「次は私が行く」
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建国プロジェクト:状況報告
第1部・遊牧民編 第10話終了時点
現在地:大草原・移動中
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人員 :コア12名/総勢37名
ナインホース(馬人9名)加入
ロガ隊に狼人2名・犬人1名加入
資金 :銀貨8枚
食糧 :安定確保・消費量増加
移動力:3倍に向上(馬車2台・ナインホース)
武器 :ルーン斬りのナイフが首輪解放の鍵に
ロガ隊の状況
狼人5名・犬人3名
隊として完全に機能
ナインホースの状況
隊長:ペイス
全員がケンタウロス形態での弓が使える
移動・物資輸送・騎馬戦の3役
リュカの能力
兆候が現れ始めた
信のメモ:「戦闘中に時の流れが
遅く見えたと言っていた。
能力発現が近い」
次のマイルストーン
→ 夜間偵察力の確保
→ 特殊部隊の追跡を振り切る
→ リュカの能力発現を注視
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第10話 終了
次話:「コウモリは見ている」




