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あたしには両親がいない。物心ついた時から組織の中で育ってきた。
だからあたしは、普通を知らない。あたしはずっと組織の中しか知らない。
あたしの人生は小さな部屋で完結していた。そこから出してもらえない生活だったから。
「適合する子供を、学院に取られることなくようやく手に入れることができた」
「国のため、お前には私たちの駒になってもらう」
大人からそうやって言われ続けて育った。とにかくあたしはすごい存在らしくて、組織がやりたいことのために必要な子供だったらしい。
組織の大人に勉強を教えてもらったけれど、それもあたしの教育のためじゃなく、組織の野望のためだった。
勉強する中で、あたしと同い年の子供たちは「学校」というところに通って、生活することを知った。
だからあたしもそれをしたいと望んだら、ひどく怒られた。怖くて、泣いて、謝って、何時間も怒鳴られ続けた。
ヒトには「家族」がいて、子供のうちは大きい大人のヒトと一緒に過ごすらしい。勉強を教えてもらうだけじゃなくて、遊びに連れて行ってもらったり、食事を一緒に取ったり、眠ったりもするらしい。
あたしもそれがしてみたかったから、近くの大人に言ってみたけど「恐れ多いです」とか「たかが駒が」とか言われて、誰も叶えてくれなかった。
学校では習わないんだろうなっていう、よく分からない複雑な勉強もさせられた。難しくて、分からないと泣いたらまた怒られた。
あたしは一人だった。ずっとずっと一人だった。
あたしが七歳になった頃、男の子が一人やってきた。
「また検査ミスか。あいつと同じように」
「些細なミスだったらしい。北陸の施設で見つけた時は驚いたよ」
「天が我らに味方している」
男の子はあたしの二つ下の年齢なんだって言ってた。小さな男の子はあたしと同じように、元々養護施設というところにいたらしいんだけど、あたしとおんなじ特別だったから、組織が攫ってきたらしい。男の子は、いきなりこんなところに連れてこられて、泣いていた。
泣いていたら、組織の人たちが更に怒鳴って、男の子を叱ったから、あたしは男の子を抱きしめた。あたしが怒られる羽目になったけど、あたしは怒鳴られ慣れてるからへっちゃらだ。
「お姉ちゃん、だあれ」
「だれ?」
「お名前、なんていうの?」
泣き腫らした目で男の子に聞かれて、あたしは困ってしまった。勉強の合間に読ませてもらっていた小説や、組織の人たちも、みんな「名前」を持っているけど、あたしには無い。それについて特に疑問を抱いたことなんてなかった。
「ええと、キミはなんて名前なの?」
「僕、僕は……」
男の子が名前を名乗ろうとした時、組織の大人が急に叫んだ。
「その名前は捨てろ。今日からお前たちは本格的に俺たちの野望のために生きてもらう」
あたしと男の子は、名前をもらった。
あたしは「ハイジ」。男の子は「クララ」。




