19段目 4層目と5層目の間
俺達が4層を踏破した事で、学園は元へと戻った。
だが問題は大きく、様々な波紋が広がった。
まず警察の対応として、学園からアンデッドが出そうになっていた事から
威嚇射撃を念入りに行った上での射撃、と言う名の半ば射殺行為。
実際、撃たれた生徒や教師達は俺達が4層の踏破と同時に
元の姿へと戻っていき、警察も自分達が撃った相手が人である事に気が付いた。
即座に救急搬送され、全員が生きている事が解るも
その全員が意識不明。
銃弾などは体内に残っていない上に、動きを止める為に撃たれた場所が
主に太もも等、足であった事から傷自体は手術によって塞がれたものの
原因不明のまま、意識が戻らないという状態だと発表があった。
それをマスコミも映像に収めていた事から問題が大きくなった。
警察が撃った際の状況を鑑みれば、どうみてもゾンビや骨にしか見えなかった事。
全てが足を狙った事もあり、警察は非難の対象にはならなかったが
問題は学園そのものの方だ。
呪われた学園。
そんな見出しで煽るマスコミも居る中、同じような光景が起きるのではと
連日マスコミが詰めかけている。
それによって違法駐車や道路上での喫煙、ゴミの不法投棄など
様々な住民からのクレームが区と学園に入る上に
学園は全寮制である事から、転校する者達も出始めた。
マスコミが大きく報じ、それがニュース等で流れた事で
親類縁者が心配し、転校させたりするケースや
生徒が自ら転校を申し出るケースなどが発生していた。
さらにはマスコミが学園内に無断で侵入したり
校庭などはカメラを構えたマスコミが大挙していた。
「あれ、どうみてもただの盗撮にも見えるよな……。」
「まぁ、またすぐに来るだろう?」
それに警察が出動。
流石に体育の授業に対して、いくら共学校とは言え
張り付くようにカメラを構え、撮影するのは如何なものだろうか。
ただ、実際にその中にはどう見ても盗撮紛いな写真もあったらしく
そのまま起訴になったケースもあるとか。
後々、それは裁判にまで発展し
某傍聴が趣味な方によると、女子生徒の胸や尻にとんでもなく寄った写真や
男子生徒の股間にとんでもなく寄った写真などから
到底これは裁判官も否定出来ず、執行猶予付きの有罪になったケースも
あった程だというのだから、呆れる他無かった。
ただ、マスコミが張り付いている事から学園から出る生徒はほぼおらず
マスコミは隙をついては学校内に侵入と問題も多く
警察も学園への介入を検討していたらしい。
そして事件がまた発生した。
今度は転校した生徒が行方不明になるという問題だ。
転校を既に決めていた生徒がトイレや授業中に消えるなどと言う
事件まで発生し、転校したくも出来ない生徒から
それによって転校を取り止めた生徒が出るなど
最早学園は本当に呪われているのでは、とマスコミが更に銘を打って
自信満々に報道した事もあり、ついに警察が本格的に介入する事となった。
それは学園が監視社会へと変わると言う事だった。
警察官が適宜配置される事は当然ながらも、それ以上に監視カメラの数が増え
ほぼ死角が無くなる位にまでの増設が為された。
流石に学園長もそれには抵抗したらしい。
個人のプライバシーなどの問題に対してだったが
事件性の重さを保護者に説明出来るかどうか、の部分で折れる事となり
北城学園は全寮制の監視社会へと生まれ変わってしまった。
そして事件は続いた。
ついに寮の中で行方不明となる生徒が出たのだった。
そして警察はそれにいち早く気が付いた。
俺達はそもそも嫌な予感がしていて「ゴッドライン」で
神に質問をしてみたが、実際監視カメラは寮にすらついている上に
2人1組の筈の個室にすら秘密に付けられていた事を知っていた。
だからこそ、4層踏破後に警察の介入があってからは
お互い教室でただ雑談をする位に留めていて
何かあれば「ゴッドライン」の中だけで話し合い
決して不審に思われないように努めていた。
そして事件はまだまだ続く。
寮の中での行方不明が続々と続いていったのだ。
そしてついにどこから漏れたのか。
マスコミが警察が寮、そして個室にまで監視カメラをつけ
その全てを把握している事を突き止めたのだった。
警察の信用は一気に地に落ち、それによって寮と
個室内の監視カメラの全てが撤去された。
理由はその行方不明のなり方だ。
一瞬にして消えていて、何者かに誘拐された訳でも無く消えていた。
なら監視カメラ等無くとも消えるのでは、と言われればそれまでだった。
だがそれは同時に学園の評判も地に落ちる事でもあった。
一瞬にして消える不可思議な事件。
それが連続して起こる学園など、普通に考えれば
マスコミではないが、呪われていると考えておかしくない。
保護者らは自らの子供を連れ帰る為に学園へとやってくる日が
連日続く事となった。
ダンジョンはこれを待っていたのかもしれない。
最も保護者が押し寄せた土曜日。
ついにこれまでを超える事件が発生した。
学園中のありとあらゆる鏡から、真っ黒な手が現れ、伸び。
生徒や教師達だけではなく、学園内を警戒していた警察官。
さらには保護者、そして忍び込んでいたマスコミですら
その真っ黒な手に捕まり、鏡の中に引き摺り込まれていったのだった。
但しそれは全員では無かった。
俺達は「ゴッドライン」で条件を知ったが
詰めかけた際にカメラなどで撮影していた保護者や生徒。
また対応の映像を残す為にカメラを構えていた教師に
ボディカメラを特別に付けていた警察官。
マスコミもカメラマンだけが引き摺り込まれていたのだった。
そしてその状況を撮影しよう、とスマホのカメラを構えた生徒も
犠牲者となったのだった。
それらをしなかった生徒、教師、警察官にマスコミの人々は
それに捕まる事も無く、引き摺り込まれる事も無かったというものだ。
しかも学園内の監視カメラの映像を確認する部屋が
用意されていたのだがそこに詰めていた警察の人々も引き摺り込まれていた。
この真っ黒な手の犯行は、俺達の目の前でも起こった出来事ではあり
到底許せるものではなかった。
だが、ここに2つ朗報となる事もあった。
まず神からはこれがダンジョン、早くも5層目によるものだと言う情報。
そして監視カメラ映像を確認する者達が居ない為に
今であればその録画だけとなる為、南海の能力で阻害しても
そこに警察官などが押し寄せたり等の心配が無い事だった。