怒り上戸と笑い上戸
お気に入り登録数が60件超えてました~。アクセス数もとんでもないことに・・・。作者は冷や汗かきまくりまです。でもありがとうございます。
みーちゃんが拾ってきた男性をなんとか小屋の中まで運んだ。
10代の女の子が成人男性を運ぶのは相当きつい。どうにかこうにか苦労しながら泥だらけの服を脱がせ、適当なものに着替えさせ、ベッドに運んだ。
男性はただ衰弱しているだけのようで、熱や外傷などは特になかった。なにか食事をさせたかったが、起きる気配がなかったので、毛布をかけて寝かせて様子をみることにした。みーちゃんとすっかり冷めてしまった夕食を食べ、今夜はふたりくっついて床に敷いた布の上で寝ることにした。もこもこしていて、とても暖かかった。
翌朝、バッタン!という派手な物音で目が覚めた。寝ぼけながら辺りを見まわすと、ベッドの下に男性が寝転がって、頭をおさえて呻いている光景が目に入った。一瞬、誰だ?と不審に思ったが、すぐさま昨日のできごとを思い出し、すぐに調理場へむかった。
すっかり馴れた手順で火をつけ、昨日のうちに作っておいたスープを温める。あの赤に白の水玉のキノピ・・・キノコで出汁をとったスープだ。危ない危ない。ハァイ♪って陽気な声をだす人(?)から出汁をとっちゃうのはダメだ。
湯気がたっているスープにスプーンを添えてベッドを振り返ると、男性とみーちゃんが何やらじゃれあっていた。
・・・・・・うらやましいな。なんて思わないでもないが、そんな嫉妬をしている場合ではない。衰弱しているっていうのに、そんな暴れたら本気で倒れる。
テーブルにいったんスープを置いたあと、男性を無理やりベッドに座らせた。ふらふらとしている男性はわたしでも簡単に動かせた。ものすごく戸惑った顔をしてなにか言葉を発しようとしていたが、喉が渇いているせいで言葉が出ないらしい。かまわずテーブルに置いておいたスープを突き出した。
しばらく逡巡していたが、わたしがもう一度スープを突き出すと空腹とスープのにおいに耐え切れなくなったのか、奪うように容器を手に取った。スプーンもつかわず、ものすごい勢いでスープをがぶ飲みした。そして、勢いあまったせいで咽てしまった。兄貴が大学のサークルの飲み会の度につぶれて帰ってきては同じことをしていたのを思い出して、あきれながらも背中をさすってあげた。
落ち着いたのか、男性は涙目で息も絶え絶えに何か言葉を発した。
「 」
「はい?」
実は言葉が通じるとか、そんな都合のいいことはなかったらしい。
まあ、当然といえば、当然かもしれない。見たところ白人だし、頭が桃色だし。
決して変な意味の桃色ではない。髪の色がかわいらしい桃色なのだ。こんな髪色、テレビで紹介される外人さんたちの中でも見たことない。ついつい珍しくてジロジロとながめてしまった。
それが気に障ったのか、今度は目を吊り上げて怒鳴りだした。
不快にさせてしまったのかもしれない。
「 !」
「えーと? すみません、わからないです。でも不快にさせたなら、ごめんなさい」
「 !?」
頭をさげて謝ると、今度は困惑された。とりあえず、怒りはひいたらしい。
改めて観察すると、わたしより5、6才くらい年上に見えた。でも白人さんって大人っぽいっていうから、もしかしたらもっと近いのかもしれない。
落ち着いたところで、自己紹介をする。といっても言葉がわからないので、自分を指差して名前を言うだけだ。
「緒生。緒生と申します」
「オミ?」
「そうそう、緒生。こっちがみーちゃん。ね、みーちゃん」
みーちゃんがなぉんと答える。男性はなにか恐ろしいものを見たような表情をしている。たしかにみーちゃんは大きい。牙もだいぶ鋭くなったし。
怖くないよーというのをアピールするため、みーちゃんの喉をなでてみせた。ごろごろと喉が鳴る。かわいい。ゴロンと寝転がったので、お腹もなでてあげる。もっふもふである。
いやーん、かわいい。
ついついみーちゃんと2人だけの世界に入りかけたが、男性がゴホンと咳払いしたことで我に返った。男性はなんともいえない表情で目をすがめている。わたしが居心地悪くうつむくと、やがてため息をついてこちらに向き直った。
男性はわたしの目を見つめながら、自分を指差した。そしてゆっくりと口を開く。
「リック」
「リック?」
そうだと言うように頷いている。きっとこの男性自信の名前だ。そうか、リックか!
「リック!リックさんですね!!」
久しぶりすぎる人との会話に感動して、両手でリックの手を握り締め、満面の笑みでぶんぶんと振り回した。
あのあと、新たに3人分の朝食をつくった。リックさんの食事はなるべく消化によさそうなものにした。ベッドから起き上がろうとするのを必死でとどめ、みーちゃんに見張りを頼んで調理場に向かった。
「リックさん、朝ごはんです」
リックさんはベッドに横に座り、軽く会釈をしながらお礼らしきことを言って容器とスプーンを受け取った。
そこから離れて小さなテーブルに自分の、床に敷いた大きな葉っぱの上にみーちゃん用の朝食をおく。そして両手を合わせて食事のあいさつをした。
「いただきます」
「なー」
みーちゃんが続いてひとつ鳴いてから、食事に手をつけた。リックさんも警戒心が薄れたのか、おとなしくスープをすすりはじめた。
「ごちそうさまー」
「なうん」
食事を終え、食器を片付ける。リックさんも素直に食器をわたしてくれた。それを玄関のそばにある桶の中へ丁寧に入れる。
さて、ここからが問題だ。この食器を洗うためには水を使わなければならない。いつも泉の近くで洗うのだ。
つまり、小屋の中にリックさんをひとり残さなければならない。物色されても金目のものは一切ない。でも病み上がりのリックさんを放っておくわけにもいかない。こんな状態でまた歩き回ったら今度こそ倒れてしまう。
今日はみーちゃんに留守番を頼んで、リックさんを見張ってもらおう。
「みーちゃん、食器洗ってくるからお留守番よろしく。リックさんが動きまわらないように見張っといてね」
「なおう!」
みーちゃんはいい返事をしてびしりと姿勢を正した。リックさんに「それじゃあ」と声をかけ、食器の入った桶をもって小屋を出た。リックさんがこちらをジッと見ていたので、心配要りませんよという意味をこめて微笑んだ。
その後も小屋と外を往復しつつ、家事と畑仕事と看病をこなしていった。家に戻るたびにリックさんが起き上がろうとするのをみーちゃんとふたりがかりで押さえた。
昼食もリックさんの分は消化のいいものにし、みーちゃんと3人で食べた。リックさんはなんだか不満そうな顔をしていた。
それにしても、まだ収穫の時期じゃなくてよかった。収穫となると、ほぼ1日を畑で過ごさなければならなくなる。そして重労働だ。機械なんてものはないので、腰をかがめて手作業で収穫することになるのだが、これがとてもきつい。収穫の直後は動けず、ずっとベッドにぐったりということもある。
でもおいしい野菜を作ることはやめられない。みーちゃんががつがつと食事をする姿が大好きだ。食後に幸せそうにまどろむみーちゃんが愛しくてたまらない。誰かがおいしいと言ってくれるだけで、疲れなんて飛んでしまう。
リックさんは無表情で食べていたけど、どうだったんだろうか。完食はしてくれたけど、もしかしたらお腹が空きすぎて味とか気にしていなかったのかも。もしかしたら、まずかったのかもしれない。ここにきてからわたしの料理なんて食べてたの、みーちゃんだけだし。こっちの人に味があってなかったらどうしよう!
ひとつ心配になると、どんどんと心配になる。リックさんは初めて会った人だし、仲良くしたい。でも言葉わからないし。
畑に水をまきながら、うだうだと悩む。こちらの悩みなど露知らず、ジャガイモの花はかわいらしく実っている。かわいらしいといえば、リックさんの髪の毛だ。あの薄い桃色ピンク。
顔は割りとイケメンなのに。しかし不思議と似合っている。やっぱり生まれつきだからかなー。わたしがあんな髪色にしたら絶対に変になるし。違和感のかたまりだよ。
ふと桃色ファンタジーな歌を思い出した。小学生のときよく友達と踊ったなぁ。
リックさんがこれ歌ってたら・・・・・・踊ってたりしたら・・・・・・
「ぶっ!」
やばい、想像したら笑えてきた。
その後もなかなか笑いがおさまらず、水まきをしながら一人で笑っていた。なんとか笑いがおさまって、作業道具を片付ける。
そして、小屋に戻ってリックさんを見るなりなり、また笑いがぶり返してきた。リックさんはいぶかしげな表情をして、わたしに何か怒鳴っていたが、わたしは気にする余裕もなくヒーヒー言っていた。
みーちゃんが心配げに顔をすり寄せるのを見て、ようやく我に返った。
夕食を作り終わり、食事をするリックさんを観察したかったが、再びリックさんを見ると笑ってしまいそうだった。今度こそ窒息してしまいそうだったので、目を合わせないようにうつむいて食べた。それでもまだ肩がひくひくと震えた。
このままじゃリックさんのキャラがつかめないので、それはかわいそうな気もするので、次回はリックさん視点にしますね。
そしてバイトがあるので、更新は来週になるかもしれません。




