第五章:新たな臓器の交響曲(シンフォニー)
#犬神医師の解剖学的愛着律 #サイコパス外科医 #禁断の愛 #メディカルホラー#医療グロ
「知能とは、使い道を知らぬ者にとっては呪いだ、蓮。だが芸術家の手にかかれば、君の脳は朱里の欠損を補完するための完璧な楽器となる」
奥多摩の地下実験室の空気は、今や凄惨な医療崇拝の祭壇と化していた。私は二台のオペ台を並列に配置した。左側には朱里、右側にはいまだ脈打つ蓮の残骸。電気メスから発せられるオゾンの臭いが、蓮の剥き出しの胸腔から漂う濃厚な鉄の匂いと混ざり合う。
この一歩こそが、私の狂気の頂点――「大脳皮質断片移植」だ。
脳を丸ごと移し替えるようなことはしない。それは朱里の生存にとってリスクが高すぎるからだ。私は蓮の脳から、論理と記憶の象徴である前頭葉と海馬の特定の部位だけを採取し、朱里の神経系に移植する。
まずは蓮からだ。専用の骨穿孔機を使い、彼の頭蓋に穴を開ける。
――ドリュリュリュ……。
透明な脳脊髄液(CSF)が溢れ出し、温かい鮮血と混ざり合う。蓮の頭蓋の蓋を持ち上げると、光り輝く硬膜が露わになった。その下で、蓮の脳は荒々しいリズムで脈動している。彼はまだ意識がある。見開かれた瞳は、筆舌に尽くしがたい恐怖と共に私のすべての一挙手一投足を追っていた。彼は頭蓋内の圧力を感じているはずだが、声を出すことはできない。
「落ち着け、蓮。君がもう必要としないものを、私が引き取るだけだ」
私はマイクロメスを使い、灰白質の層を切り裂きながら囁く。
蓮の前頭前野から、コインほどの大きさの脳組織断片を切り出した。それは非常に繊細な豆腐のように柔らかいが、その中には刑事としての数千の演繹アルゴリズムが保存されている。私は即座にそれを、神経細胞の生存を維持するために冷却したリンゲル液に浸した。
次は、朱里の番だ。
彼女の清廉な白い頭皮に残る古い切開線を再び開く。全く同じ位置にドリルで穴を開けた。彼女の脳組織に触れた瞬間、私はそれを感じた――魂の共鳴を。私は朱里の脳に微小な切開を加え、蓮の脳断片のための「空間」を作り出した。
「朱里、君はとても聡明になる。私と同じように、この世界の嘘を見抜けるようになるんだ」
神経吻合が始まった。手術用顕微鏡を覗き込み、人間の髪の毛よりも細い10-0ナイロン糸を使って、直径1ミリ以下の毛細血管を縫い合わせていく。
一つひとつ、シナプスを強制的に接触させていく。銀電極を通して低用量の電気刺激を与えた。
――バチッ。
朱里の肢体が大きく跳ね上がった。脳波モニター(EEG)は不自然なガンマ波の急上昇を示している。同時に、隣の台の蓮の肉体が大発作を起こした。眼球は白目を剥いて反転し、口からは血混じりの泡が溢れ出す。蓮の脳が「機能的な死」を迎える一方で、彼の一部は妹の頭の中で再び命を吹き込まれていた。
「見ろ! この統合を!」
私は喉の奥で笑いを噛み殺しながら叫んだ。
私は蓮からもう一つのパーツを奪った。彼の「目」だ。朱里には狩人の目を持ってほしい。眼球摘出鉗子を使い、蓮の視神経を断ち切った。
――グチャッ。
嫌悪を催す音と共に、眼球が眼窩から溢れ出した。私は即座に蓮の角膜と水晶体を、切開しておいた朱里の左目へと移植した。極めて緻密な連続縫合で角膜組織を繋ぎ合わせる。
今や朱里は、自分本来の虚ろな瞳と、白磁の肉体に宿る「生きた」鋭い刑事の瞳を併せ持つ存在となった。
蓮はついに屈した。主要な臓器を一つひとつ剥ぎ取られ、彼の心臓は停止した(心静止/アシストール)。彼は人間として死んだのではない。価値をすべて絞り取られた医療廃棄物の山として終わったのだ。
私は、一つの頭の中に二つの記憶を宿した朱里の額に口づけをした。
「おかえり、私の最高傑作。これで君は私の血だけでなく、私たちを引き裂こうとした男の知性をも手に入れたんだ」
外では雪嵐が止み、不気味な静寂が訪れていた。この家の中に、新たな「個体」が誕生したのだ。




