第三章:壁の裏のコレクション
#犬神医師の解剖学的愛着律 #サイコパス外科医 #禁断の愛 #メディカルホラー#医療グロ
蓮が何かを嗅ぎつけたのは間違いではなかった。だが、彼があまりにもうぶだったのは、その匂いが単なる衛生管理の不備などではなく、私が長年かけて収集してきた生きた「図書室」であることを理解できなかった点だ。
地下室の扉を内側から固く施錠すると、私はすぐに朱里のオペ台へは戻らなかった。天井まで届く黒いガラス張りの戸棚に覆われた東側の壁へと歩み寄る。生体認証で一度触れると、ガラスパネルがスライドし、私が『犬神博物館』と呼んでいる空間が姿を現した。
そこには、ホルマリンとグリセリン溶液を満たしたホウケイ酸ガラスの瓶の中に、私たちの家族の歴史の欠片が整然と並べられていた。
指が永久に屈曲したままの一対の手――父の手だ。朱里の顔を殴りつけていた時のあの手の俊敏さを、私は今でも覚えている。今やその手は、尺骨神経の完璧な分布を示すための単なる解剖学的標本に過ぎない。別の瓶には、母の喉頭と声帯の切り抜きがある。彼女は生前、叫びすぎた。だから私は彼女が息を絶やす前に、喉頭全摘出術を施し、永遠の静寂を見つける手助けをしてあげたのだ。
「見てごらん、朱里」
私は筋肉組織がわずかに残る肋骨の断片が入った瓶を抱え、彼女の傍らに歩み寄った。
「これが、君がもう誰も恐れる必要がない理由だ。彼らは断片化され、今や単なる医学的データになったのだから」
朱里の側へ戻る。ベクロニウムの効果がわずかに薄れ始めたのか、彼女の薬指の先に微かな震え(トレモル)が見て取れた。骨切り術の最中に彼女の意識が完全に覚醒してしまう前に、迅速に作業を進めなければならない。
「さあ、この新しい『コレクション』を君に装着してあげよう」
前の章で朱里の脚から切り出した大腿骨の断片を手に取る。だが、私はそれをただ保存したいわけではない。異種移植――組織の結合を行いたいのだ。私は滅菌し、再石灰化した父の下顎骨の断片を取り出した。
「父さんの骨を君の脚の中に統合するよ、朱里。そうすれば、君が一歩踏み出すたびに、彼を踏みつけることができる。詩的だと思わないかい?」
高速サージカルドリルを使い、朱里の大腿骨に穴を開け始める。『キィィィン』という甲高い音が室内に響き渡り、死の白粉のような細かい骨粉が舞い上がる。再び焼けたカルシウムの匂いが立ち込めた。先ほど蓮が顔を顰めた、あの匂いだ。
父の骨の断片を通し、朱里の骨髄へとチタン製のスクリューを打ち込んでいく。
――ググッ。ググッ。ググッ。
外科用ドライバーが回転するたびに、麻痺した朱里の肉体が自律的に反応した。彼女の瞳孔は虹彩を覆い尽くさんばかりに散大している(散瞳/マイドリアシス)。彼女は今、言葉では言い表せない感覚的苦痛の頂点にいた。
「もう少しの辛抱だよ、愛しい人。この骨統合が、君を唯一無二の存在にする。自分の骨格の中に、敵の残骸を宿した唯一の人間になるんだ」
突如、器具テーブルの上のスマートフォンが震えた。蓮からの短いメッセージだ。
『江戸さん、言い忘れていました。警察のアーカイブで朱里ちゃんの古いカルテを見つけたんです。そこに記載されている血液型と、さっきのあなたの話……何かがおかしい。明日の朝、許可証を持って伺います』
私は手を止めた。骨髄にまみれた鉗子を握る手が空中で静止する。
蓮は深く掘り下げすぎた。医学的倫理とやらで遊びたいのか? いいだろう。
凍りついた痛みで瞳を潤ませている朱里を見つめる。「明日は新しいコレクションが増えそうだね、朱里。あの若い刑事の頭蓋構造は、非常に興味深い研究対象になるはずだ」
頬に飛び散った一滴の血を舐めとる。塩辛く、温かい。それは普通の食事では決して満たされることのない、飢餓感を呼び覚ます味だった。
その夜、私は眠らなかった。新しいメスのセットを研ぎながら、蓮のどの部位が、母の喉頭の隣に並べるのに最も相応しいかを想像して過ごした。




