EX.1 現在の神々と、元生贄の日常
上層では、教皇から民衆に伝えられた。
100年後、塔は宇宙へ向かうということを。
「教皇ちゃんに神の啓示と称してチョチョっとね」
「えぇ……」
そもそも神殿のトップをちゃん付けとは。神だから何もおかしくはないが、20代程度のシエラが砕けた口調をしていると、どうしても違和感が拭えない。
「でも教皇ちゃん。ミハエルが消えたからかな。素直に聞いてくれて。意外と上層の民も変わらない対応みたい。100年も後なんて、実感湧かないみたいだね」
「それでいいのか」
後で焦らないだろうな。といっても、敏明も実感がない。
ともあれ、欠伸を噛み殺す。
美菜は上層へと帰還した。敏明も拠点である水道事務所に帰ってきた……ものの、どうにも寝不足である。
「人みたいな存在がいると落ち着かない? 私ら神だから、今までと変わんないでしょ?」
「そりゃそうだけど……」
シエラが敏明の思考を読む。
いざ人型になると、意識してしまうものだ。別に長話をしているわけでもないのだが、今までが静かすぎた分、やはり意識してしまうのだろう。
というか。
◆
敏明は、扉を開けた。
自らの部屋の奥。閉ざされていた神の間。
今までは恐ろしくて堪らない存在だったが、今や長話神と陽気神コンビである。
生贄から解放されたといえど、いくら彼らの業で縛られていたといえど。敏明の部屋の奥の場所で、存在として実体化しているのだ、全くの素知らぬ態度ではいけない。
一日に一回くらい、顔を合わせ。「元気か」「元気だ」「そうか、だったら良かった。おやすみ」とか言い合う程度で。
と言ったことを話すと、神は哄笑した。
「ふはは! その心がけは大変良い! そこに座れ、生贄。星の歴史を聞かせてやろう!」
「いや別に良いんだが」
元気ならそれで良い。大変良い。だから一言くらいで帰らせてくれ。と思ったが。
立ち長話を聞き流していると、神の背丈が低いことに気付く。透き通るような青く長い髪。白い衣。自分の身長は知らないものの、敏明よりかなり低い。美菜と少ししか変わらない。恐らく160cm程度だろうか。
「外観を気にしているのか。現在の一般男性よりは低いと思っている。だが、コミュニケーション用のインターフェースに背丈は必要ないものだ」
威厳がな……と思った途端。
アーシュスの背が190cmくらいに伸びた。シュンッと伸びた。
驚きに言葉もない敏明を見下ろし、再び大笑する。
「ふはは! これが「ノッポ」という背丈か! 生贄を見下ろすのも良いな! 気が良いものだ、なぜなら(以下略)」
……可変系か!
盛大に物理的な上から目線で、もはや恒例となった長話を聞き流しながら思う。
思えばコミュ用といえど、神なのだ。身長という骨と肉でできた枷など、容易く突破してみせるのだ。かといって、このインターフェースとやらの外見が何で出来ているかは全く知らないが。神という訳のわからん存在が関わっているから、考えても不明だろう。
更に言うと、こいつも敏明の思考を読んでいる。
また、敏明は「神達が長い間閉じ込められてきたから、こいつは饒舌なんだ」と推測しているが、実際はこの存在、解放されて数百年経ってもおしゃべりなままである。知る由もないことだが。
単におしゃべりが好きなのだ!
……といった長話に付き合わされ。ちなみに背丈はさんざん歴史とやらを語った後、「気は済んだ。やはりいつものものが愛着があるか」といってシュンっと縮んだ。
かと思えば。
次の日訪れると、アーシュスは塔の根元に当たる部分で目を閉じていた。敏明の視線に気付いたシエラが言う。
「あ、彼、スリープモードに入ってるんだ。基幹システムだから、塔とはあんまり離れられないし、動力を無為に使うのも良くないって話で。マジメだよね。でも、彼にやってもらうこと、今はあんまり無いからなぁ」
そして。こちらを神妙に見た。言葉を溜める。何かあったのだろうか。
「アーシュスくんの寝てる姿。すっっっっっごく!!!!! カワイイでしょ!?」
「かわっ……!?」
そんな単語、こいつに似合うのか!? この顔が怖い奴に!?
しかして、初対面で男か女か分からなかった。そも、声で男性神格だと思っているだけで、実際は神に性差などないのだろう、と思ったがそれにしてもカワイイとは!?
彼女は目を輝かせている。本気でカワイイと思っている姿だ。
「私? 寝る必要ないよー。空の化身だから、地球と違って眠る必要は無いの。それに現世、めっっっちゃ楽しいし!!! 巫女ちゃん達カワイイし、たくさんお喋りできるわけで!」
そんな笑顔を見ると「やっぱり気になるから別の場所に移って欲しい」なんて、言えなくなるわけで。
「もし迷惑じゃなかったら、敏明くんのこともたくさん聞かせて! 生贄生活で華がないって思ってるだろうけど、人間の生態って、神にはどんなものも大好物エピだから!」
と言われると……!
さらに。
「敏明様、ちょっと部屋の中通りますね」
「私もー」
「某もー」
「……」
ウジャムンガ教の巫女も、しょっちゅう出入りする。そりゃそうだ、敏明の部屋の奥が、神の間なのだから。
敏明は! 眠れないのだ!
こんな中で眠れる奴はあの酒飲み巫女しかいない!
◆
(……そーんなことで寝不足になっちゃ、美菜っちと暮らし始めたらどうなるか……って、そこのお説教はダメだよねっ。美菜ちゃんのプロポーズは、2人だけのひみつなのでした~!)
「そんな敏明くんに、とっておきのニュースがあるよ!」
「ニュース?」
言うなり、シエラは端末を見せた。
『お兄さん見えてる? やっほー、優祈美菜でーす!』
美菜からの通信だった。
『お兄さんに小旅行! エナさんと一緒の旅行だよー!』
「……旅行?」




