あなたが隣にいてくれたから
敏明達は、再び水道管の奥に来た。
変わらず神達はそこにいた。違うことは天井が復活していること、側に樫木がいることくらいだ。あれだけの事件があったのに、3日くらいでは部屋しか変わらなかったのが神らしい。
ウジャムンガの巫女は、樫木と美菜を呼んでどこかに行った。待っている間、ふと呟いたのは、アーシュスだった。
「生贄には『我々は叶えられる』。そう呼びかけただろう」
「……いつだったっけ」
知っていた。だが、敢えてはぐらかした。
上から土管が落ちてきた。
潰す気か!
なんとか避けた敏明を気にせず、神は続ける。
「あの時の我らは歪んでいた。恨み、憤り、恨むまま、あの地の底にいた。……一人でいい。誰かが、来て欲しかった。そう、記録している」
……きっと、寂しかったのか。
神は神でも、同じく存在なのだから。
「対話用インターフェースの身でしか伝えられないが。それでも少し引いた」
「引いた……」
ドン引きされていた。
「神殿の強行があったとはいえ、怨嗟の神となった我らの生贄になる者など。その上、暴れることなく側にいる。これはどうしたことだ、と一部は騒いだ」
「……」
騒がれていたのか。敏明としては、何もする気がなく、ただ床に転がっていただけだが。
それでも、神達にとっては嬉しかったのだろう。一部はそれでも祟り神だっただろうが、そうではない神達にとっては。
「貴様は何もしなかったと思っているが、それだけで良い。それで良い。斑目敏明。水は湧き、神はあるべき処に向かう。……お前は任を解かれた。どこへなりとも向かうが良い」
「……っ!」
急に言われると、やはり心の準備がない。けれど、神の視線は真実だった。
「そして、神話を紡いで大成しろ」
えらく具体的な未来を言われた。……そういえば、出会ったばかりの美菜からも、似たようなことを言われたような。……口約束だったが、どうなったのだろうか。
「ではな。もう出会うことはない。アーシュス・アル・ソトファはこの事件のために創られた対話用インターフェース。この一件が終われば、アーシュスは同じく任を解かれる」
「解かれて……どうなるんだ」
「神達の一部に戻るか。消滅とは言わん。言えば騒ぎそうな奴を知っている。お前達だ。優祈美菜。斑目敏明。喧しいことこの上ないが。……インターフェースにとって、本来は消滅する未来だ。だが、目の前の生贄共が納得してくれない。であれば、なんとかかんとかやっていくしかないだろう」
「……じゃあ、最後に。俺からも言いたいことがある」
「100文字以内で言ってみせよ」
「勝手に文字数制限するな」
とはいえ、敏明の伝えたいこともシンプルなのだが。
「お前のおかげで、美菜に出会えた。
……ありがとう」
神に礼を言う。
……何かが、満たされた気がした。
アーシュスは驚いた顔をしている。インターフェースを通じて、無数の精神に伝わっていく。
神達は、初めて笑った、そんな気がした。
◆
「「ふふー、人間に礼を言われちったぞ。これは幾万年語り継ぐべきコト!」って、みんな思ってるだろうなー!」
ウジャムンガの巫女は楽しく呟く。
「……さあ、あとは最後の仕上げ。
塔を、宇宙に飛ばしましょうか」
時は、少し前に戻る。
「創世教の神託がありました」
樫木は、創世教に遣わしていたウジャムンガ教のスパイ、浅葱からの連絡文を読んだ。
「創世神は上層の支配を止め、海へと下るようです。塔という狭い地域で信仰されているより、海という広い地域に行った方が良い、と浅葱は推測していますが」
「元は迫害から逃れられた神達だったもんね。塔とはそんなに関わりがないから、海に行くのかー。そりゃ広いよな」
「はい。塔の壁などに使われている神力はそのまま。神本体と完全に別物のため、遠く離れても機能するのだとか。地上の神がものすごい衝撃を受けた影響、とのことです」
報告を終えると、樫木は静かに言った。
「そして、そろそろ正体を現してもいいんではないんですか? シエラ様」
「そっかー、そろそろか、樫木ちゃん」
ウジャムンガの巫女……改め、空の神……シエラは鷹揚に頷いた。
「……でも、すごいことだよね。酒巫女が、世界を変えてみせた、と……」
怨嗟を断ち切るのは、第三者でなければならない。……やや切り離せない関係者ではあるが、それでも優祈美菜はただの一般巫女だったはず。
ビール、もとい御神酒を飲む、あの時までは。
「……それを見越して、わたくしを派遣したと」
「いんや全然」
「えぇ……」
返答はあっさりだった。
「ホントの偶然だよ、ホントに。……さ、因果関係を推測するのはここまでにして、敏明くん達に塔の後始末を伝えに行かなくちゃ。きっとみんな、びっくりするぞ!」




