酒飲み巫女は未来を夢見る
後日。
敏明と美菜は、再び下層に来ていた。今回は便利屋である弥勒が手配した。彼女曰く、割と簡単だったらしい。
理由はなんとなく察しが付いたが、巫女サーの面々には言わなかった。神達から呼ばれているからに違いない。神力でなんとかさせたのだろう。
下層といえば、エナのバーだ。水道管に行く前に、気がついたら足が向いていた。エナはいつも通り、ダウナーな目でカクテルを作る。料理を作る。それだけのようだ。
「何かスゴイ音がしたと思ったら、全てが終わってたわ。空は初めて見たみたいな快晴。てなだけね」
「だよな」
「下層は変わらないわよ。美菜ちゃんは、地上に水が湧いたから何かが変わるかもって言ってるけど」
エナは、ちょっとジト目で、カクテルを飲む美菜を見た。酒飲み巫女は「ここのカクテルもおいしいです~!」と言いながら飲んでいる。
美菜曰く、地上に水が湧く確証がしたらしい。そんなドデカい規模のことを彼女が起こしていたのだろうか。いつ。……なんとなくあの状況の巫女ならやりかねない気がする。
「……数十年単位だよな」
「あんたも信じるの? まいっか。どっちみち……」
エナは窓の外を、塔を見上げた。その瞳には、憧憬と、羨望と、希望。
「今の混乱期なら登れるかしら、塔」
「……」
相変わらず、この店主はたくましすぎる。
その時。
「エナー! メシ食わせろ!」
「よく分からないけど落ちてきた、砂礫の掃除で腹減ってんだ!」
下層の男達が、どやどやと入ってきた。
「まぁね。それはそのうちに、ね。ところであんたも何か頼みなさいよ。今なら料金1.1倍で作ってあげるわよ」
「余計金取るのか……」
敏明は、迷うことなくナポリタンを頼んだ。ちょっと上機嫌なエナの後ろ姿を見ながら思う。
関係性というものがあるのなら。
回り回って、彼女のおかげになるのだろうか。
◆
「……お兄さん。私、叶えたい夢があるの」
水道管に向かう間。美菜が口にした。
それは、たったひとつの夢。
「上層の人たちが、安心して下層に降りられるようにしたい! 逆も然り!」
「……長くなるぞ」
「それでも、私は叶えたいの。夢じゃなくて、いつか実現できるもの! ウジャムンガ様も仰っているわ! 巫女様達も、総出で奔走してくれるって!」
どうするも。
「俺も、誰も傷付けたくない。生贄になったのは、そういう願いからだ」
だから。
「そういう俺が、断るはずがない」
「……! お兄さん、だーいすき!」
「抱き着くな」
美菜をひっぺがしながら。通信端末からは、慌てた巫女達の声が聞こえてくる。
「なにっ!? 美菜ちゃんが! お兄さんに大好きと!? これは藁人形を用意せねばならないわ!」
「草人形ならありますよぅ」
「もーっ! 由香、慈愛、ちゃんと祝福しなさいよー! このカレンちゃんが言ってるんだからー!」
「これは便利屋弥勒の出所ね! あ、新入りのクロミヤ?さんも一緒にどう?」
「クロミヤじゃなくて、クローンなんですけど……まぁいいですよね! 通信端末から手伝います!」
そんな愉快な巫女サーを聞きながら、背中で冷や汗を流す。この前の「永遠に一緒」の会話、こいつらに聞かれてないだろうな……!?
由香なら本当に藁人形で呪いかねない。神の呪いの前に人の呪いでしぬとかまっぴらごめんだ。




