優しい祈りの美しい菜の花言葉
空が割れたと同時に、ディバイン・スピリッツは無数の光となって散った……散った!?!?!?
「きゃあああおにいさーん!?」
「美菜……?!」
ちらりと見えたモノクロームも、白い光に消えていった。そこに残されていたのは、あの棺。
美菜が激突していくのが見えた。
◆
「……私、ありがとう。ごめんね」
「……改めて。そっくりだね」
2人の美菜は、お互いの顔を見て笑い合った。何の恐怖もわだかまりもない、純粋な笑顔。
「でも、もうひとりの私、私と一つになるのかな……」
思うのは、消えてしまうかもしれないということ。世界にはまだまだ楽しいことがたくさんあるのに、何も経験せず消失してしまうのは抵抗があった。
「私は元々、恐怖が無くなったら消える存在。……未練とかないから、大丈夫だよ」
クローン美菜は笑顔を見せた。
「……でも!」
美菜は言った。言っておくべきだった。
「ビールは飲んでおくべきだよ! すっごくおいしいから、絶対好きになるよ! ……だから、このまま消えるなんて……!」
涙が声に混じりかけた時、別の声がした。
「敏っちと美菜っちは、精神世界、行きまくりですね」
いつの間にか2人の間に現れていた、白い少女が言う。
「えぇ。このまま消えるだなんて、美菜っち、お嫌いでしょう?」
つい、と彼女が指を動かすと、何もない空間に青いゲートが。
「塔にデータが残されているという感じですが、魂だけとなった巫女達の一員になりましょう」
「……神の一つに、なるの?」
クローン美菜は不安そうに言った。神の一員になりたくなくてこうなったのに、結局望まぬ形になるのは怯えてしまう。
白い少女はノンノン、と指を振った。
「なりゃあしませんよ、祝福されたお嬢さん。塔にデータがあるだけ。シエラちゃんの計画が進み次第、どこか別の場所に移されます。メインOSの名前は、私達の従者の名前の一つで。マリーゼ、とでもしておきましょう」
「ということは! クローンの私は、助かるんですか! ……どうやって?」
「あなたは巫女達と一緒に、電子の世界をどこまでも。巫女サーが使っているタブレットにだって出てくることができます。どや。私の権力はすごいでしょう」
白い少女は、無い胸を張った。
「ありがとう、ございます……ええと、あなたは?」
「ウジャムンガ様だよ! 御姿の一つ。それだけは分かるよ!」
それ以外は全く分かんないけど! クローン美菜が存在できるのは分かったが、詳しいことはさっぱりだ。でも、美菜含め、人類にはそれでいいのかもしれない。変わった存在が変わった力を行使して、不思議なことが起こった。そういう認識で。
「ウジャムンガ様はすごいんだから! どんなお願いも叶えてくれるもの!」
◆
敏明は棺の近くに墜落した。発現した青い光がクッションになってくれたが、地味に痛い。どこも痛めていないことを確認しながら起き上がると、美菜も起き上がるところだった。眠り姫だった彼女は、目をこすりながら。
「……私……」
完全な美菜。それでも、敏明の取る行動は変わらない。
「……おはよう。美菜」
ただ、当たり前の挨拶をするだけ。
「……お兄さん……もう、悪い夢の気配はないわ……」
美菜が微笑む。敏明も、心に溜まっていた不安が溶かされていくのを感じた。
このまま彼女は感動で涙し、その背を優しく叩くことになるのだろう。さすがの美菜でも、この状況では涙するのだろう。何か良い言葉はないか考えた時、
「ということで! 生身でお酒が飲みたいわ!」
ブチ壊しだった。
……どんな状況でも、優祈美菜は美菜だった。優しい祈りの巫女は、いつだって全てのために祈っていた。そういうことだ。決して酒のためではないはず。
「……本当は、泣きたいくらい嬉しかったんだけど、なんだかそういう雰囲気じゃないな、って……」
「……泣けば良い。今の俺だったら、受け止められる」
「……なんだか、アルコールが抜けそうだからやめておくわ」
そう言って、美菜は笑った。
「これから、一緒に人生を歩んでいくひとだもの。少しくらい、強がりは見せておかないと」
「そうか。……そう……、か……っ!?」
今。
なんと?
一緒に人生を、歩む?
「お、お前と、俺とが!?」
「え? 心の奥まで見せたからには、これは永遠に一緒にいるコースかと? まさか、お兄さん、私と一緒にいるのがイヤ!?」
「それはない、ないが……!」
年齢、立場、馴れ初め、確かに全て問題は無い。美菜は酒を飲める年齢だし、敏明も同じく。だが。
心の!
準備が!!!
「由香にバレたら大変なことになるぞ……!?」
心底恐れて言ったのだが、美菜はあらぬ方向を向いていた。「あ! 巫女サーのみんなだ!」と言うからに、仲間達が合流したようだ。
棺から起き上がると、今までが嘘のように駆けていく。彼女が離れた途端、棺は陽に照らされた氷のように溶けていった気配は、かろうじて分かった。現在分かるのは、とんでもないことに巻き込まれたということ……!
「それじゃお兄さん、5年後くらいに答えを聞かせて!」
「お前なっ……!」
耳まで赤くなっているのが分かるのに、未来のヨメは明るく駆けていく。
この時ばかりは、これも良い、なんて言わない。
重大な話題を! 放置するな!
◆
巫女サーの面々と合流する形で、由香と再会した。
「美菜ちゃん!」
「由香ちゃん……!」
美菜の姿を見つけるなり、黒髪の彼女は何もなく駆けてくる。ぎゅっと抱き締めると、しゃくり上げる声が聞こえてきた。
「……もうっ、無理するんだから……!」
「……ごめんね、心配かけちゃったよね……もう、大丈夫だから」
慰める美菜の頬にも、涙が伝う。親友の涙が収まった頃、どちらからともなく、酒瓶を取り出していた。
「……ようやく、一緒に飲めるね」
「……ずっと、ずっと、美菜ちゃんと飲みたかったのよ。通信端末で、戦っているところも見てた……」
由香が取り出した酒。茶色をベースに、黄金色に輝くそれは。
「アクア・ヴィテ。言ってたでしょ? アクア・ヴィテは、ウイスキーを示す言葉なの。これから色んなお酒を飲んで、世界を広げていきましょう。もう、狭い世界はないの」
「由香ちゃん……やっぱり、かしこくてすてきな、私の親友ね!」
巫女サーの面々は、それぞれに頷いたり、目尻を押さえたりしている。この感動の気配の中で、言うことは一つしかない!
「さぁっ! みんなで飲みましょ!」




