Final phase
モノクロームから、意志が流れてくる。怒り、嘆き、そして困惑。
「止まって、もうひとりの私! もう終わったんだよ!」
美菜が叫ぶが、届かない。通信は届いているものの、あの美菜の意志が変わる気配は薄い。
『上層は一人残らず消えれば良い!』
「させるか!」
「行くよ、お兄さん!」
神殿の柱を割り折ったD・スピリッツが、石の塊でビームを砕く。
「弁償は後で!」
無数の砂とガレキの中から、幾筋ものビームを撃つ。美菜はどういう訳か、この機神の操縦方法を掴んでいるようだ。これも神達の力だろう。モノクロに追いつく起動力で場を制す。
しかし、決め手がない。こちらがビームを撃てばかわされ、掴みかかってはバリアを展開される。どちらも損傷は少なく、壊れはしないが捕らえることもできない。むしろ、こちらが削られていく。
アーシュスの言う通り、空想なのか願いなのかは分からないが、敏明は機神を保つことで精一杯だ。
「お兄さん……このままじゃ!」
美菜の焦った声がした時、通信が入った。アーシュスやウジャムンガの巫女のものではない。やたらと軽く、そして聞き覚えのあるその声は。
「みなさん、苦戦してますね!」
「ミ、ミハエル様!? なんか消えたんじゃなかったんですか!?」
消えたはずのミハエルだった。
「精神体に戻っただけです。私はじゃんじゃん元気ですからね!」
それにしてはテンションが高い。一体何をしに来たのだろう。少なくとも自慢しに来た訳ではないはずだ、少なくとも。
「斑目敏明。困っているな」
「……」
低い声も聞こえる。その声は、……。
「ダンテ様!」
そうだった。
「あの眠り姫と精神を繋げる。王だからこそできる犠牲の儀、非殺傷版だ」
「物騒な名前を付けるな」
「そう言うな。王とは本来、神の生贄だった。神の生贄である巫女と心を繋げることは用意だ。王としての能力の最大活用……斑目敏明、衝撃に備えろ!」
衝撃……というより砕かれるような感覚。これが犠牲の儀というものなのか。痛みや恐怖はなく、ただ広がっていくものがあった。
◆
ダンテは、王は、思う。
「彼女」を、「君」を、助けたいと思っていた。
けれど、次元の壁に阻まれて。声は、届かなかった。
この巫女を、救おう。
そうすれば、「君」を助けることに繋がるから。
◆
真白い世界。心が繋がったというものなのか。
敏明は理解した。
初めの色を。
自分が生まれた時、囲まれていた色。
未だにそういう自覚はないが、生まれは不明瞭、ダンテからもウジャムンガの巫女からもクローンと呼ばれている。だったら多分クローンなのだろう。王という者の。……だったら、美菜のクローンも救うまで。
……自分は最初から、ひとりではなかったのだ。こんなに美しい色に囲まれて生まれてきたのだ。温かくて、冷たくて、矛盾していて、それでも祝福されていた。
そんなことを、すっかり忘れていた。自分は捨てられた、その寂しさで忘れていた。
(一緒に行こう。……お前の敵を救いたがっているけど、お前も救いたい。助かるなら、少しでも多い方が良い)
誰かができなかったことを為すために、クローンというものは創世されていくんじゃないか。
2人は複製、誰かの記憶。誰かが出来なかったことを為すためのやり直し、そして希望。
人は、生命は、進んでいくのだ。
だから、複製かどうかなんて、実際は至極どうでもよいことなのだ。生命であることは、変わらないのだから。
そして今、誰かができなかったことなんて、決まっている。
生贄は、誰かが終わらせなければ。




