神は遠い地の底に
教皇の身、歴史書を調べる時間は大量にあった。神の子の再来とされる身、身分は多少不肖でも……もとい洗脳でどうにかなった。
神歴とは、西暦の次の年号だった。ミハエルの時代よりも、200年ほど先の年号から始まった。その名の通り神が降臨した年。というのが表。実際は神を地下に押し込め、その上に塔を建設し始めたのが始まり。
神、というのが具体的にはよく分からないが、ぴんと来ない名前が並んでいる。
ミハエルと似た世界なら神は「ミハエル」という呼び名を始め「黒いの」「デウス」「ティアマット」他いろいろだった。神とは地を作り給いたものではなく、人間とは別の種族としてたまに干渉する程度(ミハエルは除く)。
その神達をどうしたものか集め、その上に蓋をした。神はエネルギーの塊として封印された。
当然神は怒る。その代償として、毎年一人を選び、上層から地へと、神のいる地上へ。
だから地上が干涸らびたんじゃないかと思ったが、水の枯渇は神を追いやる前から、急に干上がったようだ。
平行世界とは言ったが、かなり奇妙な進化を遂げている。ひょっとしてミハエルが去った後の世界も、100年くらい後に水が干上がり始めるのだろうか。
ミハエルは思う。
地下に押し込められた神のことを。人の身勝手で扱われ、見えない地下へと、いないものとされた神のことを。
神なら人を思うべき、と誰かが言った。
ミハエルは思う。
混沌を呼び出すとき、この神たちも解放しよう。でなければ報われない。きっと人に尽くしていた神のことを。ほんの少し干涸らびさせただけで、悪鬼の如く押し込められた彼らのことを。
……いや、この神を甦らせるために、自分は遣わされたのでは?
いつか、私は神を信じていた。神への尊敬は人並みにあるはずだ。少なくとも、押し込めた奴らよりは。押し込めた上で、仕方なかった、当然の措置だ、と封をしている奴らを。
(……当然の措置?)
自らも同じだ。善行は報われず、人々はミハエルを……神を責め上げた。
そんな日々が、嫌になった話。
全てを帳消しにするため「彼」との出会いをやり直し、己に都合の良いように調整しようと……結局別の世界へ来てしまったが。
「……大丈夫。私は貴方たちを解放します」
上層の学園の1つに、巫女サークルというものがあるらしい。あの弥勒とやらも所属している学生組織だ(……一応成人の年齢は超えているようが、それでも学生らしい)。押し込められた神のエネルギーを使い、怒る神の怒りを帳消しにしているそうだ。
……あの生徒達も、神の不当な扱いに加担している。
「……憎たらしい」
神を踏みつけた恩恵を受けているのに、どの口が神の破棄を語るのか。解放ではない。破棄である。身に余るほどの恩恵を受けながら、不要になれば、不具合が見つかれば用済みとする。
「……っ」
資料を持つ手に力が篭もった。
側に控えていたダンテはその震える手を一瞥し、単なる側人に務めた……主の怒りを鎮めるには、言葉では到底足りない。
神達の結末は、ミハエルにとって、最も忌むべきものだった。
不要。破棄。処分。
それは。
「……古神を。苦痛を。甦りを……」
カオス・リンカーネーション。
今度こそ、混沌を。
……自らの痛みに見合う、混沌を。
私は私を傷付けた者を、決して許さない。
◆
それは、遠い地下の神と共鳴した。
神々も、同じく。
我らを遠い地に押し込め、エネルギーとした者達に。呪いを。報いを。




