あなたのあなたにあなたは
そしてもう一つ。ミハエルには極秘に進めているものがあった。
教皇室の奥。絵の裏にある、研究所に似た場所。ポッドの中に、男が眠っていた。
「……」
「……私です。分かる……分かりますよね?」
男の頬を、そっと撫でるように包む。男はよく分からないように首を傾げ。
「……ミハエル」
「正解です。……服ごと作っておいた甲斐がありましたね」
持っていた毛髪、憎い彼の遺伝子を使って作り上げたクローン。これから世界を混沌に塗れる様を、間近で見てもらうのだ。
絶対に私には従わないと吠えた男を、それと知らずに従わせる。目の前の男は分からないだろうけれど、ミハエルにとっては大変な愉悦だ。
既にミハエルに対抗できない因子は遺伝子に組み込んである。ミハエルに反抗しようという気は決して起こらないだろう。
男……ダンテはハテナマークを浮かべつつ、衣服を不思議そうに見ている。顔そのままを再現するのは嫌なことを思い出させて嫌だったので、まだ見ぬ40代程度の顔にしてある。いつぞやか、斑目敏明に出会う時は、どんな反応をするのか。
斑目敏昭。恐らくは「彼」の子孫。……誰との子孫なのか。同じ顔ということはどこかにあの遺伝子が紛れ込んでいるというわけで、となれば誰かと子を成した……結婚したわけで。
……ひどい目に遭った果ての望まぬ結婚だったらいいのにな。
……億が一、この平行世界の私だったとしても微妙な気分になる。つまり、ミハエルと彼が和解する道筋があったと、目の前に突きつけられているようで。
……世界を混沌に塗れさせる前に、必ず私の前へと呼ぼう。
彼は今、私が目覚めた場所、下層の町にいる。それも少々面倒な場所に。
地下深くに埋めた神を押さえる為の礎。平たく言えば生贄である。数年前、自ら立候補したらしい。
私のように縛られているとは、笑ってしまうくらい好都合だ。苦しんでくれればそれだけ良い、
私の前に呼んでどうしようか。教皇の身だ、大抵のことは押し通せる。
「ミハエル。私はどうすればいい」
「そうですね。しばらくここにいるように。三日後に教皇補佐の試験がありますから、その時に推薦します」
「分かった」
ダンテを正式に補佐にし、目指すべきは旧神を呼び戻すこと。だが、せっかく縛りを逃れたのだ、少しくらい悠々自適な教皇ライフを楽しんでもいいだろう。
「そして「彼」の……王のクローンを、利用しましょう」
「……王の……私のクローンを」
ダンテは呟いた。
その事実に感情はない。ミハエルにとって、駒は多い方が良いだろう。
原初の神によって不規則に生まれる王のクローン。
それも、計画のうちに入れる。




