真宮寺ミハエル、あまりにも現世が釣り合わないので、異世界でやり直します!
真宮寺ミハエルは「彼ら」に尽くした。あらゆる力を与え、祝福を授け、笑顔に囲まれて過ごしていた。
ただひとつ。……時空からエネルギーを取り出す技術の開発にて。
世界を融合させてしまった。それは、ただひとつの「し」だった。
その日から、全てが変わった。
人々はミハエルを呪った。最も愛していた「彼」も……その中にいた。彼女を許す者は誰もいなかった。救う者も、誰も。
力を奪われ、遙か遠い地の底へと追いやられた。
人々は繁栄した。失敗した神など不要、忘れるように。
ミハエルは地の底で願った。
(……こんなところで、消えたくない……!)
捨てられ忘れられた、呪い、恨み、怒り。
別の世界へと逃げる、いや、よく似た世界へ行く。そして本当に「報復」してやるのだ。
◆
「……ここは」
ミハエルは呟いていた。転移は成功。なのに。
「……どこ?」
記憶の中にある、大都市隅のごみ捨て場。……とは、少し違う。遙か上まで伸びる高い塔。魂まで染みつきそうな黴びた匂いと荒れ果てた廃棄場は、記憶ほぼそのままだ。
ここまで似た世界のならば「彼」はいるのだろう。だが、それにしては天上の塔がその思考を許さない。
ここはシングウ地区……未来のリノシマだった、はずなのに。
目の前には巨大な塔。遙か上空が微かに光っている。
「こんな塔、あったっけ」
ともあれ確認だ。神体……精神だけとなっている今のミハエルは、誰からも見えない。「神」であるミハエルは、いつだって神体と肉体を変化させることはできる。それはいいのだが。
ふわりと浮き上がる。ミハエルの持つ、特殊な術だった。生まれながらに使える、特別な術。……だからこそ、自らは「迫害」されたのだが。
塔はなかなか高かった。飛んでも飛んでも頭上の距離は縮まらない。塔は電柱ではなく、規則的に町の残骸があった。上の層の影になり、夜の藍色に浮かび上がる給水塔は、リノシマによく似ている……似ている。
かつて自分がいた町。
「彼」といた町。
最後には、自らの手で……、
嫌な気持ちを抱えたので、飛距離も落ちてきた。途中で休む。
残骸なので、誰も住んでいないらしい。夜でも変わらない静寂が包んでいる。
『慈円診療所』?
ミハエルは混乱した。最初の世界では、慈円はまだ存在していない。そこから1つ2つ進んだ世界で、慈円はようやく生み出された。
ついでなのでカルテを漁る。この廃棄具合ならば、誰も咎めないし覗かないだろう。……『斑目敏昭』?
「…………、」
しばらく思考が停止した。
その患者の写真には、憎っくき「彼」の少年時代の写真が。
なんで?
ええと、なんで????
ここに人がいないのを心底悔しく思った。居れば内臓が干上がるまで問い詰めることが出来ただろうに。
完全に計画を放り出し、カルテを穴が開くほど見つめる。西暦は。今何年か。いや、始まりの場所に西暦という観念はない。けれど確かめずにはいられなかった。そこには2文字「神暦」と。
「神歴……?」
見たことのない歴史だ、少なくともミハエルのいた利島で使われていた西暦ではない。暦という文字が使われていることから、枝分かれした歴史だろうか。ミハエルは平行世界を移動して来た。だから、歴史が多少変わっていてもおかしくないが。
症状は。ミハエルの記憶ならば、超人細胞を投与されての経過観察が12年ほど続いている。カルテに書かれているのは、見たことのない症状だった。
……生贄候補。
「………ええ………」
4文字。
ミハエルは呆然と座り込んだ。座り込んだ途中には椅子があって、安楽椅子のようにミハエルの背を包んでくれた。包んでくれただけである。
ここはミハエルの望んだ近しい世界ではない。何かの拍子に、さらにさらに別の平行世界へと飛んでしまったのだ。
けれど、転移に力のほとんどを使い果たしてしまった。空を飛んだり攻撃するのはできるが、世界を飛ぶなんてことはできそうにもない。別の世界に移行するなんてことはできない。
大変に心がやばい。真宮寺ミハエル、ここで諦めるか。
1.とりあえず上空まで行く。
2.諦めて人々を洗脳して潜り込み、この世界で暮らす
3.諦めずに情報を探る
……諦めない。ただ「彼」の身の上が違っていただけではないか。この身の炎を鎮められるものではない。
「……上までいこっと」
3よりの1を取ることにした。




