奪還、その前に
「あれが……もう一人の私を、さらって……」
「そう。私達の力じゃ止めきれなかったけど、これも運命だね……」
人間2人は、震える手を握り締めた。あの威容に立ち向かう……その恐ろしさが身に染みた。もう巨神は見えず、空だけがある。それでも、身体の奥にじんと残る畏れがあった。
美菜の御神酒らしきもののプルタブを開ける手も同様。開封に失敗した挙げ句、ガタガタビシャビシャと零している。そんな状態でも、美菜はグイっと酒を飲み干した。
「……えぇっ! 私が生み出した機械の神だものね! 私がブチ壊してみます!」
「その意気だ! 対抗策はちゃんとあるからね!」
会話を聞きながら、敏明はアーシュスを睨んだ。八つ当たりでしかないが、何かにぶつけなければ仕方が無かった。恐怖していたという事実から来る、敗北感を。勇気を出している美菜と比べ、迷いがある心を。
「……お前、神なんじゃなかったのか」
「あの巨躯では勝てん。そも、我らは人間を呪う神なのを知らんのか。人間により堕とされ、人間により踏み躙られた経緯を、」
「神! そこはこれからじっくり、ね。ともかく敏明くんの部屋まで戻ろう、ここは崩落するかもしれない!」
「基幹部を置いておくというのか? 仕方ない、巫女神の言葉ならば従おう。だが……」
部屋に戻るまではほんの数分だったが、道中、懲りずに神は喋り続ける。沈黙が耐えられないタイプなのか。
……確かに、ずっと地下に閉じ込められていたのだから、饒舌になるのだろう。無口な敏明からは考えられない。
敏明としては、怯えを感じているものの、焦燥は高まっていた。一刻も早くなんとかしなければならない。あんなものが世界に侵攻すれば、一日も保つかも分からない。神とウジャムンガの巫女がいながら、何も出来なかったのだ。
「巫女様、手はあるって言ってたけど、具体的にはどういう手段なの? ウジャムンガパンチも、機械の神には届かないわ!」
「君たちに塔の歴史を知ってもらった後、同じ機械でブッ叩く」
「「えっ」」
敏明と美菜、2人の声が揃った。
同じ機械で?
あんなのが2台もあるのか?
そもそも、敏明に操縦できるのか? 少年期に生贄になって以来、何の機械も扱ったことのない青年に?
呆然としている人間達の態度は知ったことかとばかり、神は喋り続ける。どこか誇らしげに頷き。
「これより、我らが塔の歴史を語る。語っている場合ではない? それもそうだが、お前達には知っておかねばならぬ事実だ。神の力によって、数時間を1時間に短縮する。人類限定だ。神の力、とくと味わえ」
「もう一人の美菜ちゃんは、今、恐怖の中にいる。その願いで、塔を壊そうとしている。君たちに止めて欲しい。そういうことだ」
「それと、こいつが話すことに何の関係があるんだ」
「これから彼が話すものは、ただひとつの歴史」
巫女はウインクなどしてみせる。
「恐怖を理解するために、必要な記録なんだよ」




