神望む世界と巫女の幻想
「で、でも、私は……お母さんのお味噌汁を食べた記憶も、由香ちゃん達と遊んだ記憶も……」
「そう。あなたは「基」になった人。こちらにいるのがクローンさん。あなたの恐怖はパージされ、こうやって眠り姫と化した。歪んで目覚めかけてるから、ノイズが入ったり、妙に勘が鋭くなってるんじゃない?」
「そう……だわ。……クローン元で良かった、って思っちゃだめかしら……」
「いいえ。クローンだったら、この話はあなたには聞かせられないもの。
この彼女は、世界が夢見ている巫女。巫女が、夢を見ることを望んでいる。人々の罪悪感。巫女が世界を滅ぼすことを望んでいる」
「……私が、滅ぼすことを望んでいるんですか?」
「そうだね。ウジャムンガの巫女から聞いた時、少しでもそんなことを思わなかったのかい? 創世教はみんな滅べ、とか」
「私、そんなこと……!」
「けれど、世界が望んだ。巫女かが、世界を滅ぼしてくれることを」
美菜は唇を震わせ、いつもの饒舌さはない。敏明は巫女との間に入った。
「……美菜のせいじゃない、ってことなんだな」
「そう。世界のせい、でもある」
「……分かったわ」
美菜は悲痛な顔をしていたが、すぐに小さく頷いた。
プルタブを開け、神酒を飲んだ。
いつもならツッコむところだが、敏明は安心していた。美菜は、いつだってやはり酒飲み巫女だった。
「……大丈夫よ、お兄さん。私が壊すんだったら、私が止めれば良いだけだもの」
「……そうだな」
そして、ずっと黙って3人を見ていた「神」を見る。
「それで、こいつはなんなんだ」
「こいつとは無礼な。神罰を下すぞ」
途端。あの怖気が這い上がり、
「いでっ!?」
大きめの石が落ちてきた。やばくないか!?
「殺す気か!」
「お兄さんと出会った時に使った術と同じ! グレードアップしてるわ! 主にさついが!」
「我らの生贄ならば、それぐらいでどうにかなるというものではない。現に、人斬りという男の斬撃から生き残っただろう」
……人斬りから生き残れたのは、そういうことだったのか。確かに生贄という職業からは、そう簡単にしなせてはくれないらしい。
「しかし、我らの存在は確かに気になるだろう。
我らはメインシステムにされた「神」の記憶を持つ存在だ。神にアーシュスという者はいない? メインシステムにいつなったか? その解答は明確だ。今なった」
「……」
今。とは。
神は大まじめに続ける。
「この夢想の娘が塔を揺るがしたことで、我らも存在を変えずにはいられなかった。アーシュス・アル・ソトファという、記憶を持つ存在が組み上がるほどにな」
「組み上がる?」
「今、依り代としてできた。人間の感覚にして、ほんの1時間前だ」
「……まじかよ」
神、そんなこともできるのか。いや神というならば、生命を生み出すくらい一瞬かもしれない。
「その通りだ。創世神に神の座を奪われたとはいえ、我らの力は強大だ。貴様など一瞬で滅ぼすくらいにな。実際に我らは存在を生み出し、今ここにいる。それは神の奇跡だ。本来ならば地に平伏し、捧げ物を献上せねばならぬことだ。だが今はそれらを行っている暇は無い。我らがまだ我らであった頃、」
「分かった、分かった! 神はすごいんだろ」
万年テンションの低い自分が、思わず叫ぶほど。神、話が長い。
「話を途切れさせる癖を止めろ。神の言の葉はひとつでも多ければ多いほど、崇拝が高まるというのに」
不機嫌になったが、分かってくれたようだ。
「ええと、アーシュスさま?」
「アーシュス・アル・ソトファはこの存在の名前だ。神を呼ぶ時は神と呼べ」
細かい。
「え? ミハエル様と名字が同じってことは、あの人も、神さまが生み出した存在なの?」
「アル・ソトファは名字ではない。塔を支配する者という意味の名称だ。同じだとて、特に意味はない。もっとも、ミハエルは特別な存在だが……」
「そうそ。でもやっぱり、」
「今とは関係ないの? でも、今は何がどうなっているの?」
「優祈美菜。お前が魂の一部を眠らせたことによって、塔の核と存在が重なった。だが、先の古神との戦いで、大きく存在が歪んでしまった」
「歪んで?」
「本来は、優祈美菜がウジャムンガ教との繋がりを持った時点で、創世神との繋がりは切れるはずだった。眠り姫など生まれないはずだった。だが、古神と力を混ぜ合わせたことで、変化が生まれた」
「じゃあ、この美菜はあの戦いで生まれたってことか?」
「そうなるね!」
ウジャ巫女は言った。
「……」
もう一人の美菜は、ただ穏やかに眠っている。塔のエラーがなければ、彼女が美菜の生き別れた双子の妹で、この神やら巫女やらは単なるドッキリだ、と思うほどだ。
「そして、」
巫女はどこからともなく、端末を取り出した。
「これが今の世界だよ」
そこには、
モノクロの機械がいた。
「あれは……!?」




