爆破、のちの未来へ
儀式場が爆発した。
「ふわっ!?」
美菜は空中へ飛ばされた。五体から感覚が消える。見えるのは空。空へと吸い込まれる、砕け残った黒い霧。ミハエル様とダンテさんは、いない。空にも地上にも。白い布きれだけが残っていた。
とっさに手を伸ばしたが、やめた。空の向こうは、ぽっかりと空いた青い空。自分の勘が告げている。あの先は、きっと幸せな場所だ。ウジャムンガ様も恐らく仰っている。彼らは新しい場所に行くだけだ、きっと。
上空からは、上層の町が見える。
ショッピングモール、端の森、人々が暮らす町並み。
あの中に、自分たちはいたのだ。
今は、血と泥に塗れている。それでも、後悔はない。
この世界を、自分の好きな人々を、守れたのだから。
ふんわりと、美菜は神殿の庭に落ちてきた。手を握ってみる。ぐー、ぱー。足を回してみる。服を見てみる。何も変わっていない。ほんのさっき、ミハエルと対峙したのが夢のようだ。
「ふわぁ……」
先は、ミハエル様と戦った庭だった。吹き飛んだ儀式場のガレキが散乱し、もとの庭園は形も無い。
大きなガレキの側に、敏明が寝ていた。その奥には、もう一つの大きなハコ。
……棺?
確かめようとして、美菜は自分の手が震えていることに気がついた。なんで? あれはミハエル様より、古神よりもっと悪い者なのか?
もう一歩、根性を出して近付こうとした時。
「儀式場が! 爆破されたぞ!」
「ミハエル様は大丈夫なのか!? あと俺達の給料も!」
慌ただしい声が聞こえてきた。聞き覚えのある声は、どう考えてもあの時誤魔化した神兵達である。
「やばっ!」
美菜は敏明を抱え上げると、そのまま逃亡した。
◆
ミハエルも空中に飛ばされていた。長い金髪が風に舞う。
「……ウジャムンガの、力が……美菜さんでもダメだったのに、あっという間に解呪しちゃうなんて……」
融合したはずの古神の力は既にない。本当に、あの神は呪いを消してしまったのか。相変わらず規格外すぎる神である。
過去のミハエルが、最も求めたわけだ。
「……なんで今になって……今じゃなくて、もっと前だったら、良かったのにな……」
そうすれば、「みんな」を救えたのに。
「……私の時は、来てくれなかったのに」
「……」
存在は黙り込んだ。神ですら、何も言えないひとときがあるのだ。
「……いいですよ。この最後の瞬間に、会いに来てくれたんですから」
私の思念。思念の私。
いつか生まれ変われる……のかな。
風に舞う神力の中には、ダンテの存在もあるのだろう。ミハエルが神力を以て創り上げた彼は、また力の欠片となって彼女の元にいるはずだ。
『行こう、ミハエル。変わるために』
私達は変われるのだろうか。元に戻れるのだろうか。
そうしたら、次こそ、あのひとの、となりで。夢を見よう。見続けよう。
この塔が消え去り、空想がカタチになる、その日まで。
◆
コードの中を這い回り、黒い線は塔の中を蠢いていた。
やがて、線は思念を元に重なり。黒い髪の女性になった。女性はミハエルの思念のまま、言葉を紡ぐ。
「世界に苦みを」
「苦しみを」
「狂乱を」
そのためには、人間の組織が必要だ。
「例えば、ファーレン……とでも名付けましょうかね」
永い永い時を経て、創り上げよう。世界に苦しみを撒き散らすために。
その組織は、きっと世界を……。




