集結! 巫女サークル!
ミハエルは最上階から、中庭の騒動を見つめている。
「反神パワーをぶち込まれて、元に戻りましたか。巫女は神の嫁だから当然、神にはなる……と、あの方は言っていましたね。もう消失しましたけど」
梢は完全に人間の姿に戻っている。ミハエルの施した術は、10分も経たずに解呪された。反神……ウジャムンガの力で。
しかし、術は想定以上だった。巫女の素質があったとはいえ、巫女を見事に異形へ変えてしまうとは。
「いえいえ、なんたって巫女ですもの。神くらいの力は持って頂かないと。あの方の相棒のように」
以前、ダンテにかつての相棒の話題を振ったことがある。その瞬間だけ、彼は眼光凄まじくミハエルを睨んだ。ミハエルは、その理由を知っている。知っていて、敢えて聞いた。面白そうだったので、敢えて聞いた。
ミハエルを睨みつけたダンテだったが、すぐに瞳を伏せた。諦観を感じさせる声色で、彼は確かこう言っていた。
『彼女……そうだな、あの子は、そうだった』
「……そう、って。どれのどういったものなんでしょうね」
呟いてみたが、答える者は存在しない。肩を竦めると、神殿最奥へ向かう。
そんな些細な問いよりも、遙かに重大な事象が待っている。
◆
梢は戻ったものの、目は覚まさない。呼吸はしているが、動く気配もない。
「命に別状はないけれど、梢ちゃんは置いていけない。でも、先には進まなきゃ……」
「まぁ、そうだが……」
迷う。黒い線を吹き飛ばしたものの、梢をここに置いておけば、再び利用されるのは間違いない。だが、気絶した少女一人を連れて行ける余裕もない。
その前にミハエルを殴り倒すか、と口に出そうとした時。
美菜が顔を青くして呟いた。
「……いっぱい来たわ」
何が、と口に出す前に、怖気が体を包んだ。奥の通路から、溢れ出す黒。美菜が身構える。
「やたらと数が多いが、迂回するか」
「迂回する方法を探すよりも、こっちの方が早いわ。疲れてるけど、たぶんきっと大丈夫ぜったい」
「成功率が低いな」
美菜のサポートに回らなければならない。敵の数は多すぎる。巫女ひとりと一般人ひとりで、どう勝つか。思考のスイッチをONにしようとした時。
「困っているわね!」
凜とした声が響いた。女のものだ。顔を上げると、赤い一閃が黒を切り裂いた。黒い線が散り、閃光を逃れた線も、巨大な銛が一撃。
絶大な暴力だった。敏明は息を呑むのも忘れ、その莫大な攻撃を見つめた。
巨大な武器の影から、白い服を着た巫女が顔を出す。幼い顔立ち。低い背丈。美菜より少し年下か。地面に届くほどの長い三つ編みが、風に乗って揺れる。長い服はよく見ると、美菜のものと同じ刺繍があった。そして美菜と同じく、埃で汚れている。
「菩薩先輩!」
「やっほー美菜! おっひさー!」
と思ったら、年上だったらしい。菩薩はハイテンションな勢いで続ける。
「樫木さまから聞いたわ! 無事だったみたいね!」
「敏明さん、この人たちが巫女サーの一員! 菩薩先輩です!」
「……武器がでかいが」
「私の拳と似たようなものですよ! 神の加護です!」
便利だ、神の加護。菩薩は幼げな顔立ちをニヤっとさせ、ポーズを決める。
「巫女をかくまうサークル、巫女サー! かくして参上よ!」
「菩薩先輩、創世教の尋問にも負けず、生きてたんですね!」
「言い方に語弊があるわね!? わたしたちも美菜と同じく逃げていたのよ!」
「え、でも由香ちゃん何も言ってなかったですよ」
「えっ」
固まった菩薩先輩とやらの背後から、また新しい巫女が顔を出す。三つ編みの巫女。と真逆の、短いツインテール。菩薩より背が高めだが、それでも150cmあるかないかの小柄な巫女。菩薩と合わせると、まるで小動物のようだ。
「由香さんも忙しかったんですよぅ。美菜さんのために、すんごく奔走した、って言ってましたぁ」
「慈愛ちゃんだ! 弥勒ちゃんは?」
「陽動に駆り出されてますぅ」
「弥勒ちゃん……相変わらずの肉体労働担当なのね」
話についていけないが、とにかく味方が増えたらしい。美菜はジュースの中に倒れている梢を抱き起こす。
「菩薩先輩、とにかく今はこの梢ちゃんを!」
「分かったわ! 美菜は……」
「止めに行きます! 創世神の降臨とやらを!」
美菜が叫ぶと、菩薩と慈愛は微笑んだ。
「後はまっかせなさい!」
「大丈夫ですよ、美菜さん。面倒な人たちは、弥勒さんが頑張ってくれます!」
弥勒は相当な貧乏クジを引いているようだ。僅かに同情した時、美菜が聞いてきた。
「敏明さんは……どうするの?」
「俺が投げ出すと思うか?」
「えへへ、冗談ですよ、冗談。ついてきてくれるよね。だって生贄ヒューマンだもんね!」
「知らない言葉を使うな」
生贄になった覚えはない。
「それじゃ、今度こそ行ってきます!」
同僚たちに向かって、美菜が手を振った。向かうは祭壇の奥、最上階……創世神の社だ。




