生贄ヒューマンで切り抜けろ
創世神の社へと続く階段には、護衛だろう神兵が並んでいた。やり過ごすのが適切だろうが、今は隠れている暇などない。
「誰だ貴様!」
「皆さん、待って下さい!」
敏明を見た神兵が銃を向ける。応戦しようとしたが、美菜が間に割って入った。神兵たちに驚愕の色が広がる。
「み、美菜様? どこへ行っていたのですか?」
「あなたがいないばかりに、ミハエル様はプランBを実行されました。予定になかったとのことですが」
どよめく神兵たちに、美菜は動じず大きく息を吸った。敏明の腕を取り、高く掲げる。
「生贄を連れてきていました!」
「は」
「そうでしたか! どうぞっ!」
神兵が一斉に叫ぶ。通路を塞いでいた彼らが、壁に沿って一列に並ぶ。背筋を伸ばし、まるで板のように張り付く。美菜は深く頭を下げた。
「ありがとうございます。これから創世神様、ミハエル様にこの生贄を連れて行きます。あなたたちはしばらく、うん、そうですね、一時間ほど待機していて下さい。ぜったいに、ぜーったいに、儀式場には近づかないで下さいね?」
「はっ!!!」
「よろしい!」
神兵達の様子に満足げに頷くと、敏明に顔を向ける。美菜の表情は、嘘をついているとは思えないほどの明るさに満ちていた。いや、むしろ怪しいくらいの晴れやかな表情だった。
「では。行きましょう、生贄さん」
「……」
答えるべきなのか、そもそもどう答えればいいのか。迷う間にも、美菜は神兵たちの間を堂々と通っていく。誰もが固い表情のまま動かない。敏明の反応はどうでも良いようだ。
角を曲がったとき、微かな囁きが聞こえてくる。神兵達の声だ。社を守っているとは思えないほどの俗世的な内容の囁き話。
「そっかー。美菜様、生贄を探してたんだな」
「道理でいなかったわけだ」
「まぁ、かわいい女の子より、むくつけき男の方が抵抗ないよな」
「あぁ。リア充は滅びろ」
言いたい放題だ。もうどうでもいいが。敏明は美菜に顔を寄せる。
「なんだ、生贄って。もうなってるんじゃないのか」
「方便よ、方便。うまくいったでしょ?」
「いったけど」
「もし帰るとき見つかっても、儀式は失敗しましたー、私はこの通り無事でーす! っていえばいいのよ。神様は気まぐれなものなんだから、ちょっとくらいムラがあっても怪しまれないわ」
「ウジャムンガもか?」
「そうよ」
あっさり答えた。いいのかそれで。いいのか。




