必ず、また会おう
どこをどう通ったのか、ひたすら揺られていく。電子扉の開く音、機械が動く音。
台車の滑る音と共に、声がかけられた。静かな女性の声だ。
「お帰りなさいませ、由香様」
「ただいま戻りました、神官様」
「由香様、神官様と呼ぶのはお止め下さいませ。わたくしのことはただの神官とお呼び下さい」
「……いえ、わたしは一般市民出身ですから」
由香の返答は硬い。しばらく重い沈黙が満ちた。どうやら巫女同士といっても、内部で複雑な関係があるようだ。
「……また後で話しましょう。由香様、こちらは?」
「創世神に捧げるものです。触らないように」
「しかし、この大きさでは重いでしょう。わたくしが」
裾が擦れる音。神官が近づいてくる。
敏明は身を固くした。美菜が助けを求めるように敏明を見てくる。俺に頼ってどうするんだ、と敏明も目で返す。そんなこといっても仕方ないじゃない、と更に見詰めてくる。心なしか目が潤んでいる。むちゃいうな。
「神官様。わたしが、わたしの手で運ぶのです。……このまま、わたしに任せて下さい。細かい動きは、その後で」
「……はっ」
押し殺したような女性の声がした後、彼女の声は聞こえなくなった。どうやら引いてくれたようだ。
さすが由香ちゃん、うまくかわしたわ……とでも言うように、美菜がそっと息を吐いた。
その後、何人かに声を掛けられたが、由香は同じようにかわしていった。
「くれぐれも触らないように」
「なまものです」
「触ると神力が飛びます! ダメです! ウジャ……創世神様のたたりがありますよ!」
後半はややヤケになっていた気もしたが、やがて完全に静かになった。
「お待たせしました、美菜ちゃん、敏明さん。わたしの部屋です」
「ぷっはー! 空気が美味しい! ありがとう由香ちゃん、助かったよー!」
美菜に続いて敏明もダンボールから出る。ずっと座った体勢でいたため、あちこち固まっている。
体を解すついでに見回す。由香の部屋は、きれいに片付いていた。薄いブルーのベット、たんす、本棚、創世神の神棚。ボードに貼られた大量の写真。写真。写真。
やたらと数が多い。そしてやたらと美菜が写っている。春の桜、夏の雲、秋の紅葉、冬の雪。その全てに存在する赤いポニーテール。
触れるとややこしそうなので、考えないことにしておいた。思い出のスナップショットにしては妙に多いが、たぶん出来事ごとに飾っておきたいタイプなのだろう、きっと。
「敏明さんは、こちらを着ておいて下さい。遠目からなら、無関係者であることを誤魔化せます」
白いカッパのような衣を渡された。肩幅が広く、これなら性別を少しぐらいは誤魔化せる。背中には美菜と同じく創世教の紋章。割と皮肉だ。
「わ、コートの上にコート。鏡見てみる? すごいシュールなことになってるよ」
「見るか。……ともかく、ありがとう。由香」
礼を言うと、由香は顔を赤くした。
「わ、わたしのことは結構です。それより、わたしはここで神殿内の気を惹いておきます。二人とも、ご武運を」
「うん。由香ちゃんも、気をつけてね。はい、これ」
「これ……薬酒じゃない。でも、今飲んだら神力が別物になっちゃうんじゃ」
首を傾げる由香に、美菜は笑顔を向ける。
「終わったら、一緒に飲もう。その頃には神力やらなんやら、関係なくなってるだろうからさ」
「……えぇ。必ず、必ずね」
二人は缶を寄せると、飲み口をこつりとぶつけた。
乾杯のように。




