表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
37/67

必ず、また会おう

 どこをどう通ったのか、ひたすら揺られていく。電子扉の開く音、機械が動く音。


 台車の滑る音と共に、声がかけられた。静かな女性の声だ。


「お帰りなさいませ、由香様」


「ただいま戻りました、神官様」


「由香様、神官様と呼ぶのはお止め下さいませ。わたくしのことはただの神官とお呼び下さい」


「……いえ、わたしは一般市民出身ですから」


 由香の返答は硬い。しばらく重い沈黙が満ちた。どうやら巫女同士といっても、内部で複雑な関係があるようだ。


「……また後で話しましょう。由香様、こちらは?」


「創世神に捧げるものです。触らないように」


「しかし、この大きさでは重いでしょう。わたくしが」


 裾が擦れる音。神官が近づいてくる。


 敏明は身を固くした。美菜が助けを求めるように敏明を見てくる。俺に頼ってどうするんだ、と敏明も目で返す。そんなこといっても仕方ないじゃない、と更に見詰めてくる。心なしか目が潤んでいる。むちゃいうな。

「神官様。わたしが、わたしの手で運ぶのです。……このまま、わたしに任せて下さい。細かい動きは、その後で」


「……はっ」


 押し殺したような女性の声がした後、彼女の声は聞こえなくなった。どうやら引いてくれたようだ。


 さすが由香ちゃん、うまくかわしたわ……とでも言うように、美菜がそっと息を吐いた。


 その後、何人かに声を掛けられたが、由香は同じようにかわしていった。


「くれぐれも触らないように」


「なまものです」


「触ると神力が飛びます! ダメです! ウジャ……創世神様のたたりがありますよ!」


 後半はややヤケになっていた気もしたが、やがて完全に静かになった。


「お待たせしました、美菜ちゃん、敏明さん。わたしの部屋です」


「ぷっはー! 空気が美味しい! ありがとう由香ちゃん、助かったよー!」


 美菜に続いて敏明もダンボールから出る。ずっと座った体勢でいたため、あちこち固まっている。

 体を解すついでに見回す。由香の部屋は、きれいに片付いていた。薄いブルーのベット、たんす、本棚、創世神の神棚。ボードに貼られた大量の写真。写真。写真。


 やたらと数が多い。そしてやたらと美菜が写っている。春の桜、夏の雲、秋の紅葉、冬の雪。その全てに存在する赤いポニーテール。


 触れるとややこしそうなので、考えないことにしておいた。思い出のスナップショットにしては妙に多いが、たぶん出来事ごとに飾っておきたいタイプなのだろう、きっと。


「敏明さんは、こちらを着ておいて下さい。遠目からなら、無関係者であることを誤魔化せます」


 白いカッパのような衣を渡された。肩幅が広く、これなら性別を少しぐらいは誤魔化せる。背中には美菜と同じく創世教の紋章。割と皮肉だ。


「わ、コートの上にコート。鏡見てみる? すごいシュールなことになってるよ」


「見るか。……ともかく、ありがとう。由香」


 礼を言うと、由香は顔を赤くした。


「わ、わたしのことは結構です。それより、わたしはここで神殿内の気を惹いておきます。二人とも、ご武運を」


「うん。由香ちゃんも、気をつけてね。はい、これ」


「これ……薬酒じゃない。でも、今飲んだら神力が別物になっちゃうんじゃ」


 首を傾げる由香に、美菜は笑顔を向ける。


「終わったら、一緒に飲もう。その頃には神力やらなんやら、関係なくなってるだろうからさ」


「……えぇ。必ず、必ずね」


 二人は缶を寄せると、飲み口をこつりとぶつけた。


 乾杯のように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ