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テストプレイはしない主義

 秒どころかコンマで、敏明は危機を覚えた。


 なんかすごいガクガクする。風すごい。轟く音に混じって、美菜か由香か巫女かの叫び声がする。女性らしからぬ勢いで叫んでいる。大丈夫か。特に巫女。


 灰色の何かが、高速で動いている。一瞬、ビルの影らしきものを捉えた。ほんとうに、上層へ昇っているのか。


 感傷もなく、一気に視界が広がる。きぃん、と響く音と共に、今度は平行の移動。バリバリと空気なのか木々なのか分からない音が鳴っている。


 そして。



「……無事に、着きましたね」


「おま、お前……テストプレイとか、しなかった、のか」


「エネルギーは一方通行のみ……ウジャムンガ様の伝承を信じました、樫木は、巫女です、ので……」


 着いた頃は、息すら絶えた気分だった。数分か、あるいはそれよりも長く。ようやく言葉が出せるようになった時には、着地の衝撃は既に消えていた。


「精霊が呼び出せれば、もう少し操縦も楽なのですが。いない者の話をしても仕方ありません。ほら、美菜。上層へ着きましたよ」


「うぅ、ジェットコースター……菩薩先輩の運転……」


 樫木が、シートベルトの上で伸びている美菜の頬を叩く。敏明も、由香の様子を見る。普段のしっかりした面影はなく、すっかり輪郭のない表情をしていた。よほど恐怖を感じたのだろう。同情しつつ、ゆっくりと肩を揺する。


「由香。起きろ。……朝だ」


「朝……まるで、二日酔いをしたような……その低い声はおとうさん……? あぁ、でも、おとうさんはそんなイケてるボイスじゃないわ……」


 父親、ひどい言われようである。


 やがて焦点が合う。由香は顔を赤くした。


「お、お兄さん? ちょ、ちょっと離れてくれません? あ、あなたに介抱されるほど私、弱くはふらっと……」


 慌てて立ち上がろうとするが、足に力が入らないらしい。再びシートの上に座り込んでしまう。


「樫木。気付け薬か何かないか」


 声を掛けると、彼女は美菜に薬酒を飲ませているところだった。


 巨大なボトルだった。


 美菜はまだ目を回しているのか、それとも口に入れる気力がないのか。ボトルの飲み口を、直接口にぶっさされている。ボトルの中身が減りつつあるため、飲んではいるようだが、その顔色は由香よりも悪い気がした。

「えぇ、ありますよ。こちらを」


「……ありがとう」


 ある種衝撃の光景も気にせず、樫木は笑顔で薬酒を渡してくれた。


 重い。2リットルくらいは余裕である。フタを開けると、由香に渡す。


「飲めるか」


「えぇ、えぇ、飲めますとも重っ! そして苦っ!」


 相当苦いらしい。顔全体をしかめる。根性だろうか、由香は残さず飲み干した。


「思ったより衝撃が強かったみたいですね」


「うぅ、溺れる夢を見たわ……薬酒も過ぎたるは及ばざるがごとし……」


 薬の効果か、巫女はどちらもしっかり立てるくらいには回復していた。美菜はまだ顔色が青いが、滋養強壮が効いてくればよくなるだろう。たぶん。


「ここはどこなのですか?」


「聖域近くの森の中です。ここから詰め所へ行き、潜入道具を調達した後、乗り込みます」


「それだと、時間がかかりませんか? ちょうど、聖域には私の部屋があります。万が一のために、忍び込むための道具が置いてあります。持ってきましょう」


「準備がいいんだな」


「えぇ。わたしも、反逆するつもりでしたから」


 由香は、にっこりと笑顔を浮かべた。

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