酒盛りパーティー!
「……さっきは、悪かったわね」
バーに入ると、すまなさそうに頭を下げたエナがいた。
「あんたにも八つ当たりしちゃって。あんたが悪いって訳じゃないのに」
「別に。いきなり滅亡なんて言われたら、頭がバグる奴だっているだろう」
答えると、エナは恥ずかしそうに口元を上げた。
「あの後、美菜ちゃんが来てね。わたしのために、すっごいことしちゃうから、って。身元は怪しいけれど、あの子、遙かに根性あるのね」
「あぁ。根性ってより図太い。めちゃくちゃ図太い」
「その時はまだ凹んでたんだけど。すごく真っ直ぐに言われちゃうと、ね。なんだか信用できる気になってきちゃって。いいわね、あの子。上層でもきっと人気者よ」
「そうかね。一歩間違えればハブられてそうだな」
「意地悪は言わないの。ほら、せっかく招待してあげたんだから、食べる食べる。減らず口叩いてると、全部のチキンにレモンかけるわよ」
「地味に嫌だな、それ……」
顔をしかめながら、敏明はテーブルへ進んだ。
小さいが、チキン。果物。サラダ。彩りは質素だが、香りはうまそうだ。……うまそう。久し振りの感傷だ。
「美味しそうですね。さすがバーの店主さま。栄養がつきそうです」
「あら、嬉しいわね」
「それじゃ、さっそく!」
美菜と由香、そして巫女はビール缶を取り出した。敏明はミネラルウォーターを傾けた。
「「パワーアップを兼ねた!」」
「「酒盛りよ!」」
ワイン、酒、肉、副菜、あらゆる料理……とまではいかないが、それなりの料理が並べられた。
照り焼きらしき肉の一つを手に取る。一体何の肉か分からない形状だったが、こんがりと甘辛いソースが鼻をくすぐる。
心が熱くなる。こんな気分になったのは、いつ振りだろうか。きっと、カビに埋もれているうちに忘れてしまっていた。
「かたまりの肉なんて、久し振りに見たな」
「すごいでしょ。彼、原口だっけ? に手伝って貰ったのよ。そしたらもうどこからか、肉やら野菜やらが手配されて」
「あいつが?」
「この騒動が終わったら、うちで引き抜かなくちゃね。謎のコネ持ちは貴重よ」
エナもナイフで丁寧に肉を切り分け、口に運ぶ。頬が緩む。美味しそうに食べている。仕事で何度か付き合ったが、こんな表情は初めて見た。
「用事があるとかで来てないけど。ツンデレよね。ほんとは食べたいに決まってるわ」
ボトルから酒を注ぐ。磨かれたグラスに、蛍光色の液体が溜まっていく。普段は健康に悪そうなそれは、店の灯りに照らされ、黄金色に輝いていた。
「やっぱ料理にはお酒よね。ほら敏明。ゴールデンカクテルよ、お菓子っぽくサプライズを混ぜてあげるわ! この指輪とか!」
「やめろ」
エナの笑顔を押しのけ、もう一度肉にかぶりつく。
じんわりと肉汁が溢れてきた。体力も溢れてきた気がした。
「それじゃ、勝利の祈願にビールはどう?」
「俺が死ぬ」
言い返すと、エナは呆れたように眉を寄せ、ゴールデンカクテルを一気飲みした。
その向こうでは、美菜たちが集まって騒いでいる。
「このモヒート、甘くて飲みやすいわ! 口当たりもさっぱりまろやか! 何杯でも飲めてしまいそうよ」
「それが巫女の感想か?」
「いいじゃない、お酒飲める年齢だものね。それにモヒート持ってる姿はキュートよ、由香ちゃん」
「キ、キュート……は、恥ずかしいですよ、エナさん……!」
「そうです。巫女にキュートさは必要ないのですよ。みんな同じ神の使いなんですからね」
巫女が説教すると、隣の席から男が顔を出した。
「炭酸水にミントを混ぜたやつだろ、それ? でも、男から渡されたのは飲むなよ? ひどい目に遭うからな!」
「毒を混ぜられるんですか? こわいですね!」
「怖いな! あっはっは!」
「あははっ!」
脳天気な笑い声が響いた。
敏明は顔をしかめる。同じテーブルにいる男は、どこかで見た気がする。時々声をかけてくる服屋、かもしれない。なぜそいつがここにいる。
「エナ。貸し切りじゃないのか」
「は? 貸し切りなんてする余裕、うちにあると思ってんの?」
吐き捨てられた。
改めてよく見ると、照り焼きらしきものを別の客が食べている。いつどこで聞きつけたのか、どこかですれ違ったような顔もちらほら。
小さく息を吐くと、敏明はミネラルウォーターを一気飲みした。冷たい水が通り抜けていく。消毒液の強い、雑味のある水。騒がしい喧噪。
美菜の言う、みんな、とやら。
「……友好的、ってやつなのかね」
呟いた。
人が集まっているせいか、段々温かくなってきた。




