とりあえず薬酒はおいしい
敏明の姿を見るなり、美菜は駆け寄ってきた。むしろ抱き着くくらいのスピードで激突してきた。
「お兄さんお兄さんお兄さん!」
「呼ぶのは一回だけでいいだろ」
「それよりも! えぇと、その……言いたいことたくさんあって頭がごちゃぐちゃに……」
「酒飲めばすっきりするんじゃないか」
「そうだった! ありがとうお兄さん!」
言うなり、プルタブをカシュっと開ける。見る度に思うが、なぜ霊薬の入れ物がアルミ缶なのだろうか。どう見ても大衆向けの飲料にしか見えない。
「ぷっはぁ! やっぱりお酒いいよね! 苦み、甘み、スッキリするわ!」
「そりゃあいいことだ」
適当に呟く。
敏明も報告したいことはあったが、このテンションでは聞いてもくれないだろう。
「で? 何があったんだ」
「エナさんと仲直りしたわ!」
「あいつと」
やたらと荒れていたが、話すことができたらしい。そもそも仲直りというのも、美菜がケンカをふっかけるような奴ではないから、言葉として正しいのかも怪しい。まぁ、ハイテンション故の言葉の混乱というものだろう。
「私を信じてくれるって。だから私、もう一度上層へ向かおうと思うの。ミハエル様を止めるだけじゃなくて、この町のみんなのために」
「……みんな、ね」
みんな、と括れる根性に感心半分、呆れ半分の声を出す。ほんの数日、上層で暮らした期間の方が遙かに長いだろうに、そんな短時間で愛着が持てるのか。
嫌味ではなく、不思議さすら感じる。美菜より長くこの町に住んでいるが、そんなことは考えたことがない。町は鬱陶しく、人々は煩く喧しく。消えて欲しいと願ったことはないが、続いて欲しいと思ったこともなかった。
「エナさんと話している最中、ウジャムンガの巫女、樫木さまに出会ったの。上層までの乗り物を調達してくれているらしいわ。エネルギーの補充とかで、出発は明日の朝になりそうだけれど」
「……渡りに船だな」
「文字通りね」
「俺も情報を貰ったぞ。人斬りはすごい下戸らしい」
「下戸」
「酒が飲めない。飲んだら倒れる。酒が弱点」
「そっか! そのお兄さんに、水と称して渡せばいいのね!」
「よくねぇよ。だまし討ちじゃねぇか」
「大昔の人は、妖怪を酔わせて撃ったそうよ。だかられっきとした古式ゆかしい戦法なのよ」
美菜は胸を張った。
ついでに薬酒のプルタブも開け……ようとして、踏み止まる。
「あ、決戦に使うなら置いとかなきゃね。いっぱい持ってた方が良いと思うし」
その言葉にはツッコみたくなったが、今は賛同することしかできない。あたまいたい。
「きっと同じ人間、ビールを飲んで一緒に眠ればフレンズよ」
「それ、ミハエルにも言ってやれ」
美菜は黙った。
持っていた薬酒を開けた。
ぐびぐびと飲み干し。
「……とりあえず、薬酒はおいしいわ!」
「よかったな」




