喝采を、滅びを、制裁を②
騒動にならないうちに人混みをかき分け、なんとか水道の前まで辿り着く。商店街から離れていくうちに、ざわめきは大きくなっていった。
あのミハエルとやらは詳細不明だったが、美菜の関係者っぽいので離れた方が良い。泳がされたのか、ネコの仮面には言及されなかったのが幸いだ。美菜への混乱を招かないで済む。
「敏明さん、どうしよう……い、いや、早く行動しないと……!」
美菜は走り出そうとするが、どこに行っても同じ事は分かっているのだろう。行き場無く、その場でぐるぐると回り始める。ネコの仮面のままだから、余計シュールである。
「焦ってもしょうがない。今日で上層まで行く。あいつをブン殴る。それならウジャムンガとやらも納得するだろ。それをお前が足かけにする。そして神話になる。人斬りにだって勝てるくらい安全になる。。それでいい」
「れ……冷静……」
敏明の態度に圧されたのか、美菜はぴたりと止まった。赤いポニーテールがくたっと垂れる。
「お前はいつも通り、薬酒でも飲んでればいいんだよ」
「そ、そうね! まずは一缶! おいしい! これで今日も生きていける! オッケー! って今日!? 今すぐ決行するの!?」
手にした缶を振り回す。ビールが飛ぶ。顔にもかかるが、払っている暇は無い。鬱陶しい。
「おかしいか? 外部エレベーターを使えば、上層までそんなに時間はかからないだろ。現に、由香だって一日でお前の居場所を突き止めたんだから」
「そ、そうだけど。でも、私は追われてる身だし、由香ちゃんはいつ来るか分からないし、敏明さんは見ての通りボロだし……」
「職員をブン殴る。制服を奪う。周りを騙す。バレた奴らを片っ端から血祭りに上げる。それでいいだろ」
「よくなーいっ!!! 犯罪ですっ! それは犯罪ですっ!」
両手を振り回し、美菜は飛びかかってくる。酒缶舞う少女を押しのけつつ、敏明は続ける。
「なりふり構う場合か、今」
「それでもよくないっ! ウジャムンガ様が降臨されないどころか、地獄に連れてかれちゃうよー!」
「どのみち地獄だ」
「あと一日! 期限は明日まで! まずはバーに行こうよ! エナさんに相談すれば、きっと良い案が出てくるよ! 犯罪以外の!」
「……あいつ、に」
ジンジャーエールでも飲めば、体力が付くかもしれない。
……この状況、小野はどう動くのだろうか。そして神は。今のところ、何の動きもないが……ミハエルの言葉が、戯れとは思えない。
水道管の奥、神の封じられた「社」を見る。
植物に覆われ、ただ澱んだ空気だけが蠢いていた。




