喝采を、滅びを、制裁を①
黒い影が舞う。
「ぐげっ」
神兵は潰された。持っていた端末が、黒い空へ吹き飛んでいく。同時にバキバキと音を立てて店が折れていく。
露店の支柱が舞い、掛け布が飛び、八百屋のキャベツが飛ぶ。親方を介抱していた男も、肉屋の女性も、全てが吹き飛ばされていく。敏明は美菜と共に、地面に這い蹲るのが精一杯だった。
冗談のような光景。だが、煙と埃の匂いは冗談では無い。
中空にふわふわと、舞うように浮かんでいたのは女性だった。長い金髪の髪と、白い巫女服。仮面に覆われ、表情は見えない。
「みなさん、お初にお目に掛かります。わたくしは、創世教の巫女、ミハエルと申します」
女性は両手を広げると、朗々と語り出す。集音器もなにもないのに、まるで心の中にまで浸透していくように響き渡る。
誰も声を上げる者はいない。それほど偉容と異様に溢れていた。
だが、ミハエルがそれを気にする様子はない。一層仰々しく続ける。
「これより一日後、この地を神の降臨の地とします。この町は、創世神の手によって新しく生まれ変わるのです。これはなにより光栄なこと。みなさん、喝采を」
誰も動く者はいない。敏明もただミハエルを見ることしかできない。唐突すぎる。言われたことが理解できない。
一日後。明日。生まれ変わる。
言葉だけが、ぐるぐると澱のように思考の底を回っている。
「喝采を!」
ミハエルが張り上げると、ようやく拍手が始まった。誰もが、取り憑かれたように手を叩く。
「いいでしょう。いいでしょう。大変良いでしょう!」
涼やかな声が響くほど、手を叩く音は大きくなる。歓声が上がる。熱に浮かされたように、操られたように。
「……はぁ。満足しました。あと、潜伏している巫女に通達します。貴女には一日の猶予を与えました。その間に帰宅しなさい。あなたは不要な存在ではないのですから。ついでに王を連れてきてくれると大変良いです。では」
一礼すると、ミハエルは音もなく姿を消した。
◆
煙が晴れると、誰かがウソだろ、と言い始めた。触発されるように、あちこちで嘆きと驚愕の声が広がっていく。
「降臨ってなに?」
「潰されちまうのか?」
「明日……明日って言ってたよな、あいつ」
「俺の人生終わるのか!? 冗談じゃねえよ! まだ彼女だって出来てねぇのに!」
「落ち着きなさいよ、あんなのホントのはずがないでしょ。ただの創世教の脅しだって」
「でも、親方を食べたあれ、夢じゃ無いのよね? 幻じゃないのよね?」
「なぁ、巫女と王って言ってたよな。そいつらを差し出せば、生き残れるんじゃないか?」
「バカなこというんじゃないよ! そんな高貴そうな人間が、ここにいるっていうのかい?」
黒い影。ミハエル。降臨。
混沌とした街に、統一されたパニックが広がり始めていた。




