どうしてこんなことに。マジで
そして、いざ神の降臨……と名付けられたボランティアへ。
軍手。作業着。油汚れ。茶色。とれない汚れ。
どうしてこんなことを。空想しても答えは出ない。
肉屋をしているという女性は、作業をしつつ、敏明に笑顔を見せる。
「ありがとうね。腰を痛めちゃってさ、換気扇すら磨けないときたもんだ。まったく下層暮らしも考えもんだよ。医者もバカ高いしさぁ。兄さんもそう思うだろ?」
「……まぁ」
女性が笑うたび、太いすりこぎが作業台に叩きつけられる。台の上に乗せられた肉が、どんどん薄くなっていく。
通りの奥では美菜が、針子相手に聞き相手になっている。
何故ボランティアを。なぜ。なにゆえ。ボランティアに神が宿るなら、今頃人類の半分は神と化しているだろう。
どんな暮らしをしても良いと自棄ばちになっていたが、どうやらボランティア暮らしは嫌だったらしい。
「ここでなにをしている!」
尖った声が響いた。どうやらお目付役が来たらしい。敏明は顔を上げないまま、もくもくと換気扇を磨き続ける。
「露店は違反だ! 片付けろ! 今すぐに!」
「……この前は役所の奴らだったけど、今回は神兵か。この前といい、いったいなんだってんだい」
女性が吐き捨てる。敏明は気に留めず、換気扇を磨き続ける。茶色の粘っこい汚れはやがて、薄茶の膜へと変わろうとしていた。
「おい、そこのお前。俺を無視するのか?」
怒りの篭もった声。珍しくも無い。反応する義理もない。
「ちょ、ちょっと。答えた方が良いよ、神兵に逆らうとロクなことがないよ」
「大丈夫だろ」
途端、破裂音と共にすぐ目の前の床砕けた。砕けた木が、アスファルトにまだら模様を描く。女性が短く悲鳴を上げた。
神兵は実力行使に出たらしい。心底面倒に思いながら振り向く。
以前と同じような鎧の神兵がいた。神兵は鉄兜に隠れた目から怒りを漂わせる。
「貴様、俺を無視することは何事か? まぁ、それも今日までだ。創世様からのお触れを告げに来た」
得意げに神兵は言う。背後の雑兵は、微動だにしない。
「お前らはこれから、俺たち神兵の手によって罪を浄化される。浄化された魂は天国へと向かう。下層の汚れた奴らがな、ありがたさの涙で溺れろ!」
むちゃくちゃ言う。神兵の瞳は、嗜虐心で輝いていた。いっそ哀れさすら感じさせる。周りの男が、恐れ半分、呆れたように呟く。
「何言ってんだ。いっつもいつも寝言ばっかり喚いてるが、ついに寝言になったのか? 親方、やってやれ!」
「おうよ!」
「ちょっ、あんたやめないか! 腕折られでもしたら、ここはどうするんだい!」
「神兵には煮え湯ばっか飲まされてるからな、ここで一撃ってのも悪くねえ!」
出てきたのは、筋肉の分厚い男、「親方」だった。手には重く巨大なハンマー。
「なんだその武器は。俺に敵うと思ってるのか?」
「ど、どうしようお兄さん! 巫女が巫女として巫女だから止める!?」
「……」
ここで美菜の身分をバラすのはまずい。敏明が次の状況を待った。
親方は、黙ってハンマーを持ち上げる。一気に距離を詰めると、神兵の鉄兜を揺らす。
そしてそのまま、食べられた。




