エメラルド・ジンジャーエール・王の帰還②
汚れたシャツ代わりのジャージを捨てる。代わりに、Tシャツに腕を通す。原色に近い赤。少し眩しいが、これくらい派手な方がやる気は出るだろう。
コートは洗濯屋に出した。こころなしか洗濯屋の顔が歪んでいたが、凄むと渋々了承してくれた。何ヶ月……いや、何年ぶりにコート洗ったっけ。
Tシャツは安物だったが、丈夫な作りで多少引っ張っても破れそうにない。商店では珍しい掘り出し物だ。買って帰る時、聞き覚えのある声が耳を刺した。
「なんでだ! 敏明! 俺の店以外で購入とはいい度胸」
無視した。
ついでに。
「どうどう? 敏明さん。惚れ直しちゃった?」
「年下に惚れる趣味はない」
美菜の服も新調した。由香の持ってきた服はあったが、どうしても美菜が上層に居た頃の服装だ。服装含め、美菜の情報は神兵に知らされているだろう。バレる可能性が高い。その上、生地もデザインも、下層街には不釣り合いな上質ぶりである。この場所で服を揃える必要があった。
白いブラウスに、青いパーカー。薄い桃色のスカート。焦げ茶のスニーカー。完全に一般女子のそれだった。どれも着古した上、いかにも安物といったデザインだ。下着だけは本人の希望もあり、由香が持ってきたものを使うそうだが、それくらいなら大丈夫だろう。
……ちゃんと確認したから大丈夫だ。もう大穴などは開いていない。
コートを確認する。下層に来てからずっと着ていたが、これもボロボロになったものだ。斬られた部分を見ると、一直線に裂け目が走っているが、断面はきれいだ。針と糸があれば修復できるだろう。
敏明のコートを、美菜はまじまじと見つめる。
「うん?」
「どうした。まだ汚れでもついてるのか?」
「うん、よく見ればこのコートも上等なような……いや、やっぱメイドイン下層のような……」
「勝手にしろ」
コートを広げると、一気に羽織る。柔らかい肌触り。以前から気に入っていた。いつからこんなに粗末に扱うようになったのだろう。ここに来てしばらくは、大切に、していたはずなのに。
「やっぱ、こぎれいにするとイケメンよね。美形の護衛を連れるお忍びの巫女! カッコよくない?」
「ロマンでメシは食えねぇ」
自分で口にしながら、耳に痛かった。
「というか、お金あったんだね」
「貯めてた分はな。これですっからかんだ。後には退けない」
「うん、私もそのつもりよ、お兄さん! 創世教の人たちに捕まえれば、どっちみち生贄にされちゃうからね!」
薄い灯りが照らす中、美菜は微笑んだ。
「ところでもう一人はどこ行った?」
「帰りました。でも明日か明後日、また来てくれるそうですよ!」
「……わざわざ、上層からか」
「神力を強める間は、しばらく単独行動が認められるの。いやー便利な時代になったものね!」




